転生凡人の英雄作成教室~冒険者として限界を迎えた俺、仕方なく今後のための金稼ぎ目的で田舎に教室開いたら、教え子が最強になった~
紗沙
第1生徒 足手まといの冒険者少女
第1話 転生者、教室をつくる
「これが……俺の教室……」
目の前の小屋を見て、俺は呟いた。
木を少し用いた石造りの小さな平屋は、当たり前だがしっかりと建っている。
「一応要望通りに魔石の粉末を使用した石材で作ってある。値は張ったが……大丈夫か?」
この素晴らしい教室を作ってくれた大工が、痛いところを突いてきた。
「なぁに、大したことはねえさ。小さな教室一つくらい痛くもかゆくもねえ。それよりも造ってくれてありがとうな、イッテツさん」
「……この教室に生活住居、さらにはここら辺の土地一帯を買い占めて、痛くも痒くもないとはなぁ……まあ、そういうことにしといてやる」
イッテツさんは髭に指で触れた後に小さく息を吐いて、用は終わったとばかりに踵を返した。
「もしまた何かあれば遠慮なく依頼しろ。このイッテツ様が作ってやるよ」
「本当か? なら次は安くなんてことは……」
「お前さんな……まあいい、考えておく」
振り返ることなく、ただ手を挙げて振るだけで去っていくイッテツさん。
あれは次も絶対に安くしてくれないな、と確信した。
再び教室に向き直り、その隅々までを見渡す。見た目はどこにでもあるただの小屋だ。
けれど俺がこれまでの冒険者稼業で貯めてきた金の多くをかけた教室でもある。
いわゆる自分の城というものを得て、俺は二度頷いた。
「……でも、かなり掛かったな。これ大丈夫か? 失敗したらマジで路頭に迷うぞ? 高けえ買い物したなぁ……」
けれどすぐに不安の波が押し寄せてきた。
イッテツさんには見栄を張ったが、莫大な金を費やした。
それこそ、これまでの10年間の貯蓄から考えても痛いと思えるくらいには、だ。
頬を両手で叩き、俺は気合を入れ直す。考えても仕方がない。
もう教室は作ってしまった以上、これからは教師としてのセカンドライフを歩むしかない。
「環境は整ったんだ。あとは生徒を連れてくるだけだ」
成功させ、夢を手にする。俺はやってみせる。
「俺の代わりに金を稼いでくれる生徒を、探しに行きますかね」
そうして俺は、街へと繰り出した。
しばらく歩けば、エステルという街にたどり着いた。
大通りを歩き、冒険者ギルドの中へと入る。
中には数人の冒険者がいたものの、そいつらを一瞥しただけで俺はいつもの席へと座った。
「こんにちは、エンディさん」
座ってすぐに、入ってきてからずっと視線を送ってきていた受付嬢が声をかけてきた。
許可もしていないのに俺の隣の席に座り、会話を振ってくる。
「最近見なかったからどうしたのかと思ってましたよ。依頼、受けますか?」
「……サトリア、今回は別件だ。冒険者稼業が目的じゃねえ」
サトリアとはエステルの街に移ってきてからだから、まだ4か月程度の短い付き合いだ。
にもかかわらず、やけに馴れ馴れしい。
前に少しは恩を売っておこうと依頼を多く受けたからか、サトリアはよくこうして俺に絡んでくる。
「だが、高ランクでかつ高報酬の依頼があれば回せ。料金2割増しで受けてやらんこともない」
「……そんな依頼はありませんし、値上げは勘弁してください」
「なんだ、つまんねえな」
「そもそも、このエステルにそんな依頼があるわけがないでしょう。田舎のさらに田舎ですよ? 冒険者達も駆け出しから初心者くらいがほとんどなんですから」
ため息を吐いて、しかも非難するような目を向けてくるサトリア。
確かに彼女の言う通り、この街の冒険者の質は高くない。
「っていうか、高ランクの依頼が欲しければ王都にでも行けばいいじゃないですか。二級冒険者のエンディさんなら、パーティだって組めるでしょうに」
「お断りだ、集団行動とかめんどくせえ」
「この人は本当に……で? じゃあ本日はどんな要件なんです?」
指で俺の組んだ腕をつんつん突いてくるサトリアが少しうざいので振り払うように腕を動かして辞めさせた。
「前に教室作るって言っただろ? 完成したから、生徒を探しに来た」
「……え? あれ本当だったんですか?」
「はぁ? 当たり前だろ」
なにを言うんだこいつは、とサトリアに目を向けると、胡散臭そうな目線を返された。
「いや……だってエンディさんですよ? 口を開けば金、金、金のエンディさんが……教室?」
「お前、言葉を選べよ」
あながち間違いではないと思うので、注意には留めておいた。
「なんでです? 二級冒険者なら、それなりに稼ぎも良いですよね?」
「前から言っているが、俺は温情で二級になったようなもんで、実力は準二級程度だ。……冒険者稼業一択っていうのも飽きるし、いつまでもできるもんじゃねえだろ。稼ぎだって、お前が思うほど良くもねえよ」
「なるほど……将来への不安を感じたわけですね」
「……まあな」
ふむふむ、と納得したように頷いていたサトリアは、その後に首を傾げた。
「だとしてもなぜ教師?」
「俺はな、サトリア……」
「は、はい……」
わざと言葉を切って、じっと受付嬢の目を見る。
俺のただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、サトリアが唾を飲み込んだ。
「生徒を教え導き、栄光の道を歩ませてやりてえんだ」
「……ないない」
残念ながらすぐ見抜かれたようで、睨みつけられた後に手の動きまでつけて否定された。
「エンディさんのキャラじゃないですし、そもそもそんなこと考えている教育者なんていませんよ。聞いたことないです」
「……だよなぁ。先生と言えば、とにかく詰め込み式で知識を教え込んでって感じだもんなぁ」
それがこの世界の教育観。
魔物と天からの災害で脅威が常にある危険な世の中の、指導論。
「でもよ……教えるってのは、本当は生徒一人一人のためを思ってやるもんじゃねえのかな」
誰にも聞こえない声量で、小さく呟いた。
「え? 何か言いました?」
「なんでもねえよ」
「ふーん……あ、なら私! 私なんかどうですか?」
「は?」
「だから私を教えてくださいよ!」
手をまっすぐ伸ばすサトリアを見て、俺は鼻で笑った。
「お前はダメだ」
「な、何でですか!」
「悪いな、俺にも選ぶ権利がある」
「むー……なら、どんな人ならいいんですか?」
「そりゃあお前、あれだよ」
将来的に俺よりも強くなって、金を稼いで、そして俺に金というリターンをくれそうなやつだ。
「勉強熱心で、向上心があって、それでいて努力を惜しまない、いや努力を楽しめるやつだな。うんうん」
「絶対思ってないじゃないですか。ろくなこと考えていない顔してますよ」
そんなことはない、と心の中で思って、さて、また生徒候補漁りでも、とギルド内を見渡した時。
ふと、一組の冒険者パーティが目に入った。
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