雷翼竜の影を追う冒険
「これ、本当に雷翼竜の鱗なの?」
ギルドホールに戻ったフルカたちは、発見した鱗を受付嬢に見せていた。その横でギルドマスターが頷きながら古びた本を広げる。
「間違いありません。この模様、この輝き――確かに雷翼竜のものですね」
ギルドマスターの言葉に、フルカは目を輝かせた。「すごい!本物の竜の鱗だなんて、冒険者っぽくなってきたよ!」
アルドが興奮するフルカをたしなめるように肩を叩く。「フルカ、冷静に。これが本当に雷翼竜の痕跡だとしたら、今後の行動を慎重に決めないと」
「慎重?そんなのつまんない!」
フルカの軽口に、ミーナが呆れたようにため息をつく。「でも、本当に危険よ。雷翼竜の伝説では、その巣は他の生物が生き残れないほどの過酷な環境だって」
ギルドマスターが地図を指差しながら説明を続ける。「ここに雷翼竜が現れたという目撃情報があります。巣に向かうには、この森を抜ける必要がありますが、途中に危険区域がいくつもあります」
「危険?いいね、ワクワクしてきた!」
フルカの無邪気な笑顔に、アルドとミーナは思わず顔を見合わせた。
「準備を整えてから出発しよう。それから詳細な計画を立てる。フルカ、頼むから飛び出していくなよ」
「うん、わかったよ!きっと計画的に……ワクワクするやつにするからね!」
その瞬間、アルドの心の中で不安が増したのは言うまでもなかった。
「よし、ここからは地図を見ながら進もう」
森の入り口に立ったアルドが、慎重に地図を広げる。その横では、フルカが念動力で地図を宙に浮かせて遊んでいた。
「ねえ、この道だよね?私が案内する!」
フルカが元気よく言うが、アルドはすぐに眉をひそめた。「待て、フルカ。方向が逆だ」
ミーナが地図を取り上げ、「これだから調子に乗るんだから……」と軽くため息をつく。そして正しい方向を指差しながら続けた。「こっちよ。間違えないで」
「ちょっとくらい冒険らしく迷ってもいいじゃん!」
フルカはぶつぶつ言いながらも、結局ミーナの指示に従って前を進み始めた。その後ろ姿に、アルドは半分呆れながら肩をすくめる。「なんで彼女はこうなんだろうな」
「でも、彼女がいると退屈はしないわね」
ミーナの言葉に、アルドも思わず苦笑した。「確かにそれは認めざるを得ないな」
森の中は薄暗く、木々の隙間から射すわずかな光が足元を照らしていた。一行は静かに進むが、フルカの念動力で浮かぶ落ち葉や小石が、カラカラと音を立てて周囲の静寂を破っている。
「フルカ、念動力はそのうち消耗するんだから、無駄遣いするなよ」
アルドが注意すると、フルカは手を振りながら笑った。「大丈夫だって!私の力、まだまだ余裕あるもん!」
「力の問題じゃなくて、音で敵を引き寄せる可能性の話よ」
ミーナが冷静に指摘すると、フルカは少しだけシュンとなったように見えたが、すぐに「じゃあ、音がしないように浮かせるね!」とまた意気揚々と応えた。
道中、突然木々がざわめき、風が止んだ。一行の足がピタリと止まる。
「ここが危険区域の入り口ね」
ミーナが低い声で言うと、周囲の静けさが一層際立つ。アルドは剣を軽く握り直しながら考え込んだ。「どうする?安全ルートを迂回するべきだが、時間がかかる」
「時間かかっても安全な方がいいんじゃない?」
ミーナが提案するが、フルカは即座に反論する。「突き進むのが一番でしょ!冒険はスリルが大事だよ!」
「おいおい、そういう話じゃないんだ」
アルドが苦笑しながらフルカを制止しようとするが、彼女はまったく気にする様子もなく、進む気満々だった。
「まあ……それも一理あるかもしれない」
アルドが苦笑しながら妥協案を模索していると、ミーナが鋭く言い放った。「時間はかかっても、安全なルートを選びましょう。その方が最終的に成功率が高いのだから」
結局、安全ルートを選ぶことになったが、道中は意外なハプニングの連続だった。
迂回路は木々が生い茂り、所々で頭を低くしなければ通れない狭い道だった。フルカがそのたびに「うわっ!」「あいたっ!」と頭や翼をぶつけるたびに、仲間たちは思わず笑ってしまう。
「これ、全然安全じゃないじゃん!」
フルカが文句を言いながらも、何とか狭い道を通り抜けた。一行がようやく広い道に出た頃には、全員の表情が少しほぐれていた。
「ここならしばらくは平和そうだな」
アルドが安堵の声を漏らすと、ミーナも小さく笑みを浮かべた。「フルカのおかげで、危険区域でも楽しく進めるわね」
「へへー、もっと褒めていいよ!」
フルカが嬉しそうに胸を張り、再び道の先を歩き出す。
その先、風が再びざわめき始めた。遠くから聞こえる不思議な音に、一行は足を止めた。
「……何か、近くにいるのか?」
アルドが小声で周囲を見回すと、ミーナも緊張の面持ちで頷いた。「何かの気配を感じる。でも、まだはっきりとはわからない」
「だったら早く進もう!もしかして雷翼竜が近いんじゃない?」
フルカの言葉に、アルドとミーナは再び顔を見合わせた。「彼女のそのポジティブさだけは本当にすごいな」
緊張感と笑いが交差する中、一行は次の目的地へと進み続けた。
「見て!これ、何かの足跡だよ!」
進んだ先で、フルカが地面を指差して大声を上げた。その場所には、土が大きく抉られた痕跡があり、巨大な爪の跡がくっきりと残っている。
「すごい……これが雷翼竜の足跡なの?」
ミーナが驚きの声を上げ、しゃがみ込んでその形状を観察する。爪の先端は鋭く、地面を深くえぐっているのがわかる。
アルドは険しい表情で周囲を見回しながら言った。「間違いない。この大きさと爪の形……ただの竜じゃない。雷翼竜の可能性が高い」
フルカは目を輝かせながら、足跡に顔を近づけていた。「すごい!これ、どこまで続いてるのかな?」
「おい、そんな近づくな!」
アルドが警告するが、フルカは気にせず足跡を辿り始める。
「これ、まだ新しい痕跡だわ」
ミーナが土の状態を確認しながら呟くと、アルドは鋭い声で続けた。「なら尚更だ。奴が近くにいるかもしれない」
その言葉に、フルカは逆に興奮したように勢いよく立ち上がる。「じゃあ探そうよ!すっごい発見になるよ!」
「待て、フルカ!」
アルドとミーナが同時に声を上げて止める。アルドはフルカの肩に手を置き、真剣な表情で言った。「雷翼竜は危険だ。俺たちの力でどうにかなる相手じゃない可能性が高い」
「でも、見つけるだけなら平気でしょ?」
フルカは不満そうに口を尖らせるが、ミーナが冷静に補足する。「それがどれだけ危険なことかわかってないわね。奴が私たちを見つけたら、逃げる暇もないかもしれない」
「そんなことないよ!だって私、強いし!」
フルカが胸を張って自信満々に答えるが、アルドは肩をすくめてため息をついた。「そういう問題じゃないんだ……」
「この痕跡は記録して、ギルドに報告しよう。それが最善だ」
アルドが静かに言うと、ミーナも頷いた。「ギルドには詳しい情報を持つ人がいるはずだものね。この足跡を無駄にしないためにも、今は戻るべきよ」
「えー、つまんない!」
フルカはぶつぶつ言いながらも、仲間たちの真剣な表情に押され、しぶしぶ足跡から離れた。
「これが竜の足跡だなんて、すごいじゃん!次は絶対に竜そのものを見つけたい!」
後ろを振り返りながら、フルカはまだ名残惜しそうに足跡を眺めていた。
一行は記録を終えると、足跡の周囲を慎重に調べながら森を後にした。アルドは最後にもう一度足跡を見つめ、呟いた。「……これが本当に雷翼竜のものなら、俺たちの冒険はここから大きく変わるかもしれないな」
その言葉を聞きつけたフルカが勢いよく振り向く。「変わるってどういうこと?もっと楽しくなるってこと?」
「いや、もっと命がけになるってことだ」
アルドの冷静な答えに、ミーナは微かに笑みを浮かべた。「でも、それが冒険の醍醐味でしょ」
「その通り!」
フルカは元気よく答え、一行は再び前に向かって歩き始めた。
背後に残る巨大な足跡が、物語の新たな幕開けを予感させるかのように、一行の行く末を見守っていた。
「おい、誰か来るぞ」
アルドが森の奥をじっと見つめて剣を抜いた。その声にフルカも反応し、念動力で手頃な小石を浮かせて警戒する。
茂みの中から現れたのは、見覚えのある冒険者たちだった。
「お前たち……また会うとはな」
ライバルチームのリーダーが腕を組みながら苦笑する。彼らもどこか疲れた表情をしていたが、目は鋭く輝いている。
「うわー!また会ったね!」
フルカが嬉しそうに手を振ると、ライバルチームのメンバーは驚きつつも警戒心を解かない。
「君たちも雷翼竜の情報を追っているのか?」
アルドが問いかけると、リーダーは軽く頷いた。「ああ。この森に竜の巣があるという噂を聞いてな。だが、どうやら目的地は同じらしいな」
「同じなら、一緒に行こうよ!」
フルカが笑顔で提案すると、リーダーは少し考え込んでから「悪くない案だな。ただし、先に巣を見つけたほうが勝ちだ」と不敵に笑った。
「いいよ!勝ったらご馳走してね!」
フルカは満面の笑みで冗談を飛ばし、軽く拳を突き上げた。その様子にライバルチームのメンバーも思わず吹き出す。
「ちょっと待て、フルカ」
アルドが肩をすくめながらたしなめる。「無茶はするな。これはただの競争じゃない。雷翼竜は危険だ」
「わかってるってば!」
フルカは明るく返事をしながらも、すでに目は森の奥を見つめていた。
一時的な協力体制が整い、二つのチームは並んで森の奥へと進んでいった。しかし、その間にもどちらが先に巣を見つけるかを巡って微妙な競争心が芽生えていた。
フルカはライバルチームのリーダーに「そっち、さっき蜘蛛に追われてたでしょ?私たちのほうが頼れるよ!」と茶化すように言う。
リーダーは笑いながら応じた。「じゃあ、君たちが先導してくれるんだな。何かあったら頼りにしてるぞ」
そのやり取りにアルドとミーナは小さくため息をつき、互いに視線を交わして微笑む。
「何か起きそうね」
ミーナがぽつりと呟くと、アルドは低く答えた。「ああ、嫌な予感しかしない」
こうして、フルカたちとライバルチームの奇妙な共同戦線が幕を開けた。どちらが先に目的地へ辿り着くのか、冒険の結末はまだ誰にもわからない――。
「ここから先が『試練の地』だってさ」
アルドがギルドの地図を見ながら説明すると、ミーナが厳しい表情で地形を見渡した。
「この地形、見た感じだけでも危険そうね。岩壁が不安定だし、足元がぬかるんでいる部分もあるわ」
フルカは周囲をきょろきょろと見回し、興味津々で岩を指差した。「ねえ、これって落ちてきたりするのかな?」
「そんなことを言ってると――」
アルドが言い終わる前に、突然上方からガラガラと音が響き、巨大な岩が崩れ落ちてきた。
「危ない!」
アルドが剣を構えた瞬間、フルカが念動力で素早く反応。宙に浮かせた岩を一気に投げ飛ばし、全員を守った。
「やっぱり落ちてきた!」
フルカは笑いながら言うが、ミーナが呆れたように返す。「そんなことを楽しんでる場合じゃないでしょ!」
先へ進むと、足元がぐらぐらと揺れ始めた。地面が崩れ、道が遮断される。
「これ、どうやって渡るの?」
ミーナが眉をひそめる中、フルカが手を挙げて前に出る。「大丈夫、私に任せて!」
念動力で周囲の岩を浮かせ、即席の橋を作るフルカ。その大胆さにライバルチームのリーダーが驚きの声を上げた。「おいおい、本当にこんなことができるのか?」
「できるよ!ほら、早く渡って!」
フルカの自信満々の態度にアルドとミーナは苦笑しつつ、橋を渡り始めた。ライバルチームは一歩遅れて追随するが、途中でバランスを崩し、慌ててしがみつく姿にフルカが声を上げて笑う。
「気をつけてよ!落ちたら大変だからね!」
さらに進むと、空気がビリビリと静電気を帯びたように感じられた。
「この感じ……罠がありそうだな」
アルドが警戒する中、突然周囲の岩肌から電撃が放たれる。
「うわっ!」
ライバルチームのメンバーが叫ぶが、フルカが念動力で電撃を弾き返し、全員を守る。
「すごい、私ってやっぱり強いかも!」
フルカが胸を張ると、ミーナがため息をついた。「自信を持つのはいいけど、慎重にね」
電撃の罠や崩れる地形を突破し、一行はついに広場に出た。その中心には巨大な洞窟の入口が口を開けている。洞窟から吹き出す風には、どこか鋭く刺すような冷たさがあり、一瞬で周囲の空気が変わった。
「ここが……巣か?」
アルドが低い声で呟いた。その言葉に応えるように、洞窟の中からかすかな音が響く。それは雷のような音にも聞こえ、全員の背筋を凍らせた。
「やっぱりここにいるんだね!」
フルカは目を輝かせながら一歩前に踏み出す。
「待て!」
アルドがフルカの肩を掴んで止めた。「慎重になれ。雷翼竜が本当にいるなら、準備なしで入るのは自殺行為だ」
「えー、また準備?でもまあ、しょうがないか!」
フルカは口を尖らせながらも、渋々頷いた。
洞窟の中から雷鳴のような轟音が響き渡る。全員がその音に耳を傾け、緊張感に包まれる中で、フルカだけは笑顔だった。
「ねえ、早く行こうよ!絶対にすごいことが待ってる!」
アルドはその言葉に肩をすくめながらも、険しい表情を崩さなかった。「いや、準備だ。雷翼竜が本当にいるなら、命がいくつあっても足りないぞ」
「また準備?しょうがないなあ……」 フルカはしぶしぶ頷いたものの、その瞳には期待と興奮が混じっていた。
洞窟の入り口で一行は一度立ち止まり、準備を整え始める。武器を確認し、呪文の詠唱の練習をする中、フルカがポツリと呟いた。
「でも、なんかすごい予感がするよ。ここに来るまでの冒険よりも、もっともっと大きな何かがね!」
その言葉に、アルドとミーナが一瞬だけ顔を見合わせた。次に待っているのは、彼らの想像を超える激戦の幕開けだった――。
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