第3話 微妙……

 久しぶりに、彼女と一緒に満員電車に乗った。

 本当に、ギュウギュウだ。もとからフワフワしてあまり安定感の無い彼女には、危なくて仕方ない。

 だから、電車の揺れや急ブレーキなどで彼女が倒れないようにと、俺は彼女の体をそっと支えていた。


 彼女に異変を感じたのは、ある駅に止まった直後だった。

 その駅は複数路線が乗り入れている駅で、多くの人が降り、そして多くの人が乗ってきた。

 彼女はその駅からしばらくの間、俺の体にしがみつくようにして立っていたのだ。


「大丈夫か? 具合でも悪い?」


 そう尋ねても、彼女は首を横に振るばかり。

 周りからも顔を背けるようにして、彼女は俺の胸元に顔を埋めていた。


「はぁ……疲れたぁ」


 電車を降り、目的地に向かって歩きながら、彼女は俺の隣で両腕を上げて大きな伸びをする。


「すげー混んでたからなぁ、疲れるよな、満員電車って」

「え?」


 上げた両腕を下げかけて動きを止めた彼女が、首をかしげて俺を見る。


「そうなの? 満員電車は偶にしか乗らないから、ちょっと面白かったよ?」


 えーと?

 今少し前に「疲れた」って言ってたのは、俺の聞き間違いだろうか?


 ポカンとする俺に気づいていない彼女は、中途半端に上がったままの両腕を下げつつ、片方の腕を俺の腕に絡ませながら話を続ける。


「でも、イケメンが側にいると話は別なんだよねぇ……イケメンて、画面越しに見るとか遠くから眺めるくらいが丁度いいんだよね。近すぎると緊張して疲れちゃう」


 言われて思い出した。

 彼女の様子がおかしくなった時、確かに俺たちのすぐ近くにイケメンが立っていた。


 そうか。

 なんだ、そういう事だったのか。


 と安心しかけて、はたと気づく。


 まぁな?

 俺だって自分がイケメンだとは思ってないぞ?

 でも、なんだか今、全否定されたような気がするのは、俺の気のせいなのか?


「ん? どしたの?」


 黙ったままの俺の顔を、彼女は無邪気な笑顔で覗き込んでくる。


「……俺には緊張しない、ってことかなぁ、って」

「うん! すっごい安心できる!」


 弾ける笑顔で、彼女は俺の片腕をギュッと抱きしめる。


 笑顔の彼女は、堪らなく可愛い。

 こんな笑顔を見せられて、嬉しくない訳がない。

 ないんだけど。


 なんか。

 ビミョー……

 って。

 今日だけは思わせてくれ。

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