第8話 金閣寺の5ページ目をお開きください。

描写力を上げる。

千織は固く決意した。

努力しているのだ、己の作品が納得いくように。

凡人は、やり遂げてなんぼ。

そもそも才能などないのに、途中で投げ出して何になる。

やり切ることだ、納得のゆくまで。


友人も自分の思い描く風景をどのように描写したらよいかを悩んでいた。

そこでアドバイスに名が挙がったのが三島由紀夫である。

千織は、T先生にも勧められたこともあり、友人より先に短編集を購入した。

友人は勉強家で、図書館の本を読破できるほどの才能がある。

他にもやること、読むものがあったため、私から”試しに”と、その三島短編集を貸した。


友人は本を瞬時に読める人である。

すぐに読んで返ってくるものだと思っていた。

しかし、なかなか返ってこない。

珍しいことだった。

話ぶりから、彼女も三島の凄さに魅入られたらしい。

私はこれまでの不義理のこともあり、彼女に短編集を差し上げた。


代わりに金閣寺を買った。

三島の短編集のパンチ力はわかった。

ならば今度は長編を、と思ったのだ。


タイトルからして、渋いと思っていた。

自分に読めるのだろうか、と不安がよぎる。

だが、短編集で知ったとおり、三島由紀夫の文章は日本語は難しくない。

論理的に読めば、読める。

詰まったら、読み直したり、調べればよいのだ。

問題は、「感じられるか」だ。

それはまずもって読まなければ。

千織にとってその時、金閣寺はまだまだ遠い存在であった。



新潮文庫の『金閣寺』は、5ページ目から始まる。

一行目から金閣寺の話だ。

一行目から、金閣寺の話だ。

大切なことだから2回言った。

三島先生の凄さはもったいぶらないことだ。

カレーを食わせるのに、肉とカレーをスプーンに盛って口に運んでくれるみたいな。

私のような下手の横好きは、ここで意味深に米を食わせる。

あとで美味しいカレーが来ますわよ、うふふ☆みたいな。

死ねばいいと思う。

三島先生であっても出だしから読者に最大のおもてなしをするんだぞ。

お前の時の腕前で、これから面白くなりますわよ☆とか、読者を舐めている。


まず、このように冒頭から600字程度のところで反省しながら6ページ目へ。

この2ページで、三島先生は主人公溝口の出身地について語る。

しかもその合間にも金閣の幻影を出す。

これはサブリミナル効果である。

三島先生の天才性は、伏線を超えて、レイヤー的な書き方で、こちらを”洗脳”してくるところである。




つづく

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