第3話 まさかの彼女は、班を率いるリーダー?

 俺は路地裏に導かれるまま、あやの後をついて長い階段を下りていく。

 近くにこんな道があるなんて知らなかった。


 階段の周りには、球体だったり楕円だえんだったり、形がいびつで不思議な店が建ち並んでいる。

 ただ、中は覗いても”何も”見えない。


 文字が読めない看板が立てかけられているだけ。


 いつの間にか歩いていた階段は、螺旋らせんのように捻じ曲がっていて、しばらく歩いていくと今度は縦長の家がところ狭しにある場所が現れた。


「なんか、幻想的な場所だなー……どうやって、建てたんだよ?」

「それはですねー。建物を最初に建てたあとに、螺旋らせん階段を作ったんですよ!」

「へぇ……しかも、なんか空が遠くに見える気がするんだが」


 どれだけ下りても、空は普通に見えていたはずなのに、ポッカリと口を開いた洞窟のように空が見えなくなる。

 次第に薄暗くなっていくと、急にだいだい色の明かりが灯った。


 そこは、上とはまた違うガラス細工のような異なる形に、幻想的できらびやかな印象の店が連なっている。

 明るいだいだい色に照らされたガラス張りの店には、透明な容器が売られていた。


 しかも、外のように感じていた明るさは天井に描かれた太陽と月の幻想的な絵。

 だいだい色の明かりを反射するような淡い桜色をしている。


「って、ここ……日本か? それに、こんな大きい施設……だよな?」

「フッフッフ。ここは、日本が誇るハンター……。あやかし国際協会の一つです! 実は、知らずに先輩は異世界・・・に迷い込んでしまったのでしたー」

「いやいや、場所が秘密でわからないってだけだろう」


 軽くウインクして舌を出すあやは、天性の小悪魔美少女だった。


 つまり、俺がこんな近くにって思ったのも、気が付かないうちに秘密の入口から入ってきていただけ。


「私の直感から雪璃せつり先輩は、ぜーったい能力者だと思うんです! それで、施設の内部に入る前に答えを聞かせてください」

「両親をどうにかしてくれて、俺を守ってくれるだけじゃ嫌だから。あやがそういうなら……」

「大丈夫です! 今のバイト掛け持ち以上にお給料も良いですし。最も重要なのは! 今ならもれなく美少女の後輩がついてきまーす」


 俺は、わざとらしく少しだけ考えるような素振りをしてみせる。

 あやは誰でも食いつく宣伝文句を口にしたとドヤ顔をキメていたため、口元を押さえて信じられないような顔で見つめてきた。


「いや、仕事なら年下でもあやのが先輩だろ?」


 今度は反対に頭に両手を置いて考える彼女は、すかさずバツを作る。


 俺のツッコミに対して、先輩という表現は可愛くないから却下らしい……。


雪璃せつり先輩って、女の子とも手を握ったことないですよねー?」

「ぐっ……急に毒を吐くな。心臓が悲鳴を上げてるぞ」

「すみませーん。先輩が可愛くないことを言うので、意地悪しちゃいました!」


 彼女も事情で休学中らしく、高校一年生・・・・・だと教えられた。

 この区域は人数が少ないらしく、俺含めてメンバーは五人らしい。

 まだ、組織に加わっていない新人を含めていいのだろうか……。


 施設に向かって歩きながら話は進む。


「みんなに紹介する前に、簡単に説明しますねー」

「あ、ああ……緊張するな」

「まず一人目は、大学四年生・・・・・のチャラ男です。本人いわく、差別しない主義とかで老若男女誰でもいけます」


 ええ……。


 急展開で、いらない情報を与えられた。

 大学四年生っていうと、先輩だし……。

 でも、チャラ男っていうことはイケメンなのだろうか。


「ニ人目は、先輩に少し雰囲気が似た大学一年生・・・・・の女性です。眼鏡で知的な人ですね」

「へぇ……同い年の女子か。大学生活を満喫出来なかった俺としては、少しドキドキするな」

「私という美少女がいながら、浮気ですかー? それから、自由自在に肉体改造が出来る30歳・・・の男性です。性格はー……確かめてください!」


 四人しかいないのに、把握してないって……。

 大丈夫か?


 いや、言葉で語れないとかだったら、チャラ男より怖いぞ。


 自己紹介を聞いているうちに、大きな門がある場所にたどりつく。

 セキュリティがかかっているようで、あやはポケットから再びバッジを取り出して中心の穴に押し込んだ。


 ――カコン


 なんともいえない音がして扉が開く。


「えぇ……。町? と違って、暗闇なんだけど……」

「怖いですかー? 初めて、手をつなぐ女の子が美少女ですけど、しちゃいますぅ?」

「うっ……なんか、悔しすぎる。だけど、昨日のことで恐怖が拭えない……。お願いします!」


 俺は、サッと手を出して頭を下げた。

 すると上からこらえるような笑い声が聞こえてきて、手を握られる。


 そのまま引っ張られるようにあやについて、暗闇を歩き始めると扉が閉まった。

 思わず声を上げそうになって反対の手で押さえ、少し進んだところで再び淡いだいだい色の光が見えてきてホッとする。


 明かりが見える場所で手を離されて案内されるまま、階段を上っていくと閉まった扉の奥から賑やかな声が聞こえてきた。


「ここでーす。みんな集まってるみたいなので、ビシッと自己紹介しちゃいましょう!」

「えぇ……。俺、まだ能力者かもわからないんだけど」

「大丈夫です! 一般人は、この施設に入った瞬間記憶を消されちゃうんです。でも、先輩はそれをクリアしました。逸材・・です」


 まさかの危ないことをされていたことに身体を震わせる。

 漫画やゲームの世界みたいなことをサラッと言わないでほしい……。


 記憶を消すとかって、脳をいじるんだろう? 俺の脳みそ大丈夫だよな。


 俺の不安をよそに扉を開いた中には、話に聞いた三人が椅子に座って仲良く会話を弾ませている。

 といっても中心にいるのは、きっとチャラ男だ。


「おっ。例の新人君? 思ってたより、イケメンじゃん。まぁ、俺には負けるけど……可愛い子は大歓迎だなぁ」

「えっ……可愛い子って。俺、野郎ですけど……それに輝かしさが違います」

「なんか、褒められて感じないのが凄いねキミ。班長から聞いてるだろうけど、俺は差別しない主義だから……みんな可愛い子だよ」


 会話が成立しているようでしていない、これが陽キャのチャラ男!

 俺は凡人の大学生だから分からない世界が広がっている。


 立ち尽くす俺に、両手を叩くあやの合図で急に引き締まる空気に目を見開いた。

 このチャラ男。今、班長って言わなかったか?


 ――班長?


「みんな、これから先輩が自己紹介するから、ちゃんと聞いてあげてねー。そのあと、軽く自己紹介してあげて!」

「えっ……と、光永雪璃みつながせつりって言います。ただの大学一年生です……趣味は、漫画とアニメ鑑賞。よくわからないまま、お世話になります!」

雪璃せつり君かぁ。ゆきちゃんって呼ぼうかなぁ。俺は、イケメン代表で老若男女誰でも愛せる男。西城光さいじょうひかるでぇす。よろしくっ」


 あやと負けず劣らずの自己紹介をするチャラ男は、名前もまんまキラキラしていた。


 俺は、冷静になって10センチほど身長差のあるチャラ男こと、西城光さいじょうひかるに少しだけ目線を上げる。

 俺よりも明るいだいだい色に近い茶髪で、レイヤーで遊ばせたマッシュカット風が際立ってみえた。


ゆきちゃんは止めてください……可愛すぎるんで」

「うーん、ならせっちゃんで。こっちもこっちで可愛いしねぇ?」

「コホン。西城さいじょうさんの戯言たわごとはいいです。私は、東君枝ひがしきみえです。趣味は読書です。宜しくお願いします」


 うなじまでの黒髪に、緑色の縁をした眼鏡。思っていたよりも目立たない容姿をしている同い年の女子は、年下にみえた。

 でも、眼鏡を取ったら知的な美人さんな気がする。


「ど、どうも……」

「ハイハーイ。最後に俺ね? 南雲一仁なぐもかずひとって言います。若者・・に囲まれて肩身が狭いけど、なんでも聞いてねー」

「あっ、はい。宜しくお願いします」


 最後に自己紹介をしてくれた南雲一仁なぐもかずひとさんは、ツーブロック風の短髪で、焦げ茶色が大人っぽく感じた。物腰も柔らかそうにみえる。


 自己紹介が終わって早速とばかりに席に座らされた俺は、備え付けのミニ冷蔵庫にダンボール箱から出されたお菓子などで歓迎会が始まった。


「それでは、雪璃せつり先輩の歓迎会ということで、今日はみんなで楽しもうー!」

「おー」

「うぇい」

「ハイ」


 掲げられる紙コップで始まりの挨拶を述べるあやの言葉で、シーンとしていた部屋は再び活気立つ。


 俺は何もわからない状態で勝手に始まった歓迎会を、出会ってニ日目の彼女と、その仲間たちとともに半日過ごすことになった。

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