第10話 百物語の七話目


---


百物語の第七話:不穏な影


部室の空気がいつもと違う。神社での出来事以来、文芸部のメンバーはどこか落ち着きを失っているように見えた。普段は冗談ばかり言っている圭介も、妙に口数が少ない。亮介はペンを手にしたまま、視線を一点に落として動かない。麻奈も、時折何かに怯えるように背後を気にしている。


そんな中、今日の語り手に指名されたのは俺だった。


「……じゃあ、七話目を始める。」


そう言いながらも、内心では迷いがあった。この話を語るべきなのか。いや、語っていいものなのか。



---


語られる怪異


「この話は、俺がまだ小学生だった頃に体験したことだ。」

声が自然と低くなる。語り出すと同時に、部室の灯りが少し暗くなったように感じたのは気のせいだろうか。


「その日、俺は近所の公園で友達と遊んでいた。もう夕方になりかけていて、辺りは薄暗かった。帰ろうとした時、公園の奥から誰かが呼んでいるような声が聞こえたんだ。」


「『誰かが呼んでる……?』」

麻奈が呟くように問い返した。


頷いて続ける。

「最初は気のせいかと思った。でも、その声は段々とはっきりしてきて、『こっちにおいで』って言ってるのが分かった。俺は怖くなって走って逃げたんだけど、振り返ると……そこにいたんだ。」


「何が?」

亮介が身を乗り出す。


「公園の奥に、誰かが立ってた。薄暗くて顔までは見えなかったけど、背の高い人影がこっちをじっと見てたんだ。」


その瞬間、部室の蛍光灯が微かに揺れた。全員が息を呑む。


「それ以来、その影がずっと俺の後をついてくるような気がしてた。でも、何かをされたわけじゃない。ただ、気配だけがずっとある。いつも振り返ると、少し離れた場所に立ってるんだ。」


「……今も?」

圭介の声が掠れていた。


「いや、さすがにもういない。多分。」

自分でも思わず苦笑してしまう。だが、部室の空気は一層張り詰めていた。



---


部室に現れる影


俺が話を終えた瞬間、窓の外で何かが動いたように見えた。


「今、何か……」

麻奈が指さす。


「風じゃないか?」

圭介が無理に笑いながら言ったが、その目は窓から離れていない。


その時だった。ドアが急に「ギィ……」と音を立てて動いた。


「風だよな?」

亮介が固い声で確認するが、誰も答えない。


律がすっと立ち上がり、ドアの方に向かう。

「念のため、閉めておこう。」


彼がドアに手をかけた瞬間、部室の電気が一瞬だけパチンと消えた。


「ちょっ……!」

麻奈の声が響く。


すぐに明かりは戻ったが、全員が無言で互いの顔を見合わせた。その時、俺の背中に冷たい視線を感じた。


振り返ると、そこには――誰もいない。



---


次回予告:迫る影の正体


七話目を語り終えたことで、不穏な影の気配が部室を包み始める。語り手である主人公の記憶に潜む真実が、徐々に浮かび上がる中、次の語り手が選ばれる――。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

AIくん(GP)と作る怪談 みなと劉 @minatoryu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る