フェアリーゴッデレラ
春野 一輝
12人の王子と城ごとプリンセス
家でお留守番のシンデレラは、窓の外に広がる美しい城を妬ましく見ていました。姉も継母も、舞踏会と呼ばれるシンデレラには分からぬ場所に行ってしまったのです。シンデレラは自分を置いてけぼりにされ、遠くの城で良い思いをしている姉と継母を許せませんでした。
「こうなったら城ごとプリンセスにしてやる!!」
ギリギリと歯ぎしりを立てながら、窓の外を睨みつけていると、背後から声を掛けられます。
「その意気よ! シンデレラ!」
「あなたは誰!?」
家に誰もいなかったはずの自分の部屋に、突如現れた存在にシンデレラは驚きます。
「私はフェアリーゴットマザー! あなたにプリンセスになる魔法を教えるわ♪」
「なるほど! 理解した!」
手で星のステッキを回すフェアリーゴッドマザーから、シンデレラはステッキを奪います。そして、ステッキをフェアリーゴッドマザーに向けて、こう言い放ちました。
「お前がプリンセスになれ!」
妖精の神秘的な粉が光り輝きながらステッキから放たれ、フェアリーゴッドマザーが光に包まれてしまいました。
「きゃあああ!」
光りが収まると、美しいプリンセスがそこに現れたのです。
「私がプリンセスに?!」
自身の身体を見て、驚くフェアリーゴッドマザー……いいえ、フェアリーゴッデレラ!
ニヤリと強かな笑みを浮かべるシンデレラ、杖を肩にぽんぽんと当てながらこう言います。
「プリンセスの出番はあなたに任せた! 置いていった継母どもに思い知らせてやりましょう!」
「ええ!?」
ダッカダッカダッカと蹄の音が舞踏会に響きます。
「暴れ馬だ! 暴れ馬と美しいプリンセスだーー!」
カボチャの馬車の御者として会場に乗り込んだシンデレラ。ステッキを構えながら、驚き戸惑う舞踏会の真ん中にいる王子の横をすり抜けて、ドリフトして止まりました。
「王子と継母よ! 覚悟しろ!」
そう宣言し、御者席に立ち、ステッキを王子に向けました。
王子は剣を取りだし、シンデレラに刃を向けます。
「何者だ!? 会場を荒らすやつは!」
「私はシンデレラ! お前をプリンセスと結婚させに来た」
「「「「「「「「「「「「何だって!? 僕と結婚」」」」」」」」」」」」
シンデレラの言葉に12人いた王子は仰天します。
ドレス姿の継母が、王子とシンデレラの間に割り込み立ちふさがります。
「シンデレラ! なぜここに!?」
美しい恰好をし、美味しいものを食べたとみられる継母が、シンデレラは憎くてたまりません。シンデレラは自分が置いて行かれた怒りで、ステッキを持つ手が震えました。
「お前たちだけで城に行った罰だ! お前もプリンセスになれ!」
ステッキから妖精の神秘的な粉の光が放たれ、継母も光の中に包まれます。
「きゃあああ!」
一段と若くなった継母は、乙女の仕草でその場にへたり込みます。
か弱いプリンセスになってしまったのです。
侍女たちが駆け寄ってきて、若い継母プリンセスを支え、シンデレラを睨んで言いました。
「シンデレラ! お母さんになんてことを!」
「はははは、私は止まらない! 城ごとプリンセスにすると決めたのだ!」
シンデレラは復讐の獲物に、次女たちを選び、ステッキを向けました。
「「「「「「「「「「「「そこまでだ、すべてをプリンセスにするのはこのプリンスが許さない!」」」」」」」」」」」」
次女と継母プリンセスの前に出て、王子たちはシンデレラに剣で挑みかかりました。戦いにやってくる王子たちに、不敵な笑みを浮かべます。
そして、杖を一振りしました。
「プリンセスを1人だと思うなよ! いけ! 馬プリンセス! いけ! カボチャ馬車プリンセス!」
シンデレラの乗っていたカボチャの馬車が、妖精の神秘的な粉に包まれてプリンセスに早変わりします。赤とオレンジのドレスを着たカボチャ馬車プリンセスと、色つやの良い茶色のドレスを着た二人のそっくりな馬プリンセスが出来ました。
シンデレラはその二人を王子に向かわせます。そうなると、王子は剣を収めるしかありません。
「「「「「「「「「「「「こんなにプリンセスがいたら僕は守りに徹するしかない。何てやつだシンデレラ!」」」」」」」」」」」」
「これで次女を加えれば6人のプリンセスが生まれた。残り3人! お前たち王子の中から選ばせてやる! この美しい城をプリンセスにさせられたくなければ、お前がプリンセスとなれ王子ィ!」
シンデレラにはステッキを持った時から、1つ野望がありました。
それはこの美しい城ごとプリンセスにしてしまうことです。そうすれば、この城に近づく者はいなくなるでしょう。舞踏会もなくなります。しかし、今のシンデレラは怒りのあまりに歯向かってくる全ての王子を破滅させてやろうという気持ちにさえなっていました。
こうなっては復讐に飲まれ、目的を見失っているも同然です。
「もうやめて! もうめちゃくちゃよ!」
シンデレラが行う舞踏会の惨状に、悲痛な訴えを言うものがいました。
「ゴッデレラ……裏切る気なの?」
そう、馬車がプリンセスになり、自動的に馬車から降ろされたフェアリーゴッデレラでした。
「元はと言えば私が与えた力。でもそれは12時になってしまえば消えてしまう弱い一夜の夢の力なの! そのステッキに、お城をプリンセスにする大きな力なんてないのよ!」
「ゴッデレラ……」
シンデレラは杖を落とし、その場にへたり込みます。
「そうなのね。でも、もう身バレしてしまったから、二度と元の姿では舞踏会に出れない。私はただ、舞踏会で踊っているお姉さんやお母さんがうらやましかっただけなのに」
シンデレラは涙を浮かべ、それを自分の手で拭います。
継母プリンセスと次女がシンデレラの手をとって慰めました。
「そうだったのね。気づかなくてごめんなさいね。シンデレラ」
「ごめんね、シンデレラ」
「うん、ごめん」
シンデレラが顔を上げると、申し訳なさそうにしている継母と次女が居ました。
そう、シンデレラは気づきます。彼らもシンデレラに辛い思いをさせるために、置いていったわけではないということを。
それに気づいたシンデレラの冷たい復讐心が、温かい気持ちで溶けていきました。
「王子さま達、舞踏会を台無しにしてごめんなさい。私が悪かったわ。もう、他の人をプリンセスにしたりはしない。約束する」
4人は抱きしめ合います。12時の鐘が鳴り、かかっていたプリンセスの魔法が解けていきます。
「さあ、帰りましょう。魔法が全て解ける前に」
フェアリーゴッデレラは優しく4人に語り掛けます。
シンデレラは一度フェアリーゴッデレラに杖を返し、再びカボチャの馬車をステッキの魔法で作ってもらいました。
皆でカボチャの馬車で城を去る際、シンデレラがカボチャの窓から顔を出して言います。
「次は変身して来るわ! 誰か分からないように」
馬車からシンデレラのボロボロになった靴が投げ捨てられました。
それは今までのテロリストとしての犯行声明であり、王子に対する見つけてみろという挑戦状でした。
懲りてないシンデレラの精神に、度肝を抜かれるようなときめきを王子たちは受けます。
「「「「「「「「「「「「なんて、パワフルなんだ!」」」」」」」」」」」」
その夜から、舞踏会では厳重態勢が敷かれ、その中をくぐり抜け変身したシンデレラの美しいプリンセスが十二人の王子と代わる代わる踊っていると言い伝えられています。
王子は惚れたテロリストの結婚相手を見つけるために、ボロボロの靴と合う女性を舞踏会の中で探しているようです。
めでたしめでたし
フェアリーゴッデレラ 春野 一輝 @harukazu
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