第3話 名前
ケルト「解錠方法は心を開かせる?心を開くって何だ?心臓曝け出させりゃ良いのか?んな訳ねーよな…」
ケルトさんは怖い顔して怖い事をブツブツ言っていた。少年は震えが収まらないままバクに手を引かれて歩いている。
トラ「それでどうするんです?時間が相当かかる事になりますが」
バク「呪いをかけた張本人を殺すのが1番早いがの〜。他に強い呪いの能力者がいれば解けるのではないか?」
ケ「俺はあいつより強い呪いの能力者は知りませんし、あいつが呪いをかけた奴を特定出来ないなら相手も相当強い能力者。素直に心を開かせた方が早いと思います」
バ「開かせれるのか?」
この質問にケルトさんは悩む。子供の世話どころか人との関わりも関わりも冷たい感じなケルトさん。そんなケルトさんに任せるのを不安がっているバクだがトラさんが一言言う。
ト「元凶はお前なんだからお前でどうにかしろ。早めにな」
これにプチっと来たケルトさんがトラさんの胸ぐらを掴んで言う。
ケ「てめー何でもかんでも俺にやらせやがって、てめーも少しは何か役に立ったらどうだ?」
ト「何で俺が手伝わなければならない、お前が持ってきた不祥事だ。お前でどうにかすんのが筋なんじゃないのか?」
ケ「筋だか何だかはどうでもいんだ。俺はてめーの態度が気に食わねーつってんだよ!」
バ「2人とも落ち着け。こんなところで暴れたらタダじゃ済まなくなる…」
バクはまたか…と言うようや表情で2人をなだめる。
ト「自分が出来ないからって人にやらせようとするな!」
ケ「ガキの世話くらい俺なら余裕で出来るわ!」
ト「じゃあやってみせろ!その子の心を開いてみせろ!」
ケ「ああやってやるとも、てめーより俺のが優秀な事証明してやるぜ」
何かケルトさん言いくるめられてる…とりあえずこんな事がありケルトさんが少年の面倒を見ることになり家に着いた。
ケ「そういや何も食ってねーから腹減ったな」
バ「そうだな。色々ありすぎたからの〜」
ケ「何か作るんで待ってて下さいね」
少年が来たのは大体昼頃。色々あったせいでもう外も暗くなっている。少年は家に着いても部屋の隅でうずくまっている。
ケ「いつまでそこに居るんだ?部屋はちゃんと用意しといたぞ。ベッドに机と椅子と本棚は…あんま本はねーがある程度読めるだろーよ」
少年「……」
少年は疲れ切ったような顔でケルトさんを見上げるが、すぐに下を向いてしまう。ケルトさんも諦めたようにキッチンへ戻り料理の続きを作る。
ケ「よし、飯出来たぞー」
ケルトさんは大きな声でバクとトラさんにご飯が出来たことを伝える。そして少年の目の前まで来る。
ケ「おい、腹減ってんだろ?飯出来たぞ。………ったくしゃーねーな」
そう言いうずくまってる少年を軽々持ち上げ椅子まで運ぶ。少年は少し驚いた様子だったが抵抗する素ぶりや体に力が入ってるようにも見えない。椅子は獣人用に作られているものだったが箱を使って高さを合わせている。
3人「いただきます」
みんながそう言うと食事が始まる。食事は量が多く綺麗に盛り付けられている。美味しそう…。だが少年は食べようとしない。それに気付いたケルトさんは箸の使い方を忘れたのかと思いスプーンやフォークを持ってきて渡したが、それでも食べようとしない。
ケ「食欲ねーのか?まぁ記憶失ってるぐらいだしそんくらいの衝撃はあるか。ねーなら俺が食っちまうぜ?」
ケルトさんは冗談半分で言ったが少年は何も反応せず高い椅子を降りて部屋の隅に行ってしまった。
ケ「何だあいつ…」
ちょっとムスッとしたケルトさんは小さい声でそう言った。
日が上る朝。まだ少し暗い時にケルトさんは目が覚める。
ケルト「ふぁ〜ねむ。とりあえず朝食……まだそこに居たのか?」
ケルトさんは部屋の隅を見てそう言った。少年は一晩明けてもまだそこに居た。寝た…んだよなと微妙な反応をしつつ朝食作りを開始した。朝食を作っている間にトラさんやバクも起きてくる。
バク「ベッドで寝れば良いであろう?そんな所じゃ寒いし硬いだろ」
少年「……」
少年は今だに震えが収まっていない。流石に不思議がったバクがケルトさんとトラさんに少年が聞こえないくらいの声量で話す。
バ「人間界に行ってあの者の詳細を調べようと思う。出来るだけあやつの家の近くに帰してやりたいしな」
ケ「そこまでする必要あります?俺が間違えたあの道路付近で良いんじゃないですか?」
バ「可哀想であろう…」
相変わらずケルトさんは人の心が無い。
バ「出発は明日くらいで良いだろう。それとトラ、其方はあやつの面倒を見ていろ」
トラ「なっなんで俺が面倒を見るんですか!そういうのはケルトの役割だと!」
バ「仕方がないであろう。ケルトは気配をほぼ100%消せる。其方じゃ出来ないことだろう?」
ト「……」
トラさんは少し不服そうにしているが納得はしている様子だ。人間界の調査は明日に決まった。
一方、少年の目から見れば朝も昼も夜もあっという間に過ぎていくのだった。少年は眠る事も食べる事も飲むこともせず、ずっと何かに怯えている。その日の内に少年はケルトさんに話しかけられている声も、持ち上げられてる感覚も、全部しなくなった。分からなくなった。
深夜2時。少年は力も入らなくなり気付いたら座っていた状態から床に寝転がっていた。
少年(僕は結局……)
空腹と喉の乾きなど感じず、ひたすらに悲しくて泣いた。虚しくて泣いた。そんな時、とても良い匂いがした。少年は何の匂いか分からないが、その匂いが少年の空腹と喉の乾きを思い出させてくれたのだ。
ケ「おら、腹減ってんだろ?良い加減食え。死ぬぞ」
良い匂いの原因はケルトさんだった。美味しそうな炒飯を持って少年の目の前にいる。少年は驚いた。こんな時間に自分を見てくれる人なんて今まで…居なかったはずだから。ケルトさんはすかさず文を付け足す。
ケ「たまたま起きたから作っただけだ。良いから早く食え!」
ケルトさんはそう言うが少年はやはり口にしない。料理を美味しそうに見ているが料理を怖がっている様子だ。
ケ「やっぱ食えねーのか…そんな不味そうか?これ」
炒飯の入ったレンゲを差し出しながらケルトさんが悩ましそうに目をつむる。
ケ(どうすりゃいいのかね〜…)
再び目を開けると少年は口を開けて食べようとしている。口も震えて、涙目になりながら。ケルトさんは息を飲んだ。長いような短いような緊迫した時間が過ぎ、少年は口いっぱい頬張る。
少年 (おいしい…)
少年は涙が溢れて止まる様子が無かった。何で泣いているか分からなかったケルトさんだが、少年がもう一口を求めている所を見て笑顔でもう一口口に入れた。これが少年の前で見せた初めての笑顔だった。少年に持っていたレンゲを渡すとガツガツ勢い良く食べる。
ケ「そんな急がなくても誰も取らねーよ。あ、ほれ水飲め水。やっと飯食ったな、人間」
ケルトさんは何かに突っかかった様子だ。
ケ「人間…か。そうだなー、『イリウス』とかどうだ?」
少年「…………?」
少年は口いっぱいご飯を入れた状態でケルトさんを見る。
ケ「名前だよ名前。自分の名前覚えてなかったろ?」
少年「……!!」
少年は目を輝かせて頷く。名前を貰ってさぞ嬉しそうだが、沈黙の呪いはびくともしない。
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