マザーグースを知らないままで

菫野

マザーグースを知らないままで

結氷期ゆきかへりして峠道 恋せぬひととあのとき知つた


大叔父らあつまるたびに天婦羅を塩で食べたる伯母のゐたこと


瞼伏せわが子を見つむ産褥の友くび長き聖母のごとし


書架に差す西日かひなを斜に切り浮かぶ手さがすマザーグースを


星攻めて来たる夜なり食堂の玻璃といふ玻璃かがやきゐたり


水栓をしめる音するスピンドル銀河ひったり耳をつければ


ちひさな輪おほきな輪とでできてをり一生ひとよとはさも水紋に似る


夜駆けるペガサスを見きかみくだくトローチ喉を落ちるあひだに


ゆるやかに離ればなれに細長きグラス指紋のあはく残れる


うすぐらきわが部屋に逃げ来たるかなはつかかすかに震ふ月光

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