遺跡の秘密とその代償
夜明けの光が淡く差し込む中、一行は古代遺跡の入り口にたどり着いた。遺跡は巨大な石造りで、苔や蔦が生い茂り、長い間誰にも触れられていないように見える。壮大な門構えに圧倒されつつも、フルカが真っ先に駆け寄った。
「うわー!これ、絶対にすごいものが隠れてるよ!」
彼女は目を輝かせながら門を覗き込み、翼をバタバタと広げる。
アルドがその後ろで腕を組みながらため息をついた。「お前な、いつもそうだが、もう少し慎重になれよ。これはただの古い建物じゃないんだぞ」
「でも、冒険ってこういうところが面白いんじゃない?」フルカは笑顔で振り返り、念動力を使って門の近くに落ちていた石を浮かせた。
「ちょっと!」
ミーナが鋭い声で制止する。「その石が崩れるきっかけになったらどうするの?倒壊したら終わりよ!」
「えー、大丈夫だって!このくらいの石、崩れないよ!」とフルカは自信満々に返すが、アルドが彼女の肩を掴んで引き戻した。「いいから、俺たちの指示に従え。わかったな?」
フルカは渋々頷き、一行は遺跡の中へと足を踏み入れた。
内部は想像以上に暗く、湿った空気が漂っている。奥へ進むごとに、古代の雰囲気を感じさせる彫刻や模様が壁一面に広がり、どこか不気味な感覚が全員を包み込んでいた。
「これ、古代文字みたいだけど……何て書いてあるのかしら」
ミーナが壁を見つめながら呟く。風化して部分的にしか読めない文字だが、緻密な彫り方と複雑な模様は、確実に重要な意味を持っているようだった。
フルカが興味津々に顔を近づけて言う。「ここに古代の秘密が眠ってるってことじゃない?」
その瞳は輝き、まるで宝物を見つけた子どものようだった。
「秘密を探る前に、俺たちが無事に帰れるかどうかを考えろ」
アルドが辺りを警戒しながら進むと、突然、床がカチッと音を立てた。
「アルド、今何か踏まなかった?」
ミーナが不安げに問いかけるが、その答えを待つ間もなく、壁の隙間から矢が放たれる音が響いた。
「伏せろ!」
アルドが叫ぶと同時に、フルカが瞬時に反応。念動力で矢を弾き返し、全員を守った。「ふふん、こんなの簡単だよ!」
矢を空中でくるくると回転させる彼女の様子に、アルドは頭を抱えた。
「おい、それで遊ぶな!」
「だって、これくらいなら余裕だもん!」と得意げに言うフルカに、ミーナが呆れ顔で指摘した。「罠が他にもあるかもしれないわ。慎重に進みましょう」
一行がさらに奥へ進むと、床や壁に仕掛けられた罠が次々と作動し始めた。突然、天井から岩が崩れ落ち、鋭い針が足元から飛び出す。
「また罠か!」
アルドが剣を構えながら叫ぶ。ミーナは即座に魔法でバリアを張り、ガロンが盾で仲間たちを守る中、フルカが前に飛び出した。
「これも私に任せて!」
彼女は念動力を駆使し、落ちてきた岩を宙に浮かせると、勢いよく投げ返した。鋭い針も力強く弾き飛ばされ、壁に突き刺さる。
「ふぅ、これで片付いた!」
翼を広げながら満足そうに振り返るフルカの姿に、アルドが苦笑しながら言った。「お前がいなかったら、今頃全員串刺しだな」
「でしょ?もっと褒めていいよ!」
フルカが胸を張って言うと、ガロンがため息をつきながら「頼もしいけど、心臓に悪いぜ」と呟いた。
さらに進むと、部屋の中央に巨大な石板が立ちはだかっていた。その表面には複雑な文字と模様が刻まれている。ミーナが近づき、文字を指差しながら言った。「これ、何かの指示みたいね。『試練を乗り越えよ』と書いてあるわ」
「試練って何だろう?」
フルカが石板を軽く叩くと、突然、部屋全体が振動し始めた。床から魔法陣が浮かび上がり、青白い光が部屋を照らす。
「何か来る!」
アルドが剣を構える中、光の中心から現れたのは古代の守護者と呼べるような魔法生物だった。全身が石でできており、目には赤い光が宿っている。
「私が相手する!」
フルカが先陣を切り、念動力で宙に浮かせた岩を守護者に向かって投げつけた。しかし、守護者はそれを片手で弾き返す。
「強い!」
フルカが驚きの声を上げる中、アルドが剣を振り下ろし、ミーナが火球を放つ。ガロンも盾で守りながら隙を狙うが、守護者の硬い外殻にはほとんどダメージを与えられない。
「こうなったら新技を試すしかないね!」
フルカが翼を広げ、念動力を最大限に発揮して周囲の石材を集め始めた。それらを一箇所に集中させると、回転させながら巨大な岩球を作り出した。
「いっけぇー!」
巨大な岩球を守護者に向かって勢いよく投げつけると、ついに外殻が砕け、守護者が崩れ落ちた。
「やった!私たちの勝ちだ!」
フルカが拳を突き上げると、ミーナが疲れた声で笑った。「あなたのおかげで助かったわ。でも、次はもっと慎重にね」
アルドは石板の文字を見つめながら呟いた。「これが試練の一つだったってことか……まだ先がありそうだな」
一行は深く息をつきながら、次の試練に備えて準備を整えるのだった。
さらに奥へ進むと、広間に出た。一行の目の前には、これまで見たこともない巨大な魔法装置が鎮座しており、全員が驚きで足を止める。装置の表面には複雑な古代文字が刻まれており、淡い青白い光を脈打つように放っている。
「これ……何かを制御している装置かしら?」
ミーナが装置に慎重に近づき、その指先でそっと触れた。瞬間、装置の光が一瞬だけ強まり、低い振動音が広間全体に響く。
「おい、やめろ。何か起きるぞ」
アルドが剣を握りしめながら警戒の声を上げるが、フルカはそれを聞き流し、興味津々に装置を覗き込む。
「だって、こんな面白そうなもの、見たら触りたくなるでしょ?」
彼女が翼をばたつかせながら装置に手を伸ばした瞬間、アルドは焦りの声を上げた。「おい、触るなって!」
「ちょっとだけだから!ねえ、これ動かせるかな?」
フルカが装置の一部にそっと触れると、装置の光が突然眩い輝きを放ち、振動が激しくなった。
「うわっ、何だこれ!」
床が揺れ、装置の周囲から石の破片が舞い上がる。さらに、装置の基部から煙のようなものが漏れ始めたかと思うと、魔法生物のような存在が広間の隅々から姿を現した。
それらの体は半透明で、内部には光る核のようなものが見える。足音ひとつ立てずに広間を滑るように移動し、一行に向かってゆっくりと迫り始めた。
「こいつら……護衛装置か!」
アルドが剣を抜き、ミーナが呪文を詠唱する中、ガロンが盾を構えて身構えた。
「私に任せて!」
フルカが翼を広げ、念動力で周囲の岩を浮かせると、それを魔法生物たちに向かって次々と投げつけた。岩が命中するたびに、魔法生物の体が揺れ、その光る核が一瞬だけ暗くなる。
しかし、魔法生物たちはすぐに体勢を立て直し、反撃を開始した。光る核から放たれるエネルギーの弾が広間を飛び交い、一行を狙ってくる。
「これ、どんどん増えてない?」
フルカが念動力でエネルギー弾を弾き返しながら呟くと、アルドが低く唸った。「だから触るなって言っただろ!」
「だって、どうしても気になったんだもん!」
フルカがにっこり笑いながら弾を避け続けると、ミーナが冷静に言った。「この光る核が弱点みたい。狙いを集中させましょう!」
ミーナの指示で、アルドとガロンが同時に突撃を開始。アルドの剣が核に突き刺さり、ガロンの盾が敵を吹き飛ばす。一方でフルカは念動力を駆使し、浮かせた岩を回転させて敵の核に狙いを定め、次々と撃破していく。
ようやく最後の魔法生物を倒し、広間に静寂が戻った。一行は大きく息をつき、装置を見つめたまま立ち尽くす。
「ふぅ……何とかなったわね」
ミーナが汗を拭いながら装置に目を向ける。「この装置、一体何のために作られたのかしら?」
フルカは装置に興味津々で近づき、その光る部分をじっと見つめる。「これって、私をもっと強くする秘密があるかも!楽しみだなぁ!」
「だから、まずは慎重に調べろっての!」
アルドがため息をつきながら制止するが、フルカはどこ吹く風といった様子で装置の周囲を飛び回る。
ミーナが装置の一部を慎重に外し、小声で呟いた。「これをギルドに持ち帰れば、何かわかるかもしれないわね」
「おい、他にも何か起きないうちにさっさと移動しようぜ」
ガロンが広間の出口を見やりながら言うと、一行は装置を後にして次のエリアへと足を進めた。だが、広間を抜けると同時に、地面が微かに揺れ始めた。
「これって……嫌な予感がするわね」
ミーナが足を止め、壁を見上げた瞬間、上から砂がさらさらと落ちてきた。そして、次の瞬間、地面が大きく揺れ出し、遠くで轟音が響いた。
「崩れてる!早く出口に向かうぞ!」
アルドが叫び、一行は全速力で駆け出した。
遺跡の通路は細く入り組んでおり、上から瓦礫が次々と落ちてくる。その度にフルカが念動力を駆使して仲間たちを守った。
「ほら、もっと早く走って!」
フルカが前方を飛びながら、浮遊する瓦礫を次々と脇へ弾き飛ばしていく。
「言われなくても走ってる!」
アルドが剣を握り締めながら足を速める一方で、ガロンは後方から声を張り上げた。「おいおい、俺の盾が砕けそうだぞ!」
「これ以上持たないわ。全力で進むしかない!」
ミーナが冷静に判断しながら、魔法の光で足元を照らす。
ようやく出口が見えてきたその時、天井が大きな音を立てて崩れ落ち始めた。
「フルカ、頼む!」
アルドの叫びに応え、フルカが念動力を最大限に発揮した。崩れ落ちる巨大な岩を空中で支え、その隙に全員が出口へ飛び込んだ。
外に出た瞬間、一行は瓦礫の崩れる轟音を背に大きく息をついた。
「……生きてる?」
ガロンが盾を地面に置きながらぼやく。「こんなところ、二度と来たくねえな」
「でも、興味深い発見だったわ」
ミーナが衣服についた砂を払いつつ、微かに笑みを浮かべる。
その時、フルカが空を舞い上がり、周囲を見渡した。「なんか変な感じがする」
「変な感じ?」
アルドが眉をひそめると、ミーナも顔を上げた。「何かが私たちを見ている気がするわ……でも、何なのかはわからない」
一行は一瞬だけ立ち止まり、辺りを見回した。だが、どこにも異変は見当たらない。ただ、不穏な気配だけが空気を染めていた。
「……気のせいかもしれないが、用心はしておこう」
アルドが短く言うと、全員が再び歩き始めた。遺跡を後にし、静けさの広がる夜空へと足を進めていった。
遺跡から脱出し、暗い夜空が頭上に広がる中、一行はしばらく無言で歩き続けた。満天の星が輝き、疲れた体を癒してくれるようだった。
「ねえ、みんな!」
フルカが翼を広げて空を舞いながら言った。「これでまたすごい冒険の予感がするよね!」
「お前の予感は大抵ろくなことにならないんだよ」
アルドが苦笑しながらたしなめたが、その口元にはどこか楽しげな表情が浮かんでいた。
「でも、楽しいじゃん!次はどんな謎が待ってるのかな?」
フルカが無邪気な笑顔を見せると、ガロンが肩をすくめた。「次はもう少し穏やかなやつにしてくれ……いや、無理だろうな」
「次の冒険も無事に乗り越えられるといいわね」
ミーナが星空を見上げながら呟くと、一行は再び歩き始めた。ギルドへの帰還を決意し、未知の未来への期待を胸に進んでいく。
新たな冒険が、また彼らを待っている――。
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