念動力、食べ放題の森で調子に乗る!
果てしなく広がる森。その奥深く、木々の間を軽やかに飛ぶ一羽のハーピーがいた。翼を大きく広げ、青空の下で自由に羽ばたくその姿には、昨日の嵐の気配など微塵も残っていない。
「おいしい!もっと!」
フルカは念動力で木々から次々と実をもぎ取り、宙に浮かせたまま、器用に口へと運ぶ。甘酸っぱい果汁が口の中で弾けるたび、彼女の顔に満面の笑みが広がる。
「あまい……すごい……しあわせ!」
彼女は声を上げながら、さらに木々の間を飛び回った。宙に浮かぶ果実は次々と消え、代わりに別の木々の実が狙われる。まるで空飛ぶ収穫機だ。
森は静かだった。鳥のさえずりや風のざわめきも心地よく、まるで自然そのものがフルカを歓迎しているかのように感じられた。
「これ……ぜんぶ……わたしの!」
フルカは木の実をすっかり空に浮かべ、彼女の周りにカラフルな輪を作った。赤や紫、黄色の実が輝き、フルカ自身がまるで自然の女王にでもなったかのようだった。
「つぎ……なにしよう?」
彼女は宙を舞いながら首をかしげる。そして、念動力でさらに大きな実を浮かせ、勢いよく放り投げた。
ぼすっ!
大きな実が地面に当たり、ぱかりと割れた。その瞬間、中から甘い香りが広がる。
「すごい!これ……たべれる?」
彼女は降りることなく、念動力で実を細かく分け、空中で味見を始める。
時間が経つにつれて、彼女の翼は少しずつ重たく感じ始めた。それでも、フルカは気にする様子もなく、次々と新しい遊びを思いついては楽しんだ。翼を大きく羽ばたかせ、地面を蹴らずに宙を漂い続けることの喜びに浸っていた。
「もっと……できる……!」
念動力で木の枝を引っ張り、その先に隠れていた鳥の巣を覗き込む。小さな卵が整然と並んでいるのを見て、「ああ、かわいい!」と感嘆する。もちろん、手を出すつもりはない。フルカはただ見ているだけで満足だった。
彼女の笑顔がますます輝く。念動力で浮かせた木の実がくるくると宙を回り、フルカの翼が風を切る音に溶け込む。
そして気がつけば、彼女の体は少しずつ疲れを感じ始めていた。翼が重い。視界が少しぼやける。それでもフルカは気に留めなかった。
「……すこしだけ……やすむ?」
木の枝に腰を降ろそうとした瞬間、ふと視界の端に大きな影が動いた気がした。振り返ると、風に揺れる木々の奥で、何かがこちらをじっと見つめている。
「ん……なに?」
フルカは首を傾げる。そこには確かに、奇妙な存在感があった。風が止まり、森のざわめきが消えたように思える。
フルカは木の枝の上で、じっとその影を見つめていた。風に揺れる木々の奥、そこには確かに何かがいた。黒い毛皮に覆われた大きな体。そして鋭く光る目。
「……だれ?」
フルカは問いかけるように呟いた。しかし返事はなく、その生き物はこちらをじっと見つめたままだった。鼻をひくつかせるような仕草をし、一歩、また一歩とゆっくり近づいてくる。
「おおきい……なんだろう……」
彼女は目を見開き、好奇心とわずかな緊張を胸に抱えながら翼を広げた。念動力で地面にあった小石を浮かせ、試しにその方向へと投げてみる。小石はカラカラと音を立てて相手の近くに落ちた。
「……だいじょうぶ?」
黒い影はその動きに一瞬だけ反応したが、すぐに再びこちらを見つめた。フルカは少しずつ距離を詰めながら、翼を畳む準備を整える。
影が完全に姿を現した瞬間、フルカは思わず声を上げた。
「おお……くま?」
そこに立っていたのは、巨大な黒い熊だった。その体躯はフルカの数倍以上もあり、牙を見せて唸る姿は圧倒的な威圧感を放っていた。
「……つよそう……でも……わたし、いける!」
フルカは自分の念動力を思い出し、小石を再び浮かせる。今度は複数の石を熊の周囲に展開し、それらを同時に動かし始めた。
「すごいでしょ?わたし、つよいよ!」
フルカは誇らしげに笑みを浮かべながら、石をくるくると回転させる。しかし熊はその様子を見ても一向に怯える気配を見せなかった。それどころか、低い唸り声を上げながらさらに一歩近づく。
「えっ……ちょっと、まって?」
フルカは慌てて石を熊に向けて飛ばした。石は鋭い音を立てて空を切り、熊の鼻先をかすめたが、それでも熊の勢いは止まらない。
「つよい……でも、もっと!」
フルカは今度は念動力で近くの木の枝を折り、それを熊の目の前に振りかざした。枝が勢いよく振り下ろされ、熊の頭上で音を立てる。しかし熊はその威嚇にも動じず、ついにフルカの目の前まで迫った。
「きゃあ!」
フルカは慌てて宙に舞い上がる。しかし、その勢いで翼が枝に引っかかり、バランスを崩してしまった。
「やばい……!」
落ちそうになった瞬間、彼女は念動力で自分の体を宙に浮かせた。熊の爪がわずかに届かず、彼女はギリギリのところで難を逃れる。
「ふぅ……あぶない……」
彼女は額の汗を拭いながら、再び熊を見下ろした。熊はなおもこちらを見上げているが、ついに諦めたのか、低い唸り声を残して森の奥へと姿を消した。
「やった……わたし、かち!」
フルカは両翼を大きく広げて自分を讃えるように叫んだ。その瞳には満足げな光が宿り、心の中では「やっぱり私、すごい!」という思いがぐるぐると巡っていた。
しばらくして、彼女は疲れた体を木の枝に降ろし、大きく息をついた。周囲は再び静けさを取り戻し、穏やかな風が彼女の翼を撫でている。
「でも……もっとつよくなりたい……」
彼女はぼんやりとつぶやいた。念動力の力を使いこなせるようになったばかりのフルカは、その力の限界を試してみたいという欲求を抑えきれなかった。
「つぎは……なにしよう?」
彼女の冒険心はますます膨らみ、次なる挑戦への期待が胸を高鳴らせていた。
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