再挑戦!調子に乗るのはやめられない

ギルドの受付前。フルカは丸テーブルに手を突き、いつも以上に意気揚々とした顔で仲間たちを見回していた。


「今日は何でも任せて!フルカ、大活躍するから!」

自信に満ちた声が、朝のギルドホールに響き渡る。


アルドは苦笑いを浮かべ、隣にいるミーナに視線を送った。「昨日の失敗、反省したって言ってたけど、この様子だと怪しいな」

「いつものことよ」ミーナは肩をすくめながら冷静に答えた。


「フルカさん、では今回の依頼内容を説明しますね」

受付嬢が笑顔で書類を差し出すと、フルカは椅子に飛び乗り、それを覗き込んだ。


「えっと……遺跡の調査?何それ!かっこいい!」

受付嬢が続ける。「はい。この遺跡には古い記録が残されていて、特に雷にまつわる伝説があると噂されています。ただし、守護者と呼ばれる魔法生物がいる可能性がありますので、くれぐれもご注意を」


「雷の伝説!?行くしかないよ!」

フルカは机を叩き、周囲の冒険者たちが振り向くほどの勢いで叫んだ。


「だからまずは冷静に聞けって……」アルドは額に手を当ててため息をつく。


「ふむふむ、危険な守護者もいる、と。でも私の念動力があれば余裕だね!」

フルカは自信満々で胸を張る。ミーナが呆れたように呟いた。「余裕が一番怖いんだけど……」


「まあ、遺跡ってのは面白そうだ。行ってみる価値はあるな」アルドが話を締めると、フルカが勢いよく立ち上がった。


「それじゃ、早速行こう!」

彼女は受付嬢に向かって親指を立てると、勢いよくギルドの扉を開け放った。



フルカたちはギルドを出発し、広がる森林の中を進んでいた。朝の新鮮な空気が漂う中、彼らは目的地である遺跡を目指す。


「この道をまっすぐ進めば遺跡だね!」

フルカは念動力で地図をふわふわと浮かせながら、得意げに言った。


「おい、その地図、ちゃんと読めてるのか?」

アルドが眉をひそめて尋ねると、フルカは自信満々にうなずいた。


「もちろん!えっと、ここをこう行って……あれ?」

地図がくるくると回り始め、どの方向が正しいのかわからなくなったらしい。


「ちょっと貸して!」

ミーナが半ば呆れながら地図を取り上げると、正しいルートを指し示した。


「ほら、こっちよ。これだからフルカに任せると……」

「えー、もうちょっとで分かったのに!」

フルカは頬を膨らませたが、結局ミーナの後ろを素直について行った。


森の中を進む道中、フルカは相変わらず元気いっぱいだった。


「でもさ、守護者ってどんな感じかな?大きい?硬い?それとも、めちゃくちゃ速い?」

フルカの質問攻めにアルドが苦笑いしながら答える。「そんなに甘い相手じゃないだろうな。おそらく何らかの魔法で守られているだろう」


「へえ、でも私なら余裕だよ!」

フルカは念動力で道端の小石を浮かせ、空中で踊らせて見せる。


「だから、調子に乗るのは後にしろって……!」

アルドがたしなめた瞬間、茂みの中から小型モンスターの一団が現れた。


「キャッキャッ!」

見た目はリスに似ているが、鋭い牙を持った小型モンスターだ。3匹が鋭い声を上げながら、彼らに向かって飛びかかってきた。


「出たな!フルカ、抑えろ!」

アルドが剣を抜こうとした瞬間、フルカは既に念動力を発動させていた。


「任せて!」

空中に浮かんだ岩がモンスターたちに向かって次々と飛んでいく。その迫力に圧倒され、モンスターたちは逃げ出していった。


「ちょっと、力加減ってものを考えて!」

ミーナが腕を組んで睨む中、フルカは嬉しそうに両手を広げた。


「いやー、余裕だったね!」

「だから調子に乗るなって言っただろ!」

アルドの呆れ声が森に響き渡る中、一行は遺跡へ向けて再び歩き始めた。



遺跡に到着したフルカたちは、その荘厳な雰囲気に一瞬息を呑んだ。苔むした石造りの建物が静かに佇み、長い年月を物語っている。


「うわー、すごい!これ、本当に古いんだね!」

フルカはキラキラした目で遺跡を見上げた。アルドとミーナも、少し警戒しながら周囲を見渡している。


「気を引き締めろよ。この手の遺跡には、罠や魔物がつきものだ」

アルドが低い声で注意を促すと、ミーナも頷いて杖を構えた。


「じゃあ、さっそく調べてみよう!」

フルカは念動力で周囲の瓦礫を浮かせ始めた。地面の砂埃が舞い上がり、視界が一瞬白くなる。


「おい、やりすぎだ!」

アルドが手を振りながら止めようとしたその時――遺跡の奥から低い唸り声が響いた。


「……グルルル……」

音のする方を見ると、巨大な石造りの獣が動き出していた。それは遺跡の守護者と思われるゴーレムだった。


「わ、動いた!かっこいい!」

フルカは目を輝かせるが、アルドは即座に剣を抜き、ミーナは呪文を唱え始める。


「戦闘だ!フルカ、念動力を頼む!」

アルドが指示を飛ばすと、フルカは両手を広げて岩を浮かせた。


「オッケー、任せて!」

ゴーレムが迫りくる中、フルカは念動力で岩を次々と投げつける。だが、ゴーレムはその岩をものともせず前進してくる。


「こいつ、硬い!」

アルドが一撃を加えるが、剣が弾かれてしまう。


「仕方ない、もっと大きいのいくよ!」

フルカが力を込めると、周囲の瓦礫が次々と宙に浮かび、ゴーレムに向かって一斉に飛んでいった。その衝撃でゴーレムが後退し、ついに動きを止める。


「やったー!私の勝ち!」

フルカが両手を挙げて喜ぶ中、アルドは呆れた顔で彼女に歩み寄る。


「お前、慎重に行動するんじゃなかったのか?」

「だって、こういうのは勢いが大事でしょ!」

フルカの言葉に、アルドとミーナは思わず顔を見合わせた。


「まあ、終わったならいいけどな……」

アルドが肩をすくめると、ミーナが地面を指差した。「見て。これは……足跡?」


そこにはゴーレムのものとは明らかに異なる巨大な足跡が残されていた。フルカはそれを見て目を輝かせる。


「これ、絶対に竜の足跡だよ!」

興奮するフルカとは対照的に、アルドは険しい表情を浮かべる。「ここに竜がいる可能性が高い。慎重に動かないと危険だぞ」


「うん、わかった!」

と言いつつ、フルカの目は再び興味津々で周囲を見回していた。


「それにしても、こんな足跡を見つけるなんて、面白いね!」

フルカは屈み込み、大きな足跡を覗き込んで興奮気味に言った。その声にはしゃぐような調子があり、隣のアルドは苦笑しながらも周囲を警戒していた。


「とにかく、この遺跡で見つかったものを全部ギルドに持ち帰るぞ。足跡の記録も含めてな」

アルドが真剣な表情で指示を出すと、ミーナがさっとメモ帳を取り出して足跡のスケッチを始めた。彼女の指先は迷いなく動き、足跡の形状や細部を丁寧に描写していく。


「ふむふむ、爪の形が鋭いね。これ、本当に竜なのかな?」

ミーナが独り言のように呟くと、フルカは目を輝かせて自信満々に頷いた。


「絶対竜だよ!こんな大きい足跡、他に何があるっていうの?」

彼女の声には確信が満ちていたが、アルドは肩をすくめてため息をついた。


「そう断言できるならいいけどな……」

彼は慎重に周囲を見渡しながら遺跡の奥を覗き込んだ。その先は薄暗く、何が潜んでいるのか見当もつかない。


「それにしても、この足跡は新しい。つい最近ここに竜が来たのかもしれない」

アルドの推測に、ミーナが眉をひそめて慎重な表情で頷く。「だとすると、今も近くにいる可能性があるわね」


「近くにいる!?それなら早く探そう!」

フルカが勢いよく立ち上がると、アルドが慌てて彼女の腕を掴んだ。「おい、待て!竜がいるかもしれないって話だぞ!簡単に近づけるわけないだろうが」


「でもでも、竜を見つけたらすごくない?」

フルカは満面の笑顔で言い返すが、アルドは渋い顔で首を振った。


「簡単に考えすぎだ。竜は俺たちがどうこうできる相手じゃない」

「でも、フルカの念動力ならいけるんじゃない?」

ミーナが冗談めかして言うと、フルカは得意げに胸を張った。


「そうだよ!私がいれば竜なんて楽勝で――」

「やめとけ」

アルドがきっぱりと遮った。「慎重に行動しないと、俺たち全員命を落とすかもしれないんだぞ」


フルカはしばらくむくれた表情をしていたが、次第にその顔がほころんでいく。「わかったよー。でも、竜を見つけるのってちょっとワクワクしない?」


「それは否定しないけどね」ミーナが微笑みながら答えると、アルドは小さく息をついた。


「とりあえず、遺跡を調べるのが先だ。竜を探すのはその後にしよう」

アルドが結論を下すと、フルカは渋々ながら頷いた。「えー、つまんない!」とぼやきながらも、彼の指示に従って歩き始めた。


遺跡の奥へ進む中、フルカの視線は何度も足跡の方へ戻っていた。その足跡は彼女にとってただの痕跡ではなく、未知の冒険の始まりを告げる象徴のように思えた。


「この竜、どんな顔してるのかな?大きいかな?翼とかバサーって広げたりするのかな?」

フルカの無邪気な声が響く中、アルドは鋭い目つきで前方を確認し、ミーナはその背後を警戒していた。


彼らが次に何を見つけるのか――それはまだ誰にも分からなかったが、フルカの期待に満ちた表情だけが確かだった。



調査を終えたフルカたちは、遺跡を後にしてギルドへと戻ってきた。夕方の光が差し込むギルドホールには、冒険者たちの喧騒が広がっている。扉を勢いよく開けると、受付嬢が驚いた顔で彼らを迎えた。


「お疲れ様です!遺跡の調査、無事に終わりましたか?」

「もちろん!」

フルカが元気よく答えると、アルドが苦笑しながら報告書を受付嬢に渡した。


「これが今回の遺跡で発見したものです。特にこの足跡について、詳しい記録が必要だと思います」

受付嬢がスケッチを見て目を丸くする。「これって……竜の足跡なんですか?」


アルドは小さく頷く。「その可能性が高いです。ただ、断定するにはまだ情報が足りません」

「竜だよ!絶対竜!」フルカが横から割り込むように声を上げる。


受付嬢が驚きと興奮の入り混じった表情を浮かべる中、ミーナが落ち着いた声で提案した。「そういえば、このギルドには雷翼竜に関する伝説の書物があると聞きました。確認させていただけますか?」


受付嬢は一瞬戸惑った様子を見せたが、すぐに頷き、奥の棚から古びた本を取り出してきた。「こちらがその本です。雷翼竜についての記述が詳しく載っています」


ミーナが本を開くと、黄ばんだページには雷翼竜の姿が描かれていた。堂々とした翼と稲妻のような力強さを持つそのイラストに、フルカの目が輝く。

「うわあ、かっこいい!」


フルカの声に耳を傾けつつも、アルドは本の内容を読み進めた。「これによると、雷翼竜は極めて危険な存在で、これまでに倒した記録はごく少数しかない。…力を試すなんて、無謀な真似はするなよ」


「ふーん、そうなんだ~」

フルカは頷きながらも、どこか上の空で、すでに次の冒険のことを考えているようだった。


「とにかく、今日の依頼は無事に終わったな」アルドが報告をまとめると、受付嬢が微笑んで答えた。「お疲れ様でした。報酬はすぐにお渡ししますね」


その言葉にフルカが満面の笑みを浮かべる。「やった!これでまたお腹いっぱい食べられる!」

ミーナは小さく笑いながら肩をすくめた。「結局、そこに落ち着くのね」


アルドが少し呆れたように言った。「とりあえず今日は一休みしよう。だけど、くれぐれも竜の件は慎重に――」


「次は竜だね!」

アルドの言葉を遮るように、フルカが目を輝かせて叫ぶ。「次こそすごいことやってみせるんだから!」


ミーナが苦笑しながらアルドを見上げる。「あの子、全然懲りないわね」

アルドは深いため息をつきながらも、どこか微笑ましそうに呟いた。「まあ、そこがフルカらしいけどな」


フルカの冒険は、まだまだ続いていく――その明るさと自信に満ちた姿が、仲間たちの心に新たな決意を芽生えさせるのだった。

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