第2話 ギルドでの揉めごと

 受付でサトリアとは違う別の受付嬢から報酬をもらっているようだ。

 男三人に女一人の計四人パーティ。

 そのうちの女が、男の一人に金貨袋をこっそりと渡すのを見た。


「……付き合っているにしても、報酬は各々で管理したほうがいいと思うがなぁ」


 深い関係にある男女なら金銭も共同にする、なんていう考えを持っている冒険者はいる。

 駆け出しや初心者に多い傾向だ。


(……男の方は、結構長そうに見えるが)


 ただ、女の方はともかく、男の方はそれなりに洗練された雰囲気をしている。

 正直、駆け出しや初心者には見えない。

 それなら、と胸糞悪い考えが頭を過ったとき。


「なんの話です?」


 ふと、サトリアが聞いてきた。

 俺は一度だけ見た後に冒険者パーティに視線を戻し、顎で示す。


「あいつらだよ。さっき女が男に報酬を渡してた。男女の関係でもああいったのは分けた方が良いってギルド側では教育しねえの――」


 サトリアを責めようとしたものの、その途中で彼女は急に立ち上がり、駆けるようにして冒険者パーティの元へ。

 そして彼らの中の、金色の髪の大男の腕を取った。


「テイガーさん! 何をやっているんですか!?」


 ギルド内部ということもあってサトリアは声を抑えていたが、俺の耳には届く。


「まさかイヴさんの報酬を奪っているんですか!?」

「ちっ、めんどくせえ。なんだよサトリア、こいつがくれるって言ったからもらったんだろうが」


 心底めんどくさそうにテイガーという男は返す。

 サトリアはこのギルドに勤めて長い中堅の受付嬢だ。

 それにも関わらず、テイガーという名前の男の態度は悪い。

 まあ、気性が荒くて乱暴者というのは冒険者によくあるタイプだ。


「こういうことがないようにと、以前お話したじゃありませんか」

「いいだろうが、少し貰うくらい。お前だってそれでいいんだろ? なあ?」


 テイガーが声をかけたのは、パーティの女の方。

 女は、テイガーとサトリアのやり取りを不安げに見ていた。


「は、はい……サトリアさん、大丈夫ですから……」


 女の髪色は雪のように真っ白だった。白髪ではなく、そういった髪色のように思える。

 日本人である自分の黒髪よりも見ない髪色だ。

 どこ出身だろうか。少なくとも俺は今まで見たことがない。


「テイガーさん、イヴさんについては話したはずです。なのにどうしてそのようなことを……報酬は等しく分ける、それが結成時の決まりですよね? 報酬を返してください」

「うるせえぞサトリア、てめえ俺に命令すんのか?」

「決まりは決まりです」


 サトリアはここに勤めて長いからか、気が強く冒険者相手でもほとんど物怖じしない。

 そういった性格が人気でもあるようだが、その一方で嫌っている冒険者も多い。

 かくいう俺も、嫌いとまではいかないが、口うるさいなと思っていた。


「ちっ! 口うるせえババアだ」


 俺と全く同じ(いやババアとは思っていない)ことを思っていたのか、忌々しそうに言ったテイガーは懐から金貨袋を取り出し、それを女の方に押し付けた。

 同時に怒りを発散しようとしたのか、力を入れることで、女を突き飛ばそうとした。

 結果として肩を強く押された女は体を衝撃で揺らす。

 ただ、倒れるようなことは無かった。


(……んん?)

「っ!」

「ちょっと、何をするんですか!」


 今の光景に疑問を少し感じたところで、サトリアの声がギルド内に響き渡った。

 男は怒りに顔を歪め、女の方は目を伏せて時が過ぎるのを待っているようだ。


「てめぇに頼まれてこいつをパーティに入れたが、割に合わねえ。戦闘中は報告もしねえ、個人行動は多い、協調性がねえ、純粋に弱え。あまりにも使えなさ過ぎるぜ。しかもその分際で報酬まで分けろだ? ふざけんな!」

「…………」

「他のやつらだって言ってるぜ。まったく使えない……まるでお荷物だとよ! そんな女、こっちから願い下げだ! お前たちだってそう思うだろ!?」


 テイガーは両手を広げてギルドの周りに同意を求めた。

 同じ意見なのか、視線を外す者、笑う者、茶々を入れる者など、多数。

 集団で女を責めるような構図に、サトリアは声を荒げる。


「やめてください! テイガーさん!」

「ほら見ろよ、どいつもこいつも言ってるだろ? 誰もこんな奴、要らねえんだよ!」

「テイガーさん!!」


 サトリアが訴えてもテイガーは止まらない。

 力不足を感じたのか、サトリアは目じりを下げ、俺の方を縋るように見た。


(なんとかしてください! エンディさん!)

(知るか、ギルドの問題はギルドで解決するのが普通だろ)


 意図的に視線を外せば睨まれたが、わざわざ口を出すつもりは毛頭無い。

 ただまあ、やり方は気に食わないというのはある。

 周りの反応を見て気持ちよくなりたいだけの猿かと、テイガーを見て嘲笑った。


「あ? てめえ今笑ったか?」


 それがたまたま目に入ったらしい。

 テイガーは俺に気づき、怒りに顔を歪めて睨みつけてくる。


「ああ、なんか雰囲気に酔ってるみたいだったからな。酒のつまみには良いかもな。買ってくりゃ良かった」

「……てめぇ」


 滑稽だった、という言葉をぼかしたものの、どうやら感じ取られてしまったらしい。

 テイガーは怒りに肩を震わせ、一歩足を踏み出した。


 その途中で俺のことをじっと見ていたパーティメンバーの別の男が何かに気づき、テイガーの肩を強く掴む。


「お、おいテイガー……こ、こいつあれだ……二級冒険者だ」

「あぁ? ……ちっ、この……いや、いい。興冷めだ。……行くぞ。おい女、てめえはクビだ」


 途中で何か言おうとしたようだが、それを止めてテイガーはギルドから出ていった。

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