第6話

「自分の家族も忘れて……思い出も忘れて……"そんな名前"なんて言える、君は最低だね。

君も可哀相だよ……可哀相な人」




「…………可哀相なのは、あんたの方でしょ?」



瑞依は響を睨みつけたまま、強く言い放った。




何がなんだか、わからない。



響の言っていることも理解出来ず、本当か嘘かもわからない。



だが、今はそんなことを考えることも出来ないほど、瑞依の中の怒りが沸騰していた。




「何も知らないくせに……好き勝手言って……人を見下して……っ」




……嫌い。



この人は、嫌いだ。



話し方も、表情も、仕草も……何もかもが人を馬鹿にしているみたい。



冷酷な目で、嘘の言葉を吐きながら、見下して笑う。



作り笑顔で。



こいつ…………嫌いだ。




瑞依は響を強く睨みつけた。



響はそんな瑞依に気が付き、首を傾げる。




「……僕ね……これでも抑えてるんだよ。

今この一瞬の間に、君なんか簡単に殺せちゃうんだよ?」



響の笑っていない瞳が、瑞依を見つめた。




「だけど僕は馬鹿じゃないから、争いを繰り返したいとは思わない。

だからこうして、穏便に話を進めてあげてるのに」




「……穏便に進めたいなら、まずは理事長にアポでもとって、ちゃんと椅子に座って話すのが礼儀じゃないの?」




「……」




「あんた達は結局話し合いなんかするつもりはない。

強引に勝手なこと言って、惑わせて……初めから何一つ譲るつもりないくせに」




何故か、瑞依は泣きそうだった。




自分でもわからない。



あんなことを言われた神矢の代わりに心が傷付いたのか。



それとも自分が傷付いたのか。



それとも、響の存在自体に悲しくなったからか。



わからない。



ただただ、悲しくなった。




「…………あんた、子供だね。

自分の意見を押し通したいだけじゃん」






-バンッ…!




突然、瑞依のシールドにビリッとした波動が響いた。



思わず、足を踏ん張る。




「……これ以上獅功様を侮辱するようであれば……次はシールドごと吹き飛ばす」



冷たい表情で瑞依を見つめて言い放ったのは、グリム一味のうちの1人だった。



短髪の黒髪に、つり上がった鋭い瞳、年は25、6だろうか。

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