第五話
ランヴァルド様からの手紙が届いたのは、茶会から三日後のことだった。定時を迎え帰路につこうとしたエルクに持たせてくれたらしい。
「手紙はくださるだろうとは思っていましたがこの早さ。これは中々の好感触では?」
「それもあなたとドワイト様の脚本通りでしょう。経験の少ない姉をからかうのは止めなさい」
そうでなければこんな頭の色と性格が不釣り合いなアンバランスな女を気にかけるわけが無いのである。
「姉上は美人なのですから。もっと自信を持ってください」
「いい加減お医者さまにかかりなさい。自己愛が過ぎて自分に似た顔立ちの姉を賛美するなんて……」
「では私は醜男ですか? 似ているのなら姉上だって美しい。簡単な理屈では無いですか」
「男性と女性で好まれる顔立ちはそれぞれ違います。あなたは適格で私は不適格。それだけです」
寡黙は無愛想。理智は頭でっかち。情熱の赤は魔女の髪。
「……あなたにこんなことをさせて、ごめんなさい。どうして私はこうなのかしら」
エルクがランヴァルド様との疑似恋愛なんてことを言い出したのも、婚約から五年経ってもロベルと上手くやれない私のせい。
昔からそうなのだ。辛気くさい顔をして、弟に心配をかけて。どうして私はうまくやれないのだろうか。
政略結婚は文化が開かれつつある王国でも珍しいことじゃない。実際私たちの両親だってそうだ。
お互いを認め合い、妻として夫としての役目を果たし合う。たとえロベルの協力が得られなくても自分の領分を果たせばいい。それだけだ。
「私は姉上に幸せになって欲しいだけです」
弟と私は鏡合わせのように似ている。赤い髪に一房混じる白髪。目付きのきつい菫色の瞳。同年代のものに交ざるといささか高い背丈。
ここまで一緒なのに、神はどうして私に弟と同じ優しい性格を与えてくれなかったのだろうか。それとも、私にひねくれた性格を与えた代わりに弟を優しくしてくれたのか。
「手紙をちょうだい。明後日にはあなたに返事を預けますから」
エルクから手紙を受け取り自室へと急ぐ。廊下の絨毯に足を絡め取られそうだった。
扉の隙間から滑り込むように入り込みうずくまる。
明日にはもう少し、優しい自分になりたい。夜明けの度に生まれ直すことができたなら、もっと己を好きになれる気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます