新たなる挑戦

ギルドホールの片隅で、一行は次の冒険について話し合っていた。フルカが椅子に逆さに座りながら、何やら得意げに語っている。


「ねえ、次はもっとすごい冒険がしたい!雷翼竜なんてほんの序章だよ!」


アルドが溜息をつきながら言い返す。「お前があんな無茶をするから、どれだけ装備が壊れたと思ってるんだ。少しは慎重に――」


その時、ギルドマスターが静かに一行に近づいてきた。彼の顔はいつになく真剣だった。


「君たちに特別依頼だ」


その一言で場が静まり返る。一行全員がギルドマスターの顔を見つめた。


「未知の地域にある古代遺跡の調査だ。失われた技術や未解明のエネルギー源が存在する可能性がある。ただし、極めて危険な任務だ。私たちのギルド全体の未来に関わる重要な依頼でもある」


「やる!もちろんやるよ!」

フルカが即答し、勢いよく椅子から立ち上がる。その元気な声に、アルドが慌てて制止した。


「待て、内容をちゃんと聞いてからだ!」


ギルドマスターは苦笑しながら続けた。「魔法の罠、未知の生物、そして遺跡そのものが試練を与えるだろう。それでも行くか?」


ミーナが慎重な口調で尋ねる。「その遺跡の場所は?」

「北方の深い森の奥だ。地形も厳しく、辿り着くまでにも困難があるだろう」


その説明を聞き、ガロンが苦々しい表情で呟いた。「また骨が折れそうな仕事だな」


しかし、フルカは嬉しそうに目を輝かせて言った。「ねえ、早く行こうよ!どんな罠があるか楽しみだね!」


アルドとミーナは顔を見合わせ、揃って深いため息をついた。



翌朝、ギルド内は活気に満ちていた。一行もそれぞれの準備を進めている。アルドは腰を下ろし、愛用の剣を静かに研いでいた。剣の刃先が徐々に光を取り戻すのを見て、満足げに頷く。


「やっぱり手入れが大事だな」

独り言のように呟く彼の横では、ミーナが真剣な表情で呪文書をめくっている。新しい呪文の練習に余念がなく、時折指先から小さな光がほとばしる。


「これで新しい罠にも対応できるはず……」

そんな中、フルカはというと、ギルドショップの棚を物色しながら、あちこち飛び回っていた。


「これも面白そうだし、あれも欲しいな!」

彼女はまるでお菓子屋に入った子どものように目を輝かせている。その横でガロンが苦笑しながら店主と交渉を続けていた。


「これ以上は値切れねえのか?あんたも冒険者相手の商売なんだろ?」

店主は困ったように肩をすくめる。「確かにあんたらの活躍は聞いてるけどね。雷翼竜を倒した英雄だってのは本当かい?」


ガロンが誇らしげに頷きかけた瞬間、店主が言葉を続けた。「でも、だからってただで物を渡すわけにはいかない。商売は商売さ」


そのやり取りを横目に、フルカが奇妙な道具を手にして戻ってきた。「ねえこれ、何に使うの?」


それは何とも説明しがたい形をした金属の塊だった。大小さまざまなボタンが付いていて、一見すると使い方がまったく分からない。近くにいたギルドの発明家が興味深げに近づいてきた。


「ああ、それはね、引っ張って押して回すと――すごいことが起きるんだ」


「すごいことって?」

フルカが目を輝かせて尋ねると、発明家は得意げに答えた。「それは使ってみないと分からないよ。けど、まあ、面白いことは間違いないね!」


「じゃあ買う!」

フルカは迷うことなく購入を決めた。アルドがそれを見て眉をひそめる。


「おい、それ絶対に必要ないだろ」

「そんなことないよ!こういうのが後々役に立つんだから!」

フルカは楽しそうに道具を抱えてくるくる回り始めた。その無邪気な様子に、アルドは深いため息をつきながら呟いた。


「また無駄遣いを……本当に大丈夫なのか」


ミーナも肩をすくめながら微笑む。「まあ、あの子が楽しいならそれでいいんじゃないかしら。どうせ予算の半分以上はフルカのせいで飛んでいくんだし」


「えー、ひどい!でもまあ、楽しいからいいよね!」

フルカはにこにこと笑いながら、手にした奇妙な道具を回して遊び始めた。その動きが妙にぎこちなく、ガロンが不安げに声をかける。


「おい、それ本当に壊れないだろうな?」

「大丈夫!これ、きっとすごいことが起きるって言ってたもん!」


彼女の無邪気な言葉に、発明家が少し離れたところでこっそり肩をすくめているのが見えた。彼は小声で呟く。


「まあ、たぶん壊れることはないだろうけど、どうなるかは知らないよ……」


そんな一幕がありながら、一行の準備は着々と進んでいく。フルカが奇妙な道具を片手に嬉しそうに飛び回る中、アルドは再び剣に集中し、ガロンは交渉を諦めてため息をついた。


「骨が折れるどころじゃない仕事になりそうだな」


それでも、彼らの顔にはどこか楽しげな雰囲気が漂っていた。準備が整い、一行は新たな冒険に向けて一歩を踏み出すのだった。



ギルドの玄関口には、冒険の準備を整えたフルカたちが立っていた。それぞれが武器を確認し、荷物を背負いながら、出発前の緊張感を感じている。朝焼けが街を優しく照らし、空気には清々しい冷たさが漂っていた。


周囲にはギルドの冒険者たちが集まり、励ましの声を送っている。


「無事に帰ってこいよ!」

「またすごい話を聞かせてくれ!」


その声に、フルカは明るく応じた。「もちろん!今回はもっとすごい冒険になるから楽しみにしてて!」

彼女の無邪気な笑顔に、周囲の冒険者たちは思わず笑いをこぼした。


一方、アルドは鋭い眼差しで周囲を見渡しながら、静かに仲間たちの装備を確認していた。「剣の刃こぼれはないな。ミーナ、呪文書はしっかり防水したか?」


ミーナは苦笑しながら答えた。「ええ、念入りに準備したわ。あなた以上にね」

ガロンは大きな荷物を背負いながら腕を回し、「俺は準備万端だ。今回はどんな罠が待ってるか楽しみだな」と軽口を叩いた。


その時、ギルドの扉が開き、ライバルチームのリーダーが現れた。疲れた表情ながらも、その目は挑戦の炎を宿している。


「お前たち、本当に行くのか」

彼は腕を組みながら呟いた。その言葉にフルカが振り返り、明るい声で応じる。「うん!私たちに任せて!」


ライバルリーダーはふっと笑いを浮かべると、真剣な表情で続けた。「次は俺たちが追い抜いてやるからな。お前らが持って帰った情報を元に、さらに先を目指すつもりだ」


「負ける気がしないなぁ。でも、応援してるよ!」

フルカが軽やかに言い放つと、ライバルリーダーは肩をすくめて笑った。「お前のそういうところ、ちょっと羨ましいな。まあ、せいぜい気をつけろよ」


一瞬の和やかな空気の後、ギルドマスターが一行に近づいてきた。その表情には期待と不安が入り混じっている。


「君たちならきっとできる。だが、今回の依頼はこれまでのものとはわけが違う。慎重に、そして全力で挑んでくれ」

その言葉に、一同の表情が引き締まる。


アルドが一歩前に出て、ギルドマスターに向かってきっぱりと言った。「成功させます。それが俺たちの役目だから」


彼の力強い声に、フルカたちも頷いた。それを見て、ギルドマスターは小さく微笑む。「期待しているよ。無事に帰ってきてくれ」


その後ろで、フルカは小さく拳を握りしめながら言った。「行こう!きっと楽しい冒険が待ってる!」

その言葉に、ミーナが軽くため息をつきながら微笑む。「またそんな無茶なこと言って……でも、あなただから信じられるわ」


周囲からの励ましの声と見送りを背に、一行は静かに歩き出した。冒険者たちの視線を受けながら、彼らは次なる挑戦へと向かう。朝焼けが新たな一歩を祝福するかのように、赤く輝いていた。



夜明け前、一行はギルドを出発した。まだ空には星々が瞬き、冷たい夜風が頬を撫でていく。街の喧騒はすっかり遠ざかり、目の前には暗く静かな森が広がっている。松明の揺れる光が、道なき道を進む彼らの足元を照らしていた。


フルカは、翼を軽く羽ばたかせながらふわりと浮かび上がる。星空を仰ぎ見る彼女の顔には、期待と好奇心が満ちていた。


「ねえ、みんな!次はどんな冒険が待ってると思う?」

フルカの無邪気な問いかけに、ガロンが肩をすくめながら笑い声を漏らす。「どうせまた骨が折れるに決まってるさ。でも、まあ悪くないけどな」


「骨が折れるって……そんなこと言わないの!」

フルカはぷくっと頬を膨らませて抗議するが、ガロンはまったく動じない様子で続けた。「お前がいる時点で、楽になることなんてないんだよ。いい加減慣れろって話さ」


その言葉にミーナも笑みを浮かべながら応じた。「でも、確かに乗り越えた時の達成感は格別よね。冒険の魅力って、そういうところだと思うわ」


アルドは先頭で周囲を警戒しつつ、仲間たちの会話に耳を傾けていた。やがて足を止め、振り返りながら静かに呟く。「どんな困難が待っていても、俺たちならきっと乗り越えられるさ。これまでだってそうだったんだからな」


その言葉に、フルカが大きく頷いた。「そうだよね!私たち、めっちゃ強いもん!どんな罠があっても平気だよ!」


「いや、お前が罠を作る側だろってくらいの勢いだがな」

ガロンが苦笑しながらぼやくと、フルカは「失礼しちゃうなぁ」と言いながら笑った。


森を進む中、フルカがふいに星空を指差して言った。「見て!あの星、すっごく明るいよ!」

彼女の視線の先、ひときわ輝く星が暗い空に浮かんでいる。それはまるで、一行を未知の領域へと導く灯火のように見えた。


「これって、私たちの行く先を照らしてくれてるみたいじゃない?」

フルカの言葉に、ミーナが小さく笑みをこぼす。「そうね。冒険者にとっての道標かもしれないわ」


アルドもその星を見上げながら小さく呟いた。「どんな試練が待っていようと、俺たちには進むしかない。それが冒険者だ」


徐々に空が明るみを帯び始め、東の空に朝日が顔を出した。夜の静けさを破るように鳥のさえずりが聞こえ、森が新しい一日を迎えたかのように目を覚ましていく。


フルカは翼を広げ、朝日に向かって軽く羽ばたいた。「ほら、もうすぐ新しい冒険が始まるよ!みんな、早く行こう!」


その背中を見つめながら、アルド、ミーナ、ガロンの三人は微笑みを浮かべる。それぞれの心に不安と期待が入り混じる中、彼らは再び歩み始めた。


朝日が彼らの道を照らし、遠く続く未知の領域へと一行を誘っていく。これから待ち受ける新たな冒険――それがどんな困難であれ、彼らは必ず乗り越える。そう確信しながら、彼らの影は徐々に森の奥へと消えていった。

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