花火の空と再生するイヴ
たこわさふりかけ
僕とイヴ
エピローグであり、プロローグでもある。
これは徹頭徹尾彼女の物語であり、僕みたいな普通の人間が活躍する機会は一切ない。
僕はただ彼女の話し相手に選ばれただけのどこにでもいる(あちらからすればこのどこにでもいるということこそが重要だったのだろう)中学二年生でしかなく、事の成り行きを、世界の存亡を賭けた戦いを、ただただ遠くからぼんやりと眺めることしか出来なかった。
僕には何の力もない。
仮に何か武器を……例えばミサイルの発射ボタンとかを渡されていたとしても、僕にはそれを押す勇気も覚悟もなかったと断言出来る。
地球を救ったのは生まれた時から地球を救う為の準備をしていた彼女であり、僕は何もしていない。
彼女に向かって手を伸ばしたりもせず、ぼんやりと眺めている間にその戦闘は終わった。
僕は何もしていない。
僕には何も出来なかった。
……改めて強調しておこう。
僕は普通の中学二年生だ。
世界で一番平和な国ランキングで毎年一位を獲得している国で生まれ育った、争いを全く知らない世代の子供の一人であり、流れていく日々に身を任せているだけの人生を送っていた。他の国の人が羨むくらい普通に生きていた。それが僕の国での幸せの形だった。そこでは何もせずとも幸せでいられた。
でも、これからは僕も何かをしなければと思った。何か、何でもいい……世の為人の為になる何かを成し遂げようと誓った。
彼女の戦いを見届けて、僕は強くそう思った。
そう。
思う。
思うのだ。思い続けるのだ。
もう少しすると、僕の記憶は消える。
この真っ暗な短いトンネルを抜けた先にある普通の日常へ、僕は戻っている最中だ。
だから、今、彼女のことを想っている。
彼女との日々を、とても短かった一週間を、思い返している。
こうしていれば、もしかしたらほんの少しくらいは記憶のどこかに彼女との思い出が残るかもしれない。その可能性は低くともある……はずだと信じたい。
僕は拳を強く握り、目をきつく閉じた。
青い肌。淡い緑の髪。額から生えている尖った二本の角。その鋭い角とは対照的な、知性と理性と優しさを感じさせる深い黒の瞳。そして、巨大人型兵器のコクピットに四肢を接続された病的に華奢な身体。
小さな口から紡がれた言葉は儚くて、まるで眠っている時に見た夢について語る時のようだった。
「あなたの隣で花火を見させて貰うことにするわ」
僕は見た。
今日、彼女が打ち上げた花火を。勝利の光を。救いの輝きを。
そしてこれから三日後、夏祭りで本物の花火を見る。
そこには彼女も……イヴも、居て欲しいと思っている。
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