冒険者ギルドの報告
ギルドの大きな扉をフルカが勢いよく開け放った。
「ただいまー!雷翼竜、やっつけたよ!」
その元気な声がギルドホールに響き渡ると、中にいた冒険者たちが一斉に振り返った。ざわめきが広がり、次第にその場の空気が変わっていく。
「本当に討伐したのか?」
「まさか、あの雷翼竜を……?」
冒険者たちの視線を浴びながら、フルカは自信満々に胸を張って進む。その後ろからアルド、ミーナ、ガロンが少し疲れた様子で続いてきた。
「フルカ、あまり騒ぎすぎるなって言っただろ」
アルドが小声で注意するが、フルカは聞く耳を持たずに笑顔を浮かべている。
受付嬢が慌てて駆け寄り、驚きと喜びが入り混じった声で言った。
「お疲れ様です!雷翼竜の討伐、本当に成功したんですか?」
「もちろん!すごかったんだから!」
フルカが嬉しそうに語り始めるが、その内容はあまりにも話が膨らみすぎていた。
「それで私が空を舞って、ドッカーンって雷を跳ね返してね――」
「はいはい、そこまでにしとけ」
アルドが彼女の肩を軽く叩いて話を遮り、冷静に報告書を差し出した。
受付嬢が報告書を受け取ったその瞬間、ギルドの奥からギルドマスターが現れた。
「おお、戻ったか。君たちの成功は既に聞いている。素晴らしい働きだ」
ギルドマスターの言葉に、ギルドホール全体が一斉に拍手で包まれる。その音にフルカはさらに調子に乗り、手を振って応える。
「もっと褒めていいよー!」
ギルドマスターから報酬の袋が渡されると、フルカは待ちきれない様子で真っ先に手を伸ばした。袋を掴むと勢いよく中を覗き込み、その瞬間目を輝かせて声を上げた。
「わぁ!こんなにたくさん!」
嬉しそうに袋を抱えたフルカは、その場でくるくると回り始めた。その無邪気な動きに、周囲の冒険者たちが思わず微笑む。
「おいおい、そんなに喜んでどうするんだ」
ガロンが苦笑しながら腕を組み、少しからかうように言った。
「どうせお菓子代にしか使わないんだろ?」
「当然!こんなにあれば、しばらくは食べ放題だよね!」
フルカは得意げに笑いながら袋をぎゅっと抱きしめた。その様子を見て、ミーナが額に手を当てて呆れたようにため息をつく。
「少しは冒険の資金として考えたらどうなの?せっかくの報酬なんだから」
真剣な表情で言うミーナに、フルカは一瞬だけ考える素振りを見せたが、すぐに元気いっぱいに返事をした。
「冒険の資金?そうだね、それならもっといい剣とか買って――それでまた雷翼竜みたいなのをやっつけるの!」
そのあまりにも無邪気な発言に、一瞬の静寂の後、周囲の冒険者たちが一斉に笑い出した。
「こいつ、本当に何も考えてないな」
アルドが呆れたように肩をすくめながら言うと、ミーナが同調して頷いた。
「むしろそこが彼女らしいっていうか……でも、それでまた危険なことをしようとするんでしょ?」
「だって冒険者だもん!危険じゃないとつまんないでしょ!」
フルカは胸を張りながら笑う。そんな彼女を見て、ガロンがため息交じりに言った。
「お前みたいなやつと一緒だと骨が折れるぜ。でも……楽しいのも確かだな」
その言葉に、フルカは満面の笑みで返した。
「でしょでしょ!私、すごいんだから!」
フルカが抱えていた報酬の袋を勢いよく振り回した瞬間、中から金貨がひとつ転がり出て床にカランと音を立てた。それを見て冒険者たちがさらに笑い声を上げる。
「おい、無駄にするな!」
アルドが慌てて金貨を拾い上げて渡すと、フルカは舌を出して照れたように受け取った。
「大丈夫、大丈夫!これくらいじゃなくならないよ!」
「いや、そういう問題じゃないんだが……」
アルドが肩を落とす一方で、ミーナとガロンは微笑みながらそのやり取りを見守っていた。
フルカの無邪気さと元気な声がギルドホールを明るく照らし、その場にいる全員を和ませていた。
ギルドの扉が音を立てて開いた。その瞬間、一行が振り返ると、そこには見慣れた顔ぶれ――ライバルチームが立っていた。彼らは全身に土や傷の痕を纏いながらも、どこか達成感のある満足げな表情を浮かべている。
「お前たち、本当にやりやがったな」
リーダーが腕を組みながら一歩前に出て、感心したように微笑んだ。その声は場の空気を変え、一瞬の静けさが訪れる。
「すごかったでしょ!」
フルカが満面の笑みを浮かべながら一歩前に出る。袋を片手に振りながら、誇らしげに言葉を続けた。
「だって私、賢者だもん!」
その言葉にライバルリーダーは苦笑し、肩をすくめて返した。
「まあ……ハーピー基準ではな」
リーダーの返答に、その場にいたギルドの冒険者たちから笑い声が起こった。疲労感が漂っていたギルドホールに、明るい雰囲気が一気に広がる。
「ねえねえ、見てた?私の戦いぶり!念動力で雷を操ってね――」
フルカが身振り手振りで雷翼竜との戦いを再現し始めると、ライバルチームの後ろにいたメンバーが吹き出した。
「お前、やっぱりちょっと変わってるよな」
「えー、そう?普通にすごいだけだよ!」
フルカは笑顔を浮かべながら答えるが、その「普通」の基準が皆と大きくズレていることには全く気付いていない。
その光景を見ていたアルドが前に出て、リーダーと向き合った。「よく無事だったな。俺たちもギリギリだった」
リーダーは静かに頷くと手を差し出した。「まあな。だが、正直に言うと、お前たちがいなければ、うちは持たなかったかもしれない」
「お互い様だよ。危ない場面は何度もあった」
アルドはリーダーの手を握り返し、固い握手を交わした。その光景に周囲の冒険者たちも感心したように頷く。
「次は負けないぞ。またどこかで競い合おう」
リーダーの言葉に、アルドは力強く頷いた。「ああ、望むところだ」
その横でフルカが楽しそうに笑いながら呟く。「負ける気がしないなぁ」
「まあ、それはお前が全力で突っ走るからだろうな」
リーダーが冗談めかして言うと、フルカは目を輝かせて翼を広げた。「そうだよ!冒険って突っ走らなきゃつまんないもん!」
再び場が笑いに包まれる中、ライバルチームのメンバーが軽く手を挙げながら近づいてきた。
「俺たちも報酬を受け取りに来たんだが、何か見せつけられた気分だな」
「ふふん、もっと見ててもいいよ!」
フルカが胸を張ると、リーダーは笑いながら仲間たちに目配せをした。「またどこかで会おう。次はもっとすごいものを見せてやるからな」
その言葉に、アルドは静かに頷いた。「こっちも準備しておくさ。その時が楽しみだな」
ライバルチームが報酬を受け取りに向かう中、一行は肩の力を抜いて再び談笑を始めた。絆を深め合った二つのチームが、それぞれの次なる冒険へ向けた準備を進めていく様子が、ギルドホールの温かな雰囲気をさらに盛り上げていた。
ギルドホールのざわめきが少し落ち着いた頃、ギルドマスターが静かな足音で一行の前に現れた。その表情は真剣そのもので、先ほどの賑やかな雰囲気とは打って変わり、場の空気が引き締まった。
「君たちの次なる挑戦だが……ギルドにとって非常に重要な特別依頼がある」
その言葉に、一行の間に緊張が走る。しかし、それを一瞬でかき消したのは、フルカの勢いある声だった。
「やる!それ、私たちがやるよ!」
彼女は力強く拳を握りしめ、羽ばたくように一歩前に出た。その目は好奇心に輝き、全身がやる気に満ちている。
「おいおい、落ち着け!」
アルドが慌てて彼女を引き戻しながらため息をつく。「まずは内容を聞けって言ってるだろ」
ギルドマスターは苦笑しながら、少し肩をすくめて話を続けた。「ふむ、君たちらしい反応だな。では、詳細を説明しよう」
彼は近くのテーブルに広げられた古びた地図を指差した。その地図は所々擦り切れていたが、未知の地域が赤く丸で囲まれており、その上には「古代遺跡」と記されていた。
「これは、ギルドが長年調査しようとしてきた場所だ。だが、これまで挑んだ冒険者たちは皆、戻ってこなかった」
その言葉に、一行の表情が険しくなる。ミーナが慎重に尋ねた。「具体的に、どんな危険が予想されるのですか?」
「まず、遺跡自体が非常に複雑な構造を持っている。魔法の罠が至る所に仕掛けられている可能性が高い。そして、未知の生物――遺跡を守るための何か――が現れるかもしれない」
「未知の生物、か」
ガロンが腕を組んで低く唸る。「つまり、また骨の折れる仕事ってわけだな」
ギルドマスターは頷きつつも、一行をじっと見つめた。「だが、君たちならばこの依頼をやり遂げられると信じている。先の雷翼竜の戦いが、その証明だ」
その瞬間、フルカがぱっと顔を輝かせた。「ねえ、早く行こうよ!どんな罠があるか楽しみだね!」
彼女の無邪気な発言に、アルドとミーナは顔を見合わせて深いため息をついた。だが、そのため息には微かな笑みが混じっている。
「本当にお前ってやつは……」
アルドが呟きながらも剣の柄を軽く握り直す。「まあ、準備はしっかりしておかないとな。無茶だけはやめてくれ」
ミーナも地図に目を落としながら静かに頷いた。「罠や生物はともかく、遺跡の構造そのものが試練になるというのは厄介ね。魔法で何とかなるならいいけど」
「大丈夫だって!私が全部やっつけるから!」
フルカは胸を張り、誇らしげに翼を広げた。
「いやいや、お前一人で全部片付ける気かよ」
ガロンが苦笑しながら言うと、フルカはにっこり笑って返した。「もちろん!だって私、賢者だから!」
その言葉に、ギルドマスターも思わず微笑みを浮かべた。「賢者か……。君たちのような型破りな冒険者が、この遺跡に挑む姿を楽しみにしているよ」
そして彼は真剣な目で一行を見渡した。「だが、これはギルドにとって重要な任務だ。決して油断しないように。君たちの帰還を心から祈っている」
その言葉を受け、アルドが力強く頷いた。「任せてくれ。やるからには全力を尽くすさ」
フルカも大きく頷き、拳を天に向かって突き上げた。「よーし、次の冒険も楽しもう!」
仲間たちの視線が交わり、それぞれの胸に新たな決意が刻まれる。その光景を見届けたギルドマスターは、静かにその場を後にした。
フルカたちは、次なる挑戦への期待に胸を膨らませながら、それぞれの準備を始めるためにギルドホールを後にした――。
ギルドホールを後にした一行は、ひんやりとした夜風に包まれながら外へ出た。見上げた空には無数の星々が散りばめられ、その輝きがまるで彼らを祝福しているかのようだった。嵐の気配も、雷翼竜との激しい戦いの余韻もすっかり消え去り、世界は静けさと安らぎに満ちていた。
フルカが大きく翼を広げ、一気に宙に浮かび上がる。「ねえ、見て見て!星がすっごく綺麗だよ!」
彼女の羽ばたきに応じるように、夜空の星が瞬き、かすかに光の帯を描いているように見えた。フルカは嬉しそうに空を舞いながら、笑顔で仲間たちを見下ろした。
「次の冒険は、もっともっとすごいことが待ってるよね!」
その無邪気な声に、アルドは肩をすくめて笑った。「おい、そんなに張り切るなよ。無茶するなって言っただろ」
フルカは空中でくるりと回転しながら笑顔を浮かべた。「無茶じゃないよ!ただ楽しいだけだもん!」
「楽しいだけって……お前の楽しいは、こっちからすると命懸けなんだぞ」
アルドが苦笑しながら頭を掻くと、地上で見守っていたミーナとガロンも微笑んだ。
ミーナは小さくため息をつきながら言った。「でも、フルカがいるおかげで、私たちも退屈しないわね」
「退屈どころか、刺激的すぎるんだよな」
ガロンが苦笑しつつ盾を軽く持ち直し、空を見上げた。「でもまあ、これくらいが冒険者って感じだよな」
フルカはその言葉に満足げに頷き、再び仲間たちのそばに降り立った。「でしょでしょ!だから次も絶対楽しいよ!」
彼女の翼が夜空の光を反射し、柔らかな輝きを放つ。その光景はまるで、次なる冒険がすでに彼らを呼び寄せているかのようだった。
「よし、それじゃ準備を整えたら出発だ」
アルドが地図を広げながら仲間たちに声をかけると、全員がそれぞれ小さく頷いた。彼らの間には、言葉では語り尽くせない絆が確かに存在していた。
フルカはそんな仲間たちを見渡しながら、胸を張って言い放つ。「もっとすごいこと、いっぱい見つけようね!」
その言葉に応えるように、仲間たちは微笑み、静かに歩き出した。
夜空の下、一行の姿は星々の光を浴びてどこか神秘的に映っていた。彼らが向かう先には何が待ち受けているのか――誰もまだ知らない。だが、その歩みには確かな自信と希望が宿っていた。
「新しい冒険、楽しみだな」
フルカの明るい声が響き渡り、一行は新たな目的地に向けて歩き続ける。その背中を、満天の星空がいつまでも見守っていた――。
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