第4話 俺の未来を左右する出来事
夕方くらいになって歓迎会が終了したら、一度三人と別れて
すでに両親は保護されていて、施設内で療養中らしい。俺の私物はここに運ばれて個室が用意されているという話だった。
用意周到すぎるだろう……。
少し長い廊下を曲がった先に五つの扉があった。
一つずつ見ていくと頭文字が刻まれている。
その一番奥の部屋で立ち止まった。
「ここが、先輩の部屋でーす。なんとー! 私のお隣さんですよー。嬉しいですか?」
「えっ……。隣っても、寮みたいなものだろう?」
「うわー。先輩、そういうところですよ? 女の子にモテない残念な部分が出てますよ」
まさかのダメ出しされる。
扉を開けてすぐに大量のダンボール箱が見えた。
あの部屋にあったすべてを、この短期間で運んでくるなんて……。
この組織、人間離れしすぎて不安しかない。
「それじゃあ、共有スペースの説明をしますねー」
鍵は
こちらも偽造出来ない加工がされている。
案内されるまま奥に進むと、男子トイレや浴室などの説明を受けた。
すべて男女別で分かれていて、先ほどの部屋は会議室らしく、談話室やキッチンなども完備されている。
ただ、基本的にキッチンは冷蔵庫や軽い朝食程度でしか使わないらしく、専属のお弁当屋さんが昼夜は作ってくれて食堂もあるらしい。
「至れり尽くせりで、金ももらえるとか良いのか……」
「まぁ、それだけ重要任務をこなしているので、少ないと思います! 娯楽もないですしー」
「なるほど……。息が詰まる空間は嫌だな。それに、俺なんかがあやかしなんて相手に出来るのか……」
自然と不安が口からもれる。
不意に唇に当てられた指先を見て、公園のことを思い出すが痛みも何もなかった。
離れる指先を視線で追う。
「あっ、大丈夫ですよ? 能力を込めなかったら、あんな風にはならないのでご安心ください」
「えっ……。あれは、攻撃だったのかよ。ドキッとしたわ」
「怖さのドキッとですか? それとも――」
彼女を見ていたら自然と不安が消えていくのを感じた。
今になって忘れていたことも思い出す。
「あっ! 班長って」
「フッフッフ。実は、この区間を任されている班のリーダーは、なんと! 私ですっ。驚きました?」
「嘘だろ……。班長が、新人を先輩っていうのどうなんだ?」
思わずツッコミを入れた言葉で黙ってしまう自称後輩の
今日は疲れているだろうからと詳細については明日になって、俺は用意されたダンボール箱だらけの自室に戻る。
「まさかのベッドも一緒……。これ、両親が奮発して買ってくれたやつだから嬉しいけど……」
家具もほとんど同じだった。
落ち着く空間に俺はベッドにダイブする。
天井を見上げて、ここが自分の部屋ではない現実を思い知らされた。
「うちはこんな綺麗じゃないからな。白い壁に白い天井……あやかしに人生狂わされるなんて思わなかった」
頭で考えているうちに昨日の疲労と今日のこともあって、俺はいつの間にか意識を手放す。
目を覚ましたのは、家とは違って陽の光がない代わりに耳元に聞こえてくる可愛らしい少女の声――。
俺はバッと飛び起きて横を向く。
「おはようございまーす! 先輩、ぐっすりさんだったので、入っちゃいました」
「いや……入っちゃいましたって、鍵は? あれ、俺鍵閉めたっけ……」
「ここは自動ロックなので勝手に閉まりますよー。班長特権です!」
まさかの班長で後輩を名乗る美少女は、ストーカー気質だった。
思わず両手で身体を抱きしめる俺に、わざとらしく頬を膨らませる
「なんですか、そのポーズは。普通は逆だと思います! それに、勝手に侵入する部屋は
「いや、それもヤバいだろう……。俺だって男なんだぞ。それに女子高生がすることじゃ」
「先輩は、そんなことする人じゃないってわかってますから。それに、度胸もないです」
最後に爆弾を投下して先に部屋を出る
正直な言葉が毒舌のように刺さる。
女子と手も握ったことがない事実が物語っていた。
いや、ここに来るときにそれは達成したけど……。
「朝食の前に、メディカルルームに行きますよー」
「えっ? 俺、どこか悪いのか? まさか、昨日のあやかしで」
「不正解でーす。
普通はわからないのに気になることが怖い。
少し待ってもらって着替えを済ませた俺は、
一階はそういう施設があるらしく、研究者ぽい白衣を着た人間が多くいた。
ご丁寧にメディカルルームと書かれた部屋にたどり着くと、扉を開けて中に入る。
そこには椅子に座る白衣を着た女性の後ろ姿があった。
黒髪に青いメッシュの入った髪を一つに束ね、女性らしい身体つきをしている。
「おー来たか」
「ど、どうも……初めまして、
「ああ、知ってる。へぇ……まさかキミみたいな平凡な子がねぇ」
何を言っているか一切わからない白衣の女性は、足を組んだまま俺を品定めしていた。
思ったより女性的というより、男勝りな気がする。
「それじゃあ、始めようか! フフフッ。久しぶりに”いいモノ”が見られそうだ」
「えっ……
「大丈夫です! 実力は申し分ありません。ただ……少し、変態さんです」
いや、それはダメな部類だぞ!?
ストーカー気質な
それを検査が怖いと判断したようで両肩に手を置かれた。
「大丈夫! 痛くないから、ね? 少しだけ、恥ずかしいだけだから……」
「いや、恥ずかしいってなんだよ!? 俺は、これから何をされるんだ」
「先輩、頑張ってください!」
そう言い残して部屋を出て行く
天井を見上げたままボーっとする俺は、服を着て椅子に座らされていた。
「
「――なんか、くすぐられたり、変な玩具であんなことやこんなことをされたような、されてないような……」
「ちょーっと、遊びすぎたかな? まぁ、それで分かったことがあるんだけどねぇ」
あんなことで、しっかり調べたことがあるなんて想像出来ない俺は頭を抱える。
検査結果の紙を見せられニ人で覗き込むが、新人の俺にはさっぱりわからない。
対照的に口を押さえて驚く
「
「アタシもそう思うぞー。生きてる間に、出会えるとは思わなかったから興奮した!」
「えっ……。俺にはまったく話が見えないんだが」
困惑する俺にニ人はキラキラした眼差しで、声を揃えて叫んだ。
「魔法使い!!」
「へっ……?」
魔法使いって、漫画やアニメの?
おとぎ話の世界……いや、待てよ。
確か学校で習った、あやかしの王を殺せる唯一の存在であり、人間の希望である”魔法使い”。すっかり忘れていた。
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