第2話閉ざされた運命

エボルチオ研究所に収容されたネオ・ヒューマンたちは、それぞれ異なる能力を持ち、個性豊かだ。しかし、彼らの背後には重い影が垂れ込めていた。


定期的に与えられる運動時間。白く無機質な広場には、他にも数名のネオ・ヒューマンが集められていた。




「ここにいる人数は少ないな……」


「前はもっと多かったさ。でも、いなくなるんだ」


「……それは、つまり」


「察しのいい奴だな。俺はここに5年いるが、誰も戻っちゃこない」




アルフレッドは、収容者たちが置かれた状況を目の当たりにし、胸に怒りを秘めた。




「君たちをここから解放する。そのために来た」


だがその言葉を表に出すことはなかった。彼の計画は、慎重に進められなければならない。




「ネオ・ヒューマン」としての演技を貫きながら、真相に迫る鍵を掴む。


だが、それがいつか彼自身をも追い詰めることになるとは、彼はまだ知らなかった。




「新顔だ!!」


ロレインが場の空気を和らげるように声を張り上げると、周囲にいた能力者たちが集まってきた。




アルフレッドはゆっくりと一歩前に進みながら、囚人服の袖を整えると、控えめだが堂々とした声で話し始めた。




「私の名前はアルフレッド・バーナー。能力は『完全記憶能力』だ」




言葉を選ぶように、しかし流れるような語り口で続ける。




「些細なことも含めて、一度見聞きしたことはすべて覚えてしまう。……まぁ、この能力を持つせいで忘れたいことも忘れられないんだがね」




冗談めかしたトーンで締めると、小さく肩をすくめて笑った。だがその目には鋭い知性と慎重さが宿り、まるで周囲の反応をすべて読み取っているかのようだ。




「こんな場所で出会うのは不幸かもしれないが……これからよろしく頼むよ」




最後には少し柔らかな笑みを浮かべた。彼の冷静さと親しみやすさが自然に場を和ませた。




「ハイハイ、次は私!」




ヘヴンは手を勢いよく挙げ、軽快なステップで前に出た。腰に手を当て、顎を少し上げて挑発的に周囲を見渡す。




「名前はヘヴン・ミラー。能力は『発火』。つまり、炎を操れるのよ」




彼女は指先をすり合わせ、小さな火花をパチパチと飛ばしてみせた。




「こういうの、誰でも憧れるでしょ?ドラゴンとかさ、ファンタジーのヒロインみたいなやつ!」




そう言って胸を張るが、肩越しにちらりとアルフレッドを見ると、少し目を細めた。




「ま、実際にやるのは命がけなんだけどね。けど、退屈な毎日を燃やし尽くすのも悪くないでしょ?」




ニヤリと笑いながら片目をつむる。派手な仕草と語り口が目立つ彼女だが、その瞳の奥にはどこか寂しさが漂っていた。




「え、えっと……ぼ、僕の番?」




マイケルは戸惑いながら視線をあちこちに彷徨わせ、緊張した面持ちで前に出た。背筋を伸ばそうとしたが、逆に不自然な姿勢になり、思わず頭をかく。




「マイケル・コックス……です。ぼ、僕の能力は……『超人的身体能力』」




声は小さく、まるで蚊の鳴くような音だった。ヘヴンが「もっと大きな声で!」と笑いながら声をかけると、彼は赤面しながら小さくうなずく。




「あ、あの……そう、つまり……走ったり跳んだり、そ、速いんだ……」




言い終えると、自分のスニーカーを見つめたまま黙り込む。




「……まぁ、これからよろしくね!」




最後は勇気を振り絞るように言い切り、急いで後ろに下がる。その仕草に不器用な純朴さがにじみ出ていた。




「つ、次……私、ですね……」




フリーヤはおずおずと前に出てきた。両手を胸の前でぎゅっと組み、視線を床に落としたまま、控えめな声で話し始める。




「フリーヤ・リベラ……です。えっと、私の能力は……『治癒』です」




言葉が詰まり、しばらく沈黙が続く。アルフレッドが優しい声で「焦らなくていいよ」と言うと、彼女はほんの少しだけ顔を上げた。




「……怪我をした人を、治せるんです。でも……完璧じゃなくて……ごめんなさい」




最後の方は声が小さくなり、足元に視線を落とす。




「いや、謝る必要なんてないさ。君の力があれば、皆がどれほど助かることか」




アルフレッドの言葉に、フリーヤは驚いたように目を見開いた。




「そ、そう……ですか?そ、そう言ってもらえると……嬉しいです」




恥ずかしそうに微笑む彼女。その儚げな姿には、どこか守りたくなるような魅力があった。


アルフレッドは、彼らとの交流を通じて、この場所で行われている非人道的な行為の一端を知ることになる。




運動場での一時的な解放感の中、アルフレッドは収容者たちと接触を続けた。だが、彼らの背後に潜む闇は深かった。




特にフリーヤの衰弱の原因について、アルフレッドはひそかに疑念を抱いていた。資料には、能力を持つ者たちが次々と消えていく記録が残されていた。表向きには「急死」とされているが、解剖用の「実験素材」として利用されている可能性がある。




アルフレッドは、冷静さを保ちながらも、胸の奥に怒りを秘めていた。




「……君たちを救う手段を見つける。それが、私の使命だ」




そう誓いながらも、彼は慎重に行動し、任務を遂行する準備を整えていく。




研究所内での調査を進める中、アルフレッドは収容者たちとの信頼関係を築きながら、情報を収集していった。だが、この施設を覆う闇は予想以上に深く、彼に迫る危険も日に日に増していく。




その時、ネオ・ヒューマンたちが抱える真の苦悩が、アルフレッドを試すことになる。

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