第11話 華山家

 今、この刹那にすべての産毛が抜けたような気がした。

「は?血がつながってない?」

「後悔している。こんな死に際にいうことになってしまって。本当ならば言いたくなかった。だが、奴らが動き始めた今、お前が必要なんだ」。

「は?」

 ことばが一切でてこない。聴覚と脳が切断された気分だ。父は胸元から折りたたまれた紙を渡す。

「ここへいけ」。紙を開くと住所がか弱い字で書かれている。最期の気力をつかったのだろう。ふと父に目をやると穏やかに閉じている。

「親父!親父!逝くな!おい!まだ、まだ話を…」ピーっと機械音がなった。心電図は水平線を描いていた。



 翌日。古田は住所の場所に来た。目の前には驚くほどの敷地面積を持ち、三階建ての黒い城のような建物が聳え立っている。金でデコレーションされている大きな門には「華山」というネームプレートがある。父が死に際に全精力を使い自分に伝えたかったこととは何なのか。知らないわけにはいかなかった。

インターホンを力を込めて押す。

『はい、華山です』老いた女性の声が向こうから聞こえる。

「すいません。古田昇の紹介できました、古田し―」

『どうぞお入りください』

まだ名乗っている途中であるのにも関わらず門がゆっくり開く。どうやら事態は尋常じゃないようだ。まるで俺が来るのを見越していたようなスピードだ。恐らく俺は何者かに泳がされている。


 門の奥には公園のような規模で庭園が広がっている。どうしてこれほどの資産があるのか。アパートぐらしの古田にはなんだか居心地が悪い。いったい華山とは何者なのか。謎は深まるばかりだ。

 しばらくすると玄関らしき所にたどり着いた。赤いカーディガンを着た老母が一人で中央にたたずんでいる。白髪がいっそう若さを引き出しているように見える。

「先ほどは失礼しました。お入りくださいではありませんでしたね」。

先ほどのインターホンで聞いた声だった。


「おかえりなさいませ。華山新様―」。


 「今、主人をお呼びいたします」。そういって老婆は古田の前に湯気が立つ紅茶を置いて部屋を出ていった。盆栽やら絵画やらアクセサリー、謎の銅像などキラキラと眩しいもので囲まれている、いかにも金持ち雰囲気が醸し出されている部屋に通された。

 先ほど老婆は古田のことを華山新と呼んだ。この状況をみて、流石にどんくさい古田にも自分がどこに来たのか分かった。父親は俺を生家に連れてきたのだと。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大和の守護神 末人 @matsujin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ