【一話完結】追放されたフェアリードラゴン使いの農家が勇者として拾われる件

@gi-ru777

第一話 陰謀の始まりとフェアリードラゴンの翼

「被告人フェーンリック・レーン。本件につき、貴公に落ち度なしと認め、無罪を言い渡す」

 俺は軽く笑った。当たり前だ。俺に落ち度なんてない。

 貴族親子は悔しそうに顔を歪めたが、裁判官が「身分の差は関係ない」と突き放すと、黙るしかなかった。

 農場の損害を考えると全然スッキリしないが、とにかくこれで一件落着だ。

 裁判所を出ると、オレンジ色のフェアリードラゴンが、夕焼けを映すように輝きながらばっさばっさと翼をはためかせてきた。ドラゴンは地面に降り立ち、俺の頬にスリスリして甘える。

「おぉ。心配してくれたのか? 無罪だよ、リデル。俺たちは何も悪くないからね」

「ギャオス」

「リデル、行こう。今日はこのまま農場に帰る。もう一仕事しなきゃな」

 リデルは嬉しそうに翼を広げ、一気に空高く舞い上がる。俺もその後を追い、農場へと向かう足を早めた。


 さて、ここからが大変だ。農場はあの貴族のせいで荒れ、モーモンも傷を負った。大工の手を借りて何とか修理しているが、この先の需要を考えると不安が募る。

 魔王の危機もなくなって「家畜や穀物が育たない呪い」の呪いが解けつつある今、魔物農家は廃れる危機に直面している。

「魔物料理の需要は減ってきたが、お前さんの作る乳製品はまだ人気だよ」

 大工は俺の肩を叩いて励ましてくれた。リデルも俺の寂しい顔を察してか、俺の頬をスリスリと頭で撫でまわす。

 俺はモーモンの傷の具合を確認するために、リデルを呼び寄せた。

「リデル、頼む。この子の様子を見ててくれ」

「ギャオス!」

 元気よく答えたリデルは、モーモンのそばに寄り添い、優しく頭を撫でた。その仕草に安心したのか、モーモンが落ち着きを取り戻す。

「これで一安心だな」

 辺りが夕暮れに染まり、静寂が農場を包む。突如、遠くから耳をつんざくような叫び声が響いた。

「敵襲だ!」

 山道の向こうから炎をまとった矢が飛んできた。次々と農場をかすめる矢を目で追いながら、俺は叫んだ。

「全員退避! 早く!」

 村人たちは驚きながらも途中で逃げ出し、俺はリデルとともに敵に立ち向かった。

「勇者崩れのフェーン! ここが貴様の墓場だ!」

 俺の目の前に現れたのは、貴族の子供たちだった。シュトルツェ王子の勲章をつけた馬に乗り、恐怖に顔を引きつらせながらも必死に突撃してくる。

「おいおい、貴族の坊ちゃんがこんな場所で戦うなんて、正気かよ……」

 さっきの貴族のいたずらといい、どうしてこう災難が続くんだ。

 リデルが炎を吐き、敵の馬を威嚇する。それだけで数人が怯えて馬から落ちた。

「フェアリードラゴンが危険だ、勇者制度なんて無駄だと世論を煽るには、農場を襲撃させて俺たちを悪者に仕立て上げるのが手っ取り早いんだろうな」

「ギャオス!」

 リデルも俺の苛立ちに呼応するように吠えた。

 彼らは馬で突撃しながら高火力魔法を俺にめがけて連発しているが、一発も俺に命中しなかった。むしろ、逃げ惑う自分の味方に次々と命中して被害を拡大している。

 次第に彼らは魔力切れを起こし、俺に剣で攻撃をする前に力尽きて次々と落馬して倒れる。

「俺を倒す前に力尽きるなよ」

 子供たちが倒れたあと、遠くから再び槍兵の集団が迫ってくる。シュトルツェ派の軍隊だ。

「……ちくしょう、子供まで使って戦争ごっこかよ!」

 胃がムカつき、剣を握る手に力が入る。こんな連中を相手にしている暇なんてない。でも放っておくわけにもいかない。

「リデル、威嚇でいい。全員、足を止めろ!」

 辺りを見回せば、見慣れた農場が騎士たちの甲冑で埋め尽くされている。五十人。いや、もっといるか。

「次の王はシュトルツェ様だ! ドラゴン使いなんぞ皆殺しだ!」

 自分たちが王子の道具だと分からず勝ち誇る彼らがなんだか哀れに思えてきた。

 ここを切り抜けなければ、俺たちは終わりだ。

「フェーン。助けに来たよ」

 頼もしい女性の声が聞こえたと思ったら、次々と攻撃魔法の弾幕がシュトルツェ派の軍隊に降り注ぎ撃退していく。

 見えたのは、こちらに向かっていく集団だ。人間やホビット、オーク、エルフ、ドワーフと多種多様な種族が同じ鎧を身にまとい、洗練された動きでこちらに向かっている。盾の輝きには異国の紋章であるカーガプルトン王国のキメラが刻まれていた。

「カーガプルトンの使者……助けに来てくれたのか」

 夕焼けを背に現れたのは、背中に燃え上がるような羽を持つ異国の使者だった。彼女の名はクロム。ホビットとフェニックスの血を引く異形の戦士である。

「やぁ、フェーン!大変だったみたいだね。でも安心して。後は私たちに任せて」

明るい声とは裏腹に、その瞳にはどこか孤独の影が見える。

「あの異国の戦士が何故ここに?」

 周囲の視線が彼女に集中する。洗練された異国の部隊はシュトルツェ派の部隊と同等の戦力だが、それでも彼らにとっては大した敵ではなく、他のメンバーが一斉に敵を圧倒する。

「この寄せ集めの軍隊風情が!」

 騎士団長らしき男が滑空してきたクロムに斬りかかろうとするが、瞬時にかわして蹴りで騎士団長を蹴り飛ばす。

 この一瞬で起きた彼らの連携の取れた攻撃に、俺とリデルは思わず見惚れていた。

「ク……! まさか、あの寄せ集めの国の軍隊が絡むとは」

 声のする方へ視線を向けると、悔しそうな表情をしたシュトルツェ王子がいた。筋骨隆々とした体格、鋭い目、金髪の若いハーフドワーフ王子。

「ふん、まぁ目的は達成したから良しとするか。今は王になる事が先決」

 シュトルツェ王子は撃退された自軍をみて苦虫を噛み潰したような表情になる。

 彼は未だ王位を継承できずに苛立ち、執念深く権力を狙っている。

「全軍撤退! 体制を立て直す。フェーン。次に会うときは居場所が無いと思え」

 こうして、シュトルツェ派の軍隊は負傷した兵士を急いで担いで退散していく。

「そ、そんな……シュトルツェ閣下。私を置いていかないでください」

「ま、まだ戦えます! 御慈悲を!」

 今にも泣きそうな悲痛な声で貴族の子供たちが王子に助けを求めるも、騎士団らは無視していった。何処までも腐ってやがるんだ。 

 俺は握り拳を作って怒りを抑える。

「フェーン、久しぶりだね」

クロムがこちらの言語で気さくに話しかける。

「久しぶり、クロム。わざわざ来てくれてありがとう。……ただ、こんな状況で迎えるのは不甲斐ない限りだが」

 俺は頭を切り替えて挨拶する。

「いきなりの事でびっくりしちゃったけど、フェーンは悪くないよ」

 クロムは俺に笑顔を振り向ける。

「フェーン。我が王からの伝言なんだけど『今回、注文したモーモンが死傷した件はとても残念に思っている。だが、貴方の事を気に入っているから全力で守る』ってさ」

「そうか。クロムの所の王には感謝と謝罪を伝えてくれないか?」

 今回の件で俺に非がないとはいえ、モーモンのミルクや肉を提供出来ない事は残念だ。せっかく丹精を込めて作ったのに、あの非道な王子の妨害が無かったらと思うとやるせない。

「分かったよ。それと王がフェーンに会いたいって言ってたよ」

 クロムの言葉に俺は目を丸くした。

「クロ厶の所の王が……俺に?」

「そう。フェーンさんの魔物研究と、この農場の噂を聞いて、興味を持っておられるようです」

「それは光栄だな」

 あの大工の言った通り、俺には助けてくれる人がいるみたいだ。自然に俺の表情が柔らかくなっていく。

「それと、前々からシュトルツェ王子の動向を探っていたけど、密かに魔族と密会しているね。最悪の場合、王の暗殺と魔王復活の可能性が」

 やはり、そうか。どうりで、あの騎士団にわずかな魔族の気配がすると思った。今すぐにも止めに王の元へ行きたいが、まずはモーモンと見捨てられた貴族の子供たちの手当、そして自分たちの回復が先だ。

 クロムの部隊は俺の農場の修復と貴族の子供たちの治療を手伝ってくれた。

 エルフとノームはモーモンや貴族の子供たちの治療、ドワーフと人間は農場の修復、ホビットとコボルト、ケットシーは俺が育てている他の魔物のケア、監視とそれぞれテキパキとこなしてくれた。おかげで、農場の再開の目処が予定よりも早く再開できそうだ。

 俺は、彼らに感謝の気持ちを示すために予備の備蓄やモーモンのミルクの準備をしていた。

 こんな王子と貴族の嫌がらせでしんどかったけど、助けてくれる人が異国の国にいてくれたのは嬉しくて涙が出そうになっていた。

 この魔物農業を続けて良かった。

「何故我らを助けるんだ! 我らはフェーン暗殺に失敗した騎士団だ」

 俺がクロムの様子を見に行っていたら、クロムが貴族の子供の治療と説得をしていた。どうやら貴族の子供達の中には治療を拒否している子もいるようだ。

 クロムは、彼らに対してシュトルツェに利用されただけで見捨てられた事を丁寧に説明する。すると、子供の一人が衝撃的な発言をする。

「でも、自分たちはフェーンを討ち取ったら孤児の僕らは貴族になれるって言われたんだ……」

 は? 貴族の子供だけじゃなくて孤児の子供混じってたのかよ。俺は持っていたミルクを危うく怒りでぶちまけそうになった。

「私も昔、同じことを言われたよ。『お前は異国の珍しい存在だ。特別な未来が訪れる』って。……でも、あれはただ私を利用するための言葉だった」

 クロムの表情が一瞬だけ曇るが、すぐに力強い声に変わる。

「特別な未来はね、人に与えられるものじゃない。自分で掴むものなんだよ。あの王子は、君たちを使い捨てた。それが、彼のやり方だ」

 子供たちが動揺し始める中、クロムは俺に目配せし、続ける。

「それに、今ここにいるフェーンや私だって、過去に利用されてきた。でも、自分で道を選んだからこそ、こうして君たちに真実を伝えられるんだよ」

 彼女が手を差し出し、孤児の子を真っ直ぐ見つめる。

「どうする? これからも利用されるだけの人生を送る? それとも、自分で未来を切り開く道を選ぶ?」

 彼らは答えなかったが、ひとりひとりの目は真剣だった。

「お疲れ、クロム。彼らの世話をしてくれて」

「ありがとう。フェーン」

 クロムは笑顔で俺の用意したココアミルクを受け取る。

 子供たちがリデルと笑顔で遊んでいる様子を見て、怒りが少し和らいだ。でも、奴への怒りは消えない。


 翌朝、王の使者からの要請で俺とクロムの部隊は王子に見捨てられた子供達を連れて王のいる城へ向かう事になった。使者によると、今回の件に加えて奴は魔族と密会しているらしいから探りを入れて欲しいとの事だ。

 しかし、城下町の様子がおかしい。

「民衆よ、どうか耳を傾けてくれ! 我らの国にドラゴン使いがいることを誇りだと感じる方もいるのは確かだ。しかし、過去の歴史を見てください。七五年前。魔王軍との戦争で、ドラゴン使いの攻撃によって数千人の命を失った歴史を! いくら小さいフェアリードラゴンでも一度暴れたら町が一つ滅ぼす力を持っている」

 よく見ると、城下町の広場であのクソ王子が声高々に演説していた。

「見ろ! これがドラゴン使いの実態を!」

 奴の演説を聞いている民衆の前に、酷い怪我をした子供を前に差し向ける。包帯を雑に巻いただけでろくな治療をしていない様をみて、隣にいたクロムが絶句する。

「昨日、フェーンリック・レーンという男が、我が貴族の子供を傷つけ、農場を荒らし、自らの利益のためにドラゴンを操っている。しかも、他国の使者と共謀し国家転覆をねらっている! このような男をこのまま放置すれば、この国は乗っ取られるであろう。 彼を信じてはならない。彼らドラゴン使いを追放し、我々の国の安全を守るべきである!」

 酷く怪我をした子供をみた民衆がざわめき、憎悪の感情を抱き始める。

「ふざけるな! お前が仕向けた事だろうが」

 俺は思わず、怒鳴り声をあげた。民衆は俺たちに注目するが、その目線は針を刺すような痛いものだった。だが、虫の息の子供の事を思うと無視なんて俺には出来ない。

「何を言おうか! フェーン。貴様は何の罪のない子供を痛めつけてなんの罪を感じないのか!」

 奴の言葉に呼応して貴族や民衆が俺たちを囲む。彼らから罵声と殺意の目に晒されながらも俺は無視してシュトルツェ王子に近付く。

「昨日お前が俺の農業を襲ったのが発端で、貴族と孤児の子供を見捨てて逃げただろ! しかも逃げてる子供に攻撃して」

「奴の戯言を聞くな! 見ろ、この惨たらしい子供の姿を! 奴を追放すべきだ!」

「そうだ、そうだ! 奴の蛮行を許すな!」

 クソ王子は再び民衆に酷い怪我をした子供を見せて焚き付ける。俺の言葉に耳を傾ける民衆はおらず、貴族も騎士団も武器を構えて徐々に詰め寄ってくる。俺は自分の疑いを晴れるよりも今にも死にそうな子供を放って置けず、王子を攻撃して救出する準備をする。

 この距離なら、リデルを突っ込ませてあの子を救出できるが、あの子は風圧で耐えられるか?

「フェーンの言ってることは正しい!我らはこの目でみた」

 突然の子供の叫びに、民衆は声のする方向へ目線を向ける。みると、昨日、俺たちが治療した貴族と孤児の子供達だ。

「シュトルツェ王子は……あの農場を襲うよう命じられました。でも、それは父や王子様に従うためでした……。 けれど、戦いの最中、彼らは私たちを見捨てました。味方の攻撃で傷ついた私を、彼らは放置して……」

「辞めろ! この子は奴に脅されて言されてるだけだ!」

 シュトルツェ王子は血相を変えて貴族の子供の声を遮ろうとするが、民衆は子供の声に耳を傾ける。


「助けてくれたのはフェーンさんでした。彼らは我らの傷を治し、我らにこう言いました。『もう誰かに命令されるために生きるな』と。我らは彼を信じます。どうか、この人を追放しないでください!」

「僕も」「我も」

 ぞろぞろと子供達が民衆に向けて名乗り上げて訴える。民衆がどっちの言葉が正しいのか混乱していき、次第に人が増え始めていく。

「あぁ、もう見てらんない!」

 クロムがそう呟くと、彼女は民衆に晒された大怪我の子に向けて魔法を放つ。あまりにも突拍子もない出来事に、皆があっけにとられた。

「はぁ……。呼吸が……楽になった」

 よく見ると、呼吸するのがやっとの子供の顔色も良くなり、少しずつ喋り始めた。その様子を間近にみた俺たちは安堵した表情になる。

「これでよくわかっただろ! 俺たちが本当にこの子を怪我させたというなら、何故治療をさせないんだ? 宮廷魔法使いに回復魔法が使えない奴なんていないだろ」

 俺の一言で、俺に向かっていた憎悪の目がシュトルツェ王子に向けられた。

 次の瞬間、王子の側近が子供たちに向けて攻撃魔法を飛ばす。クロムの使者が咄嗟に反射 魔法を展開すると、攻撃魔法が跳ね返されて広場にある時計塔に直撃した。直撃した時計塔が木っ端微塵になり、破片が民衆に向けて勢いよく飛び散り民衆も逃げていく。

 あの魔法が子供たちに直撃したらと想像するだけで背筋が凍りそうだ。

「おい、シュトルツェが!」

 民衆の叫びを聞いて振り向くと、シュトルツェ王子はこの混乱に紛れて部下と共に城へと逃げた。今追い詰められた精神状態で城へ逃げ込まれたら、王を暗殺して乗っ取りかねない。

「奴らを捕らえよ! あれは異国のスパイだ!」

 あのアホ王子が叫ぶと、シュトルツェの軍隊が道を塞ぎ、守りを固めて俺たちに攻撃を仕掛ける。

「クロム、あの隊列を崩せるか? 俺は農場で見た戦術を元に、魔族の隙を指摘する」

「任せな! さすが、フェーンの目の付け所ね」

 クロムが俺の指示に従い、突破口を作る。その隙に、俺はリデルに飛び乗り城の窓を突き破るべく疾走した。

 中へ入ると、シュトルツェの軍隊と王の親衛隊が戦闘をしており乱戦状態だった。そうまでして王の権威が欲しいのかよ。

 俺は親衛隊の方に加勢する。リデルが翼を広げ、炎で視界を覆う。その隙に俺は剣を構え、間合いを詰めて撃退した。親衛隊から王が謁見室にいると聞いて、急いで向かう。

「遅かったな、フェーン。まさかここまで早く来るなんて思っても見なかった」

 謁見室の扉をぶち破いて入ると、シュトルツェが既に王を手に掛けていた。

「に、逃げろ……。フェーン。魔王が……復活す……る」

 背中から大量の血を流している王が最後の力を振り絞って地面を這いずりながら、俺に忠告する。だが、奴は無情にもトドメを差した。

「長命種の血を引く吾輩に大人しく王位を譲っていれば、今頃平穏な隠居生活が待っていたものを。老いたな父上」

 俺は言葉が出るよりも先に奴の方へ突っ込み斬りかかるが、奴の手斧で防がれてしまう。

「き、貴様! 子供だけに飽き足らず、王までも!」

「フェーン。貴様は『王の暗殺した首謀者』としてこの国を追放する。そして、吾輩が貴様を討ち取り今度こそ、この国の王となる。それが、神が決めた事だ」

「勝手なことを!」

 奴は片手で魔法の呪文を唱え始めた事に気付き、咄嗟に距離をとって防御魔法を展開して防いだ。

 俺は間一髪で防ぐ事ができたが、奴の意外な攻撃に驚きを隠せなかった。

「うそだろ……。なんでこいつが、エルフの魔法を使えんだ?」

「ハーフドワーフの吾輩が魔法を使えることがそんなに驚く事かね?」

「そもそも、ドワーフの体質的に魔法との相性が悪いはず。いくら人間の血が半分入ってるとはいえ魔力酔いしないのはなんで?」

 俺もクロムも奴が魔法を使っていることに驚く。

 奴はお構いなしに俺に向けて多種多様な攻撃魔法を放ちまくる。俺は奴の魔法を避け続け、よけきれないものは防御魔法ではじき返す。貴族や孤児の子供達と違って正確に俺を捉えている。

「ははは! どうした、フェーン! 勇者候補生の肩書は金で買ったものか? それとも吾輩が強すぎるのかな?」

 傲慢な王子は高笑いしながらゆっくりと近づく。

「そろそろ、頃合いか」

「なんだ? 死ぬ覚悟が出来たか?……うぅ」

 シュトルツェは口を手で押さえて吐きそうになっていた。当然だ。魔力管理せずに攻撃魔法を乱発したら魔力酔いを引き起こすに決まってる。

 奴は苦しみながら膝を地面につけて頭を手で押さえる。

「き、気持ち悪い……。な、何をした」

「魔力切れと魔力酔いだよ、バカ王子」

 シュトルツェ王子は項垂れもがき苦しむ。

「なんで、お前が魔法が使えるのか。王が言っていた『魔王が復活する』とはどういう意味か答えろ」

「お前を処刑してから、魔族を始末する」

 諦めの悪い王子は斧を取り出して切りつける。斧の扱いはドワーフの得意分野といったところか、捌き切るのが精一杯で正直真っ向勝負してたら負けると思った。だがそれは最初のうちで、時間が経つにつれて勢いがなくなっていき膝をついて咳き込む。

「わ、吾輩の身体が……」

 シュトルツェのがみるみる身体老化していく。金髪は白く変わり、筋肉が痩せこける奴の様子を見て「魔族の力に頼った罰だな」と俺は呟いた。

 俺が王子の元へ近付いて尋問しようとするが、城全体が揺れ始めた。それと同時に、魔族の魔力が増幅し始めた事に気付いた。

「フェーン! 急いで退避して! 魔族が魔王復活しに城を攻めてきた」

 クロムが、謁見室の窓を突き破って出てきた。その表情は緊迫している。

「どういう事だ?」

「説明するよりも、外をみて!」

 外をみてみると、地上と空で戦闘が繰り広げられていた。

 地上は城下町を中心に、シュトルツェ派の軍隊とカーガプルトンの部隊、魔族の三つ巴の戦いになっている。シュトルツェ派の軍隊は城の方へ撤退していくが、魔族の進軍が止まらず魔族も侵入するのが時間の問題だ。それをカーガプルトンの軍隊が止めているが、数が多過ぎて対処しきれない。

 空は、ガーゴイルやワイバーンに乗った魔族とカーガプルトンのドラゴン使いが高度な空中戦を繰り広げている。どの戦場も魔族が優位であり、このままではこの城も陥落するだろう。

「お前、何をした! 何故魔族がこの国を侵略している!」

「そ、そんな。こんな事になるなんて……」

 俺が奴の胸倉を掴んで問い詰めるも、狼狽するだけではっきりと答えなかった。

「え、援軍がやってきた! しかも、王妃直属の旅団。うちの王が派遣してくれたんだ」

 クロムの歓喜の声を聞いて振り返ると、空の方で異変が起きた。なんと、人間とドラゴンのキメラを先頭に、多くのドラゴン使いが加勢し魔族の軍隊を圧倒する。

「今なら、撤退できる! フェーン、今は子供たちや民衆を魔族から退避するの手伝ってくれる?」

 本当はこいつをとっちめて魔王復活を食い止めたいが、あの子供たちをこれ以上戦火に巻き込みたくはない。

「クロム、待て!  奴らの魔力を見る限り森を越えるルートで包囲網を敷いて来るはずだ。農場近くの地形を知っている俺が先導する」

「そこまでわかるの?」

「魔物農家をやっている俺には分かる。この魔族の動きは群れの本能に近い。王都を攻撃するふりをして、別の地点を奇襲してくるはずだ」

「ま、待ってくれ。フェーン……。吾輩を助けてくれ。全ての事を……謝る。全てを話す。だから……」

 老人となったシュトルツェ王子がすがってきたが、俺は奴を突き飛ばしてリデルに飛び乗ってクロムの後に続く。俺がさっきぶち破いた謁見室の扉から退散した騎士団と攻めて込んできた魔族が押し寄せた。

「じゃあな、良かったな。シュトルツェ王子。念願の王になれて」

「ま、待ってくれ。わ、吾輩を置いて行かないでくれ! フェーン!」

 俺はシュトルツェ王の悲鳴が聞こえるのを背にして、城から出ていった。


 ここ一週間の情勢は大きく変わっていた。俺はその後、子供たちの元へ戻ってリデルの背中に乗せて、俺はクロムに抱きかかえる形で農場へと戻った。

 結局、カーガプルトンの王妃が派遣したキメラ旅団の健闘虚しく魔王は復活してしまった。領土のほとんどは魔族とクロムの国に取られてしまい滅んだ。

 風の噂では、あのシュトルツェは商人に化けた魔族に騙されて魔王復活の手伝いに加担していたらしい。奴は商人から買った魔導書で魔法を習得する。王国を手に入れたら俺たちドラゴン使いも魔族も一緒に処刑するつもりだった。

 今では魔王を復活させた重罪で貴族や騎士団と共にカーガプルトンで裁判にかけられている。

 俺の農場と国の半分の領土はカーガプルトンに編入された。貴族と孤児の子供たちは更生する為の教育を施しているらしい。その一環として、俺の農場の修復や魔物農業を手伝っている。広場で晒し者になった子供は俺の農場でリハビリしていて、クロムがケアをしている。あの時は本当に見ていて心が苦しかったが、少しずつ回復していて本当によかった。

「私達はここを拠点に勇者パーティーを結成して魔王を討伐することになったの」

「俺の農場を拠点に? 急な話だな」

「勇者試験に落ちた過去があるんだって? でも、子供たちに優しいフェーンなら素敵な勇者になれるよ。私が断言する」

 クロムが元気にガッツポーズをすると、子供たちも真似をする。奴らの思想が無かったらこんなにも可愛いんだな。

「あ、勇者パーティーのリーダーはあなたで、うちらの部隊がサポートする事になったから、よろしく」

 クロムは穏やかな表情で手を差し伸べる。俺が勇者になるのか。悪くないな。

 俺がリデルの頭を撫でるとリデルが力強く吠えた。

「ギャオス!」

俺は決意を固める。

「全く、クロムの所の王って奴は。……よし、やるか!」

 こうして俺達は農場を運営しながら、魔王討伐の勇者パーティーとして活動することとなった。

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