第一章 *目覚める力*

冷たい漆黒瞳

第3話

26世紀



__西暦2515年
















「はぁ……」




瑞依ミズイはため息をついて、リビングの椅子に座っていた。



冷めたコーヒーをスプーンでくるくるともう何百回かき回しただろう。




「……どうしたんだ、ため息をついて」




突然聞こえてきた低い声に、瑞依は驚いてビクッと身体を反応させた。



だが、その声の主が誰なのかわかっていた瑞依は振り向きもせず、驚いた素振りも見せない。



相手を見ることなく口を開いた。




「……別に。

ちょっと疲れたなって思ってただけ」




「……そうか。

まぁ、あまり無理はするな」




「はいはい」



瑞依は素っ気なく答え、目を閉じた。




「お前は、お前のやりたいことをやればいい。

父さんも母さんも、それを応援する」




「わかってる。

考え事してただけだから」




訳もなく、苛々とした感情が募った。



この年頃の女の子にありがちな父親に対するこの感情は、瑞依にも例外ではなかったのだ。





「じゃあ、おやすみ」




「……おやすみ」




父親がリビングを出て行ったのを横目で確認し、瑞依は再びため息を落とした。





はぁ~……ウザイ。



お父さんといると、理由もなく苛々する。



わかってるのに……いちいち言わないで。




『お前は、お前のやりたいことをやればいい』




……やりたいことがないから困ってるんじゃん。




瑞依は冷たくなったコーヒーを一気に口へ流し込んだ。






瑞依はもうすぐ高校3年になる、いわば受験生。



26世紀、高校を出た者に与えられる選択肢は、4つ。



専門分野を学ぶ為の学校へ行くこと、大学へ行くこと、働くこと、そして留学すること。



何ら特別なことはないこの選択肢が、瑞依をさらに苛立たせる原因だった。

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