第4話 ちがうから!
「今日は私がご飯作るね!」
食材を買い込んできた彼女が、家に来るなりそう言った。
俺の普段遣いのエプロンは、彼女には少し大きめだけど、そこがまた可愛い。
両手に数か所絆創膏が貼ってある事には、気づかないふりをしておこう。最近結構練習してるとは聞いていたけど、どんだけ不器用なんだろうか?
心配だな。
やっぱり少し手伝った方が……
「いいから! ゆっくりしてて! 絶対見ないでね!」
手伝おうと近づいたとたんに、追い返された。
心配で返ってゆっくりなんてしてられないんですけど。
仕方なく、見るともなしにスマホを弄っていると、腹に響く美味しそうな匂いが漂ってきた。
やばい。
これ絶対美味しいやつ!!
何を作っているのか見たかったけど、絶対に見るなと言われた手前、見るわけにもいかない。コッソリ見ても良かったけど、バレたら怒られそうだったから。
「できた!」
嬉しそうな彼女の声。
程なくして運ばれてきた料理は―
蒟蒻ピリ辛炒め
ペペロンチーノ
酢豚
うん。
和洋中。
全部彼女の好物。もちろん俺も好きだけど。
「食べてみて?」
自信の無さげな心配そうな顔で、彼女が俺を促す。
「うん。いただきます」
それぞれを小皿に取り分けてから、口に運ぶ。
まずは、蒟蒻から。
うん。辛さも適度で美味しい。
次に酢豚。
これも、酸っぱさマイルドで仄かに甘みもあって美味しい。
そして、ペペロンチーノ。
にんにくが効いててパンチがあって、これまたすんげー美味しい!
頑張ったんだろうなぁ、彼女。
手料理は何度か食べたことあったけど、今回食べたのが間違いなく一番美味しい!
なんだか感慨に耽ってしまって、俺はしみじみと呟いた。
「おいしいね」
と。
彼女はみるみる顔を曇らせた。
おまけに、目には涙まで浮かべている。
え?
なんで?
「酷い……」
「えっ」
「そこまで言わなくても」
「は?」
「そんな言い方酷いよ……」
とうとう、彼女は顔を両手で覆って泣き出してしまった。
えっ?!
なんでっ?!
理由がわからず、俺はオロオロするばかり。
「ちょっと待って、え、なんで」
「私頑張ったのに……味見するの忘れちゃったけど」
「は?」
「でも、『死ね』なんて言わないで」
はぁっ!?
待て待て待て待て。
なんだそれは!
「俺はそんなこと一言も言ってないぞ!」
「嘘! 言ったもん!」
「言ってないって!」
「言った! 『おい死ね』って!」
おい死ね。
おいしね。
マジかよ……聞き間違いにもほどがあるぞ。
俺は泣き続ける彼女を抱き寄せて、耳元で教えてやった。
「バカ。俺は『おいしいね』って言ったんだよ」
「え……」
「今までで一番美味しかった」
「ほんと?」
「うん」
ホッとして緊張が緩んだのか、彼女は「よかったぁ」を繰り返しながら泣き続ける。
「冷めちゃうから、早く食べよう? 俺、腹ペコだよ」
「うん」
照れ笑いを浮かべる彼女の目はまだ濡れているし、なんだか腫れぼったくなっているようにも見えるけど、嬉しそうだからヨシとする。
でも。
聞き間違うくらい不安になるなら、料理作る時は味見くらいは忘れずにしような?
ていうか、俺そんな酷いこと言うヤツだと思われてたのかな……結構ショックなんですけど。
次の更新予定
天然彼女。 平 遊 @taira_yuu
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