冒険者たちとの競争
ギルドの喧騒の中、フルカたちは依頼掲示板の前で足を止めた。木の板にはさまざまな依頼が並び、冒険者たちが次々とそれを物色している。
「これだね、影縛り蜘蛛の討伐依頼」
アルドが指を差したのは、難易度Bランクの依頼だった。
「報酬も高いし、手ごたえもありそう」
「蜘蛛ねえ……気持ち悪いけど、まあいいわ」
ミーナが掲示板を見上げながら呟いた。
「影縛り蜘蛛? そんなの私に任せてよ!」
フルカが勢いよく手を挙げる。
受付に向かおうとするフルカを、アルドが少し困った顔で止めた。
「ちょっと待て。他の冒険者たちもこれに目をつけてる。競争になるかもしれないぞ」
その言葉にフルカは驚いた顔をする。振り返ると、確かに近くにいる冒険者チームがこちらを気にしている様子だった。一人の筋肉質な男が、フルカたちを睨むように見つめている。
「なにあれ? 私たちに挑戦しようってこと?」
フルカの目が輝く。
「挑戦というか、同じ依頼を受けようとしてるんだろう。早い者勝ちだな」
アルドが苦笑いを浮かべると、フルカは拳を握りしめた。
「じゃあ、勝負だね! 絶対に負けないんだから!」
フルカが張り切る姿に、ミーナは呆れたように肩をすくめた。
「また面倒なことになりそうね」
「いいじゃないか。競争があったほうが盛り上がる」
アルドも少しだけ楽しそうに見える。
そのままフルカたちは受付に向かい、依頼を正式に受けた。影縛り蜘蛛討伐の挑戦が始まったのだ。
「ここが影縛り蜘蛛が出没しているエリアだね」
フルカが念動力で浮かせた地図を見ながら言った。だが、地図は妙な角度で揺れており、方向感覚が怪しい。
「おい、それ本当に読めてるのか?」
アルドが眉をひそめると、フルカは自信満々にうなずいた。
「もちろん! えっと、ここをこう行って……あれ?」
地図がくるくると回り始め、フルカは混乱してしまう。
「ちょっと貸して」
ミーナが半ば呆れながら地図を取り上げ、正しい道筋を指し示した。
「こうよ、簡単でしょ?」
「そ、そうだったのね!」
フルカは少し照れくさそうに笑った。
一行が森に入ると、背後から声が聞こえてきた。
「おや、遅いじゃないか」
振り返ると、先ほどギルドで見かけたライバルチームの冒険者たちが近づいてきていた。
「私たちが先に影縛り蜘蛛を倒してやるさ」
リーダー格の筋肉男がニヤリと笑い、仲間たちとともにフルカたちを追い抜いていく。
「なにあれ、感じ悪い!」
フルカが憤慨しながら言う。
「まあまあ、競争ってそういうものだ」
アルドが宥めるが、フルカは念動力で足元の石を浮かせると、ライバルチームに向かって放り投げた。
「ちょっと挨拶代わりだよ!」
石はライバルのリーダーのすぐ脇をかすめ、地面にゴトンと音を立てて落ちた。
「おいおい、危ないじゃないか!」
リーダーが振り返って怒ると、フルカは悪びれる様子もなく笑顔を見せた。
「ごめんごめん、手が滑ったの!」
そのやり取りにミーナが深いため息をつく。
「やっぱり面倒なことになりそうね……」
森の奥深く、フルカたちは徐々に木々の間隔が狭くなり、湿った空気に包まれるエリアへと足を踏み入れた。視界が遮られ、どこか薄暗い雰囲気が漂っている。
「この辺り、雰囲気が変わったね」
フルカが念動力で周囲の枝を払いながら進む。ミーナが呪文の準備を始め、アルドは剣を抜いて警戒を強めた。
「気をつけろ。影縛り蜘蛛は暗闇を利用して襲ってくる」
アルドが低い声で注意を促すと、フルカは腕を組んで笑みを浮かべた。
「大丈夫だよ! 私の念動力で蜘蛛なんてひとひねりだから!」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、頭上の木々から何かが音を立てて降りてきた。
「ギィィィ……!」
不気味な声と共に、巨大な蜘蛛がその姿を現した。漆黒の体に細長い脚を持ち、赤い目がぎらぎらと光っている。
「出たわね!」
ミーナが呪文を唱え始めると同時に、アルドが剣を構えた。しかし、フルカは一歩前に出て、念動力で蜘蛛の脚を絡め取った。
「ほら見て、捕まえたよ!」
フルカが嬉しそうに叫ぶと、蜘蛛はその細長い脚を力任せに振り払い、念動力を振りほどいてしまった。
「えっ、結構強いじゃん!」
フルカが驚いたように言うが、次の瞬間、蜘蛛が素早い動きで彼女に向かって突進してきた。
「フルカ、下がれ!」
アルドが叫びながら剣を振るい、蜘蛛の動きを止める。しかし、蜘蛛はしつこく絡みつこうとする。
「こんなのお構いなしだ!」
フルカが念動力で周囲の小石を浮かせ、蜘蛛に向かって一気に投げつけた。石が蜘蛛の体を叩きつけ、ついにその動きを止める。
「やった!」
フルカが拳を突き上げて叫ぶと、ミーナが冷静に指摘した。
「まだ終わりじゃないわ。気配がもっとする……」
その言葉通り、暗闇の奥からさらなる蜘蛛たちが現れ始めた。
「こいつら、一匹だけじゃないのかよ!」
アルドが叫び、剣を構え直す。次々と現れる影縛り蜘蛛に対し、フルカたちは応戦を続ける。暗闇から現れる蜘蛛の脚が不気味に動き、地面を這い回る音が耳を刺した。
「思った以上に数が多いわね!」
ミーナが素早く呪文を詠唱し、光の矢を蜘蛛に向かって放つ。矢は正確に命中し、一匹の蜘蛛がその場に崩れ落ちたが、すぐに次の蜘蛛がその影から現れる。
「こんなの全部相手にしてられないよ!」
フルカが念動力で木の枝を浮かせ、それを蜘蛛の群れに向けて振り下ろす。蜘蛛たちは枝の攻撃を受けて後退するが、それでも勢いは衰えない。
その時、別の方向から誰かの叫び声が聞こえてきた。
「助けてくれ!」
振り返ると、先ほどのライバルチームが蜘蛛に囲まれていた。リーダーの筋肉男は剣を振るって必死に抵抗していたが、蜘蛛たちの数に押されて動きが鈍くなっている。
「フルカ、どうする?」
アルドが短く問いかける。フルカは一瞬考える素振りを見せたが、すぐに笑顔を浮かべて答えた。
「助けるに決まってるじゃん! そのあと勝負だね!」
フルカは手を振り上げ、念動力で周囲の石や枝を次々と浮かせると、それを一斉にライバルチームを囲む蜘蛛たちに向けて飛ばした。
「いけぇ!」
石が蜘蛛に命中し、枝がその脚を絡め取る。ライバルたちは驚いたようにフルカを見たが、すぐに態勢を整えて反撃を始めた。
「ありがとう……でも、まだ終わりじゃないぞ!」
リーダーの筋肉男が息を切らせながら叫び、共闘の形で蜘蛛の群れを迎え撃つことになった。
「こうなったら力を合わせるしかないな!」
アルドが剣を構えて叫ぶ。ミーナも隣で呪文を再び唱え始めた。
蜘蛛たちは暗闇に紛れ、動きを読ませないようにしてくる。それでもフルカは念動力で周囲の木々を揺らし、蜘蛛の位置を特定していく。
「そこだ!」
フルカが叫びながら、地面に埋まっていた大きな石を持ち上げ、それを蜘蛛に叩きつけた。蜘蛛の甲殻が砕け、黒い体液が地面に飛び散る。
「すごいな、お前!」
ライバルの一人が驚きの声を上げるが、フルカは得意げに笑っていた。
「でしょ? もっと褒めていいよ!」
「今はそんな場合じゃない!」
アルドが叫び、再び剣を振り下ろす。ミーナの光の矢が暗闇を裂き、蜘蛛たちを次々と焼き尽くす中、ライバルたちも果敢に戦った。リーダーの筋肉男が蜘蛛の脚を切り落とし、その隙に仲間がとどめを刺す。
「あと少しだ! 全力でいけ!」
アルドの声に応えるように、フルカは最後の力を込めて念動力を発動。蜘蛛の巣を絡め取るようにして引き剥がし、そこにいた蜘蛛をまとめて木に叩きつけた。
「いけるいける!」
フルカが叫ぶと、最後の蜘蛛が地面に崩れ落ちた。森に静寂が戻り、戦闘はついに終わったのだった。
「これで全部倒したかな?」
アルドが剣を鞘に収めながら周囲を見渡す。蜘蛛の死骸があちこちに散らばり、森の静けさがようやく戻ってきていた。
「助かったよ。お前たち、なかなかやるな」
ライバルチームのリーダーが額の汗を拭いながら、アルドに向かって感謝を述べる。その背後で、他のライバルたちもぐったりと地面に腰を下ろしていた。
「当然だよね!」
フルカが胸を張りながら言う。「私がいたんだから!」
「調子に乗るのはいいけど、まだ終わってないぞ」
アルドが注意を促すが、フルカはすでに興味を別のものに向けていた。
「ねえ、あの大きな蜘蛛の巣、気にならない?」
フルカは木々に絡みついた巨大な蜘蛛の巣を指差した。その中心には、不自然な膨らみが見える。
「おい、触るなよ!」
アルドが慌てて制止するが、フルカは笑顔を浮かべながら手を振った。
「大丈夫大丈夫、こういうのは得意なんだから!」
念動力を発動させ、蜘蛛の巣を一気に吹き飛ばすと、その中から何かが地面に落ちてきた。
「……ん? これ何?」
フルカが目を輝かせてその物体を拾い上げる。それは金色に輝く鱗のようなものだった。
「見せて!」
ミーナが急いで駆け寄り、それを慎重に手に取る。彼女の表情が一瞬にして驚きと緊張に変わる。
「間違いない。これ、雷翼竜の鱗よ!」
その一言に、その場の全員が息を呑む。ライバルチームのリーダーも顔を曇らせながら近づき、鱗を見つめた。
「雷翼竜だと……冗談じゃない。こんなところでその痕跡を見つけるなんてな」
「すごいね!本当に竜がいるんだ!」
フルカは興奮して声を上げるが、アルドは険しい表情で周囲を警戒し始めた。
「フルカ、これがどういう意味かわかってるのか?」
アルドが鋭い声で問いかけると、フルカは首を傾げた。
「竜が近くにいるってことでしょ?それなら次は竜と戦えるね!」
「お前は相変わらず能天気だな……」
アルドがため息をつきながら額に手を当てる。その横で、ミーナが静かに口を開いた。
「これはただの依頼じゃなくなる可能性が高いわね。雷翼竜が関わるなら、今後の動きが全て変わるかもしれない」
「厄介なことになるのは間違いないな」
ライバルチームのリーダーが低い声で言うと、その場の空気が一気に引き締まった。
だが、そんな緊張感の中でも、フルカの明るさは変わらない。
「じゃあ次は竜だね!みんな、すっごいのを見せてあげるから楽しみにしてて!」
「本当にお前ってやつは……」
アルドとミーナは揃って苦笑を浮かべた。ライバルチームのメンバーも呆れたように肩をすくめる。
「とにかく、今回の依頼は無事に終わった。ギルドに戻って、この鱗のことを報告しよう」
アルドがまとめると、全員がそれぞれの装備を整え始めた。森を抜ける陽射しが、金色の鱗を優しく照らしていた。
雷翼竜の鱗という新たな謎と興奮を胸に、フルカたちの冒険は次なる展開へと進むのだった。
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