第3話冷たい研究室
金属の音が部屋に反響し、冷却室の扉が音もなく閉じられた。その向こうでは、台に乗せられた死体が静かに焼却炉へと押し込まれていく。次の瞬間、窓越しに目に映ったのは、炎に包まれる肉体の光景だった。
「焼却処分だ」
スピーカーから響く冷酷な声が、研究室の空気をさらに重苦しいものにする。
フリーヤは目をそらせなかった。目の前で灰となっていく死体――それが、自分の失敗の産物であるかのように感じた。胸の奥が押しつぶされるような感覚。冷たい壁に寄りかかりながら、心が壊れる音を聞くような錯覚に陥る。
「――フリーヤ!聞こえるかい?私だ、アルフレッドだ!」
遠くで声がした。薄く瞼を開けると、ぼんやりと人影が見える。高い天井、知らないミントの香り。
「アルフレッド……さん?」
彼女は弱々しく声を漏らす。
「君は運動場で気を失ったんだよ。ヘヴンの炎を見てね、覚えていないかい?」
炎――その言葉を聞いた瞬間、悪夢の断片が脳裏に蘇る。フリーヤは吐き気を催し、胸を押さえながらうめいた。
「大丈夫だ、落ち着いて」
「す、すみません……でも、もう大丈夫です」
アルフレッドが心配そうに見つめる中、フリーヤは小さくうなずいた。彼の真剣な表情を間近に見て、思わず頬が赤く染まる。彼女にとって、男性とこんなに近い距離で接するのは初めての経験だった。
「そっか、それなら良かった」
彼の柔らかな声が、ほんの少しだけ心を軽くした。
その時、硬い金属音が運動場全体に響き渡った。音の方向に目をやると、数人の刑務官が険しい顔でこちらに向かってくるのが見えた。
「お前たち、勝手に能力を使っただと?どういうつもりだ?」
ロレインが彼らの前に立ちはだかる。
「俺たちの自由だろう。そんな決まり、初耳だ」
「お前たちに自由などない。お前たちは自分の力を制御できないケダモノだ」
その言葉にロレインの表情が険しくなる。
「ケダモノ、だと……?」
ロレインが手を広げると、運動場に落ちていたダンベルが宙に浮き上がり、勢いよく刑務官たちの方へ向かって飛び始めた。しかし、その瞬間――
「ぐっ!」
刑務官が首輪のスイッチを押すと、ロレインの体が痙攣し、ダンベルは地面に落下する。彼の強靭な体が無力にも地面に倒れ込んだ。
「いつまで経っても学ばないな」
アルフレッドは状況を冷静に観察する。首輪による電流操作――彼の頭の中では、そのメカニズムと弱点を探る思考が瞬時に動き始めていた。
アルフレッドの反撃
「やめてください!彼が何をしたというんです!」
アルフレッドが刑務官に抗議の声を上げるが、相手は嘲笑で答えた。
「お前たちは人間じゃない。ケダモノだ」
「許せない!」
アルフレッドは怒りに駆られ、刑務官に向かって拳を振り上げた。だが、すぐにスイッチが押され、彼の体にも電流が流れる。激しい痛みが全身を走り、地面に倒れ込むアルフレッド。
「新入りもお仕置きが必要だな」
刑務官は笑いながらスイッチを押し続ける。その姿を見たロレインは、痺れる体を引きずりながら必死にアルフレッドをかばった。
「もういいだろう!やめてくれ!」
ロレインが頭を下げると、刑務官はようやくスイッチから指を離した。
「まぁ今日のところはこれくらいで勘弁してやる」
ロレインはアルフレッドを支え起こし、彼の肩を抱えながら静かに言った。
「すまない、俺のせいで……」
「君のせいじゃないさ」
アルフレッドは痛みに耐えながらも微笑む。その言葉が、ロレインの心に小さな光を灯した。
二人のもとに駆け寄ってきたのは、フリーヤだった。彼女が手をかざすと、緑色の光が二人を包み込み、傷がみるみる癒えていく。
「ありがとう、フリーヤ。君の力は本当に素晴らしい」
「い、いえ……これくらいなら……」
フリーヤの顔が赤くなる。そんな彼女を見て、アルフレッドは優しく微笑んだ。
だが、彼の心の奥には冷たい怒りが静かに渦巻いていた。刑務官たちの非道、研究所の謎――すべてを暴き、ここにいる人々を救う。アルフレッドは決意を新たにした。
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