第2話 そんなに?

 多分そんなに見たいテレビも無かったんだと思う。彼女はたまたま流れていた番組を観ていただけ。

 なんなら、スマホを弄りながらだったし。


「晩飯作るけど何食いたい?」


 料理が苦手な彼女。

 少しずつ練習はしているみたいだけど、一緒にいる時は大抵俺が作る。

 俺もそれほど料理が得意なわけではないけど、彼女よりは慣れているから。


「ナシゴレン!」

「チャーハンな」


 料理が苦手なのは、それほど食べ物に執着が無いから、なのかもしれない。リクエストとほど遠いものを作っても、彼女はいつも美味しいと満足してくれる。


 チャーハンに、目玉焼きくらいは乗せてあげようかな。確かナシゴレンて、目玉焼きが乗っていたと思うから。


 そう思いながらキッチンに立っていると、後ろから彼女の声が聞こえてきた。


「たまらん!」


 続いて楽しそうな笑い声。


「たまらん砂漠!」


 えっ?


 料理の手を止めて振り返ると、テレビの画面いっぱいに映し出されているのは砂漠。音声までは聞き取れない。


「たまらん砂漠!」


 またそう言って、彼女は楽しそうに笑う。


 え?

 そんなに砂漠好きだったっけ?!

 初耳ですけど。


 料理を再開して手早く済ませ、スマホそっちのけでテレビに夢中な彼女の前にチャーハンを置く。チャーハンの上には半熟の目玉焼きを添えて。


「ナシゴレン!」

「いやチャーハンだから」

「いただきます!」


 いつものように、彼女は美味しそうにチャーハンを頬張る。

 俺も一緒に食べながら、彼女に聞いてみた。


「砂漠、好きなのか?」

「私じゃないよ?」

「え?」


 キョトンとする彼女に、俺も負けじとキョトンとしてしまう。

 今ここに、俺と彼女以外に誰が居るというのか。

 もしかして、俺には見えない誰かが居るとでもいうのか!?

 ……んなこと、あるわけがない。俺もだけど、彼女にも霊感的なものは全く無いはずだから。


「砂漠好きな人が名前付けたんだよ、きっと」

「は?」

「『たまらん砂漠』って」


 テレビのテロップに表示されていたのは、「タクラマカン砂漠」。

 もしかしたら彼女は、物の名前にもあまり執着がないのかもしれない。

 それにしても、あまりにテキトー過ぎやしないか? 「タクラマカン砂漠」に謝れ。


「たまらん砂漠!」


 余程ツボに嵌ったのだろう。間違えて覚えてしまった砂漠の名前が。

 面白いからしばらくはこのまま黙っておこうかな。

 ちょっと可愛いから。

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