第4話謎めく研究所の闇と深まる絆

廊下の金属床を叩く革靴の音が響く。刑務官パーシーがニヤつきながらアルフレッドたちを引き連れて歩いている。彼の手には黒い目隠しがいくつも握られていた。無意味にゆっくりと歩き、わざと足音を響かせるその態度は、権力を誇示しようとする小物感を漂わせている。




「さあ、お前ら。静かに列を作れよ。ルールを守れない奴にはお仕置きが待ってるぞ?」


パーシーはわざとらしく金属棒を手のひらに叩きつけ、挑発するような笑みを浮かべた。




列の後ろにいたフリーヤは、小さな肩をすぼめ、視線を伏せたまま俯いていた。


彼女の金髪のボブヘアーが薄暗い照明の下で揺れ、白磁のような肌に柔らかな陰影を落としている。囚人服の上からも分かる均整の取れたスタイルは、彼女がここにいる全員の目を引いてしまうほどだった。小さな胸元から腰にかけての曲線、細く引き締まった脚……だが、彼女自身はその美しさに無自覚だった。




「なぁ、おいフリーヤって言ったか?ちょっと振り向いてみろよ。」


パーシーは彼女の背後から声をかけ、ニヤニヤしながら近づいてきた。フリーヤはビクンと肩を震わせたが、振り返ることなく立ちすくんでいた。




「どうした、恥ずかしがらなくてもいいだろう?」


彼の手がフリーヤの腰に触れた。柔らかい感触に満足げな笑みを浮かべるパーシー。




「きゃっ……!や、やめてください!」


フリーヤは反射的に彼の手を振り払おうとしたが、力の差で簡単に押さえ込まれる。




「おいおい、そんな可愛い声出すなよ。お前、本当にここにいるのが惜しいくらいだなぁ。こんな肌……」


パーシーの手が尻に伸び、撫で回すように動き始める。




「やめろ!」


列の前から鋭い声が響いた。振り返ると、ロレインが険しい表情でパーシーを睨みつけていた。




「なんだ、てめぇ。いい度胸だな?」


「その手を離せ。今すぐだ。」




ロレインの瞳には怒りの炎が宿っていたが、パーシーはその視線を嘲笑で返した。




「フン、お前が出てくるなんて予想通りだ。いいか、こいつらみんな俺の『おもちゃ』だ。俺がどう扱おうが勝手だろ?」


パーシーはフリーヤの尻をもう一度掴んで見せた。




「君は最低だな。」


冷たい声が響いた。アルフレッドが列の端から静かに歩み寄る。




「おい、新入り。何様のつもりだ?」


「何様でもないさ。ただ、君のやっていることは卑劣だと言っているんだ。」




アルフレッドの落ち着いた声とその冷静な態度に、パーシーは一瞬ひるんだが、すぐに強がった。




「偉そうに!お前もまとめてお仕置きしてやるよ!」




パーシーが金属棒を振り上げた瞬間、ロレインが横から飛びかかった。


「この野郎……!」




金属棒が鈍い音を立てて地面に叩きつけられる。アルフレッドはその隙にフリーヤを守るように引き寄せ、優しく肩を抱いた。




「大丈夫だ、もう怖がらなくていい。」




フリーヤは震えながらも、アルフレッドの言葉に小さく頷いた。




しかし、パーシーは倒れたロレインを蹴りつけ、怒り狂ったように叫んだ。


「調子に乗るな、貴様ら!」




金属棒が振り下ろされ、アルフレッドも打たれる。痛みに顔を歪めながらも、彼は歯を食いしばり耐えた。




「フリーヤ、下がるんだ。」




彼女が離れると同時に、再びパーシーの攻撃がアルフレッドとロレインに浴びせられる。その暴力は容赦がなかった。




独房に戻された後、フリーヤは涙を流して震えていた。


(私のせいで……アルフレッドさんもロレインさんも……)




だが、数日後、彼らが笑顔で運動場に現れる姿を見て、彼女は驚いた。




「何だその顔は?化け物でも見たか?」


ロレインがからかうように言った。




「い、いえ!その、顔が腫れていて……痛くないんですか?」


フリーヤは心配そうに尋ねる。




「痛いけどな、俺たちは簡単に負けない。」


ロレインは豪快に笑った。




「それに、こんな経験も悪くないさ。」


アルフレッドは微笑みながら、フリーヤに安心感を与えるよう語りかけた。




アルフレッドはフリーヤの手を取った。


「フリーヤ、君が謝る必要はない。むしろ君の存在が、私たちに戦う理由を与えてくれているんだ。」




その言葉に、フリーヤの胸の奥に希望の灯がともった。




彼らは徐々に絆を深め、虐げられた日々に小さな変化を起こし始めていた。それは、彼らの中にある「闇」に、確かな「光」を宿らせていくようだった。

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