魔王を討伐?に行きます。
生贄としてノアの代わりに魔界へ赴いた渚。手にはガラスコップに入れられたオレンジ色の金魚、天草が入っている。天草はまさかこんなにも速く相棒とのお別れを迎えるとは思っておらず、水の中なのにハンカチで涙を拭っていた。
「まだ若いのに……」
「いや、まだそうと決まったわけじゃねーだろ」
「レベル一桁で! 丸腰で! 経験値も無いのに魔王に勝てるわけ無いでしょ!」
天草がおいおい泣きながら言うと、渚は
うっわ、頼りな〜
と思ったが、またここでHPを減らしてはいかんと堪えた。
小さなコウモリが魔界の城まで案内してくれる。迷路の様な広い城の中を右へ左へ、上へと進んで行く。まるで本で読んだミノタウロスの迷宮、ラビュリントスのようだと思った。
玉座がある広間に通されるが、玉座には誰も座っていない。渚は周りを見渡すが、高い天井に綺麗な飾り硝子がはめられ、その隙間から星が見えていた。天井から伸びた白く太い柱には装飾が施されている。柱の中程についたランプの火が揺らめいていた。部屋を囲う様に設置された大きな窓には赤いカーテンが垂れ、大理石の床にも同じ色の絨毯が玉座に向かって長く伸びている。
中々いい趣味してる。
渚はそう思った。全体的に暗いが、もっとおどろおどろしい、悪魔とかコウモリとかの装飾された黒い城をイメージしていたのだが、思っていたよりも掃除も行き届いている。
さて、魔王はどんな姿をしているのだろうかと考えていると、大きなトカゲが闇の中から顔を出した。人間の大人程の大きさをしていて、異国の黒い服を着ている。
「さあ! 魔王様! 生贄はとっくに到着しておりますよ!」
トカゲがそう叫ぶと、暗がりからぬっと黒いフードを被った男が姿を現した。身長は、170cmと言った所だろうか? 渚は2m超えの大きな熊みたいなのを想像していたのに、思っていたよりも小さくて安心した。
「さあ! 魔王様! どうぞ!」
トカゲがそう言って背中を押すと、黒いフードを被った男は渚の目の前に来た。
「……あの、態々ここまで来てもらって悪いんだけど、お引き取り頂けないでしょうか? もう次からは生贄とか、悪い習慣というか、風習は変えて行こうと思っていて……」
男がそう言うと、渚はきょとんとしてフードの中を覗き込んだ。男が驚いた様に後退ると、聞き覚えのある声に渚は呟いた。
「幸村?」
渚が呟くと、フードを被っていた男が驚いた様に顔を上げた。フードの中で、血の色をした瞳がこっちを見つめている。
「渚さん?」
渚はそれを聞くと、持っていたガラスコップを床に置いた。
「成る程。お前もこっちに転生して来たってわけか……」
渚はかつての恋人に笑いかけた。
「そっか……会えて良かった」
渚がそう言うと、男はフードを取った。黒髪に、巻角が二つ頭に生えている。
「……僕も……」
「まあ、魔王がお前だって言うなら、お前の弱点はオレが一番知ってる」
渚の言葉に魔王は少し辛そうに笑った。
「ふふっ……僕も、知らない勇者に殺されるよりは、渚さんに殺られる方が本望です」
二人の会話を聞いていたトカゲが、焦った様に飛び出した。
「魔王様! 一体何を……」
トカゲがそう言うと、渚は徐ろにスカートの裾を捲った。それを見たトカゲが驚いた様に目を丸くする。振り返ると、魔王が倒れていた。HPが50に減っていて、両手で顔を覆っている。
「貴様! 一体何をした?!」
「あ? そいつはな、女子の下着とかで高ダメージ受ける超メンタル豆腐な男なんだよ!」
渚がそう叫ぶと、みるみるうちに魔王のHPが20に減って行く。
「ええ?! 魔王、あんなに花嫁候補には全く靡きもしなかったのに!」
「……すみません、人外の花嫁候補は論外で……」
「魔王様!! しっかりして下さいよ! あんなレベル一桁の娘に……」
トカゲがそう言うと、渚はトカゲを蹴り飛ばした。耳まで赤くなった魔王の襟首掴むと、睨み付ける。
「トドメだ」
渚が言うと、魔王はにこりと笑った。渚が魔王の唇にキスをすると、どんどん魔王のHPが減って行く。渚が唇を離すと、魔王のHPは1になっていた。
「そういや、悪い風習は変えて行くって言ったか?」
「……はい」
「んじゃそれ、オレにも協力させろ」
渚がそう言うと、魔王は顔を真っ赤にして頷いた。
それから魔界と人間界が暫く友好関係を結んで平和な時代が訪れたとか言われて居るらしい。
低レベルな村娘が魔王のHPを1にした話 餅雅 @motimiyabi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます