第5話 採掘コロニー
採掘業者の朝は早い。
なんて言ってみたけど、そもそも朝なのか昼なのかもわからないんだけどね。
起きた時が朝ってことで良いんじゃないでしょうか?
とか提案したんだけど、人間は規則正しい生活が必要とか説教されて、ナヴィさんに起こされることになりました。
わぁい、美少女が毎朝お越しに来るよ!そんな青春が俺にもあったのか!?
「現実はなんか丸いおもちゃが寝袋のあたりをつんつんしているだけですがね。」
『おはようございます。ご主人様。とか言うと上流階級っぽい雰囲気が出ますか?』
「そっすね。」
そんなわけで、寝袋から出たら無重力体操です。
平均的な同世代に比べて運動能力が低いし、おそらく骨も弱いだろうとのこと。
検査機器があったらさぞや恐ろしい数字が出てくるんだろうな。
重力下で必要な最低限の筋力も無いそうなので、疑似重力のある一般的な施設に入ると骨折しかねないらしいです。
なので、まずは筋トレしつつ骨密度を上げるための訓練をするんだそうです。
「なんかそんな気はしてたんだよね。前世でも見たことないくらいに腕とか細いもの。」
『骨が細いと言うより、その細さは栄養失調です。』
「そっちかぁ。」
優秀なパートナーに完全管理されているのが楽でいいなぁ。とか思っちゃう俺はダメ人間なのかもしれない。
『些事はすべて任せてしまうのが効率的な人生です。』
「いつか、ダメ人間に育て上げられそう。」
ラジオ体操の無重力版みたいな運動を軽くこなす。
全身くまなく動かすのであったまるけど、壁を押すとか、手足をお互いに引っ張るとか、アイソメトリック式な筋トレになるけど、これほんとに効果あるのかな?
ふわふわと飛んでくる玉をキャッチしつつ、筋肉痛にもなっていないし、汗も出てないんだよなぁ。
なんて考えつつ、栄養チューブを飲み込んで朝食完了。
歯磨きをして顔を洗うというか、清拭して身だしなみ完了です。
今日の課題を始めよう。
短期間の詰込み型学習のおかげでなんとか文字の読み書きができるようになったんだよね。
その上で、初級のものではあるが船舶免許の受験に挑めそうなくらいに学力が上がってきているのだ。
さらに、ナヴィさんの努力のおかげで、最寄りの採掘コロニーの位置が判明した。
すでにメリットとデメリットはお互いに話し合っている。
デメリットは、採掘コロニーがこの辺の犯罪組織のテリトリーとなっており、身元がばれて始末されるかも?とか。
ナヴィさんの生存がばれて、確実に処分しに来るかも?とかだね。
どちらにしろ、リスクを恐れてばかり居てもどうにもならないのも事実だ。
勉強していれば船が出来上がっていくわけじゃないからね。
どこかでリスクを抱えながら勝負するときがやってくるんだよ。
今がそういう時だと言うことだね。
「それにしてもよく見つけたね?」
『水ステーションで張り込みをして、海賊船以外の利用者の向かう先から絞り込みました。』
「思ったよりリスキーなことしてるし。」
ゴミ処理船の向かう方角を覚えていて、向かってみた俺が言うことじゃないか。
手っ取り早い手段でもあるしね。
ドローンを全方位にばらまいてるのかと思ってたよ。
ナヴィさんが使っているドローンって、使い捨てのモノを修理して無理やり使ってるせいか、半分くらい帰ってこないんだとか?
そんなドローンだってゴミ捨て場に無限に転がってるわけじゃないし、物量を生かせないのならある程度あたりはつけて実行に移さないとかな。
そんなわけで準備を整えて、採掘コロニーに向かうことになった。
スクーターだとで片道1日くらいかかるらしい。
しかも、推進剤とか宇宙服の酸素量だとか電力だとか色々と足りないので、追加ブースターを付けて時短をはかるんだそうです。
ミサイルみたいな形をしているスクーターに補強材を取り付けてそこにブースターを固定している。
さらに、慣性航行中は小型の救命カプセルに入って宇宙服の酸素とバッテリーを節約する予定だ。
『出発から1時間もしないうちに通信圏外になるので、残りは練習した通りでお願いします。』
「うん。頑張るよ。」
追加ブースターは、往復の加速用と減速用で4セット必要となるが、故障する可能性も高いので予備も持っていく。
さすがに爆発するとかは無いだろうけど、予定の速度に届かないとか、そもそも稼働しないとかはあり得るんだって。
拾い物だもんね。
ブースターがこんな細いので大丈夫か不安になったけど、加速度が高いと俺の負担が大きすぎると判断したみたい。
ご迷惑をおかけします。
ナヴィさんの作成したナビに従って方位を設定して、加速開始。
シートに押し付けられて半分気絶しかけながら10分ほどの低加速で速度を稼ぐ。
大雑把な方角しか表示できないスクーターではあるが、採掘コロニーに近づけばビーコンをキャッチできるだろうとのこと。
往路加速用のブースターの停止を確認後、異常がないことを改めて確認してから救急カプセルに入り、受験勉強の続きをする。
脱いだ簡易宇宙服にはバッテリーをつないで充電しておく。
予習をしっかりとするつもりだったんだけど、気が付いたら寝てしまっていた。
あの程度の加速Gでも結構負担だったのかな?
今なら普通の旅客機の離陸Gでも気絶しかねないなぁ。
こんな小さなカプセルでも生命維持装置は偉大である。
外はマイナス3桁の空間だけど、カプセル内はアンダー一枚で過ごせるほどに暖かいし、微風を感じるほどにしっかりと二酸化炭素を吸着して酸素を生成してくれている。
無重力空間では対流が起きないので、人が吐き出す二酸化炭素濃度の高い場所ができてしまうんだそうだ。
なので、循環システムは強力で、わかりやすく空気をかき混ぜる。
寝るときに寝袋に入って、壁に固定するのはただ浮かんでいると吸気口に引っ付いてしまうからなんだよね。
予定通りの時間に採掘コロニーに到着した。
往路減速用のスースターを点火して加速Gにぐったりしつつ、十分に減速できたことを確認してから180度回頭するとでかい採掘コロニーが見えた。
その周囲には映画で見たような様々なデザインの宇宙船が飛んでいる。
何もかもがすごくデカイことに感動した。
これぞSFって実感した。
身動き取れなくなるので中には入れない。なので、最寄りの空間に設置された無重力桟橋エリアのブイが点滅している場所にスクーターを停めさせてもらう。
中に入るのは使用料も高いし、そもそも身分証がないと入れないからね。
受験料については、ナヴィさんの口座が生きていたので賭けには勝った。
ナヴィさんの口座から引き落としを行い、停泊が認められたからね。
時間経過で使用料が増えるので、ちゃっちゃと用事を済ますことにする。
この距離でもオンラインで受験が可能なのだ。
ゲストアカウントを発行してもらい、各種登録を素早く済ませて船舶試験の初級を受験する。
受験とはいってもオンライン試験なので、やろうと思えばカンニングし放題なんだよなぁ。
やらんけど。
見直しまでしっかりとやってから回答を送信した。
錨泊と係留方法、操舵方法や離・着岸の方法、星系内航行や遭難時の種類と処理、星系図の知識や見方、宇宙船の保守点検や取り扱いなどがバラバラに小テストみたいになっていて、それぞれ受けていく形式だ。
どれも基本的なことで、実際の現場では機械任せで済んでしまうような内容なんだとか。
数時間かけてしっかりと答えた結果、すべての小テストに合格した。
「ナヴィさんやったよ!身分証ゲットだぜ!」
あとは購入すべき最低限の資材を注文して係留地点まで届けてもらう。
ゴミ捨て場ですべてのものが手に入るわけじゃないからね。
受け取ったばかりの資格のIDをスクーターに設定して、身分証用のアカウントを発行しておいてもらう。
次回からはゲストではなく、この資格IDを元にした身分証で手続きを行うことになる。
忘れちゃいけない大事な用事として、ナヴィさんの所属する機械知性共同体へのメールを送信する。
これが最も金がかかるのだ。
通常、ギルド経由の通信は時間がかかったとしても比較的安全で確実な手段なんだけど、これだけ辺境だと安心できない。
タブレット端末で送信してドバっと減った口座残高にドキドキしつつ、届いたばかりの資材をスクーターに固定する。
停泊料金を払って、採掘コロニーを離れていく。
船ですらないスクーターなので、とったばかりの船舶免許は関係ないよね。
免許センターに自転車で向かうようなものなのかもしれない。
帰りにもブースターで加速して、方角の確認とブースターの停止を確認すると救急カプセルに入ってすぐに寝てしまう。
重力ってほんとキツイです。
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