2027年:災厄の中に咲いた花 第五章

「……どうする?」

 無線がうんともすんとも言わなくなったことを確認して、隆は修に聞いた。

 隆は疑い深い。常識ではあり得ない方法で接触してきた無線の相手が、本当に名乗っている通りの人間なのか、完全には信じ切っていないのだろう。

「……行くしかないだろう」

 それは、修だって同じだ。けれど、今はそう答えるしかない。

 いずれにせよ、取れる選択肢は決まっているのだ。無線で語られた真偽がどうであろうと、助かるためにはその道以外あり得ない。

「私、みんなを呼んでくる」

 今後の方針を理解した咲希が、みんなの所へと走る。その間に、隆が改めて聞いた。

「現実問題、いけると思うか? ここから赤泊港まで、最短コースでも四時間だ」

 この場合の『いける』とは、時間的なことではない。体力的精神的な問題だ。夜間の行軍に加え、友人たちが今目の前で惨殺された。そんな中、果たしてどれだけの気力がみんな――特に美穂に残っているのか。

「それでも……やるしかない。もうこれ以上、犠牲者を増やさないために」

 修は見る、前方に広がる惨状を。つい十分前まで、隣を一緒に歩いていた同胞たちの成れの果てを。こんな光景を、これ以上絶対に許してはいけない。

「…………」

 密やかな誓いと決意を胸に、修は無言でその惨状に踏み入る。そして、一組の向かい合う死体の前で立ち止まった。

 その二つの死体は、お互いを求め合うようにそれぞれに手を伸ばし、けれど結局届くことなく、そのまま絶命している。

 修はそんな二人の手を掴み、そっと伸ばして握り合わせた。

 せめて死後、同じ場所へと還れるように――そんなささやかな祈りを込めて。

「……そうだな」

 そんな修を見て隆は小さく頷くと、倒れる死体を巡って瞼を閉じて歩く。本当は、一人一人土に埋めてあげたかった。でも残念ながら、今の彼らには、その程度も許されない。

「行こう」

 しばらくして咲希がみんなを集め終わると、隆がそう提案する。静かに黙祷していた修が目を開いた。

「あぁ……だが、迂回する必要がある」

 街の北西方面へと視線を向ける。肉眼ではまだ見えないが、修には、そちらの方面から先程倒した存在――死霊が続々と近づき、市街を占拠しつつあるのを感じていた。自分たちがいる方とは逆側だが、市街地全体が制圧されるのは時間の問題だろう。可能な限り、距離を取った方が良い。

「分かった。急ごう」

 隆が頷き、和樹の腕を強引に引っ張る。咲希は晴菜の肩を抱きながら、ゆっくりと移動を始めた。

 修もそんな彼女たちを助けながら……今度は、自分たちを襲撃した死霊が現れた方角を見る。

「……厄介だな」

 新たに感じた敵影。ゆっくりと、しかし着実に、こちらに向かって近づいている。

 どうやら、彼らが市街を完全占拠する前にここを抜けるのは、諦めた方が良さそうだった。

 

「くそ! 本当に何なんだよ!!」

 和樹が狂ったように叫ぶ。慌てて、隆がその頭をぶっ叩いた。

「馬鹿! 静かにしろ!」

 その横で、修が物陰から飛び出す。そして、今の声を聞きつけた二人の死霊の首を素早くへし折り、仲間を呼ぶ前に無力化した。

「死にてぇのか!?」

 声を落として、隆が怒鳴る。和樹はすっかり参ってしまった顔で「だってよ……」と首をすくめた。

「構わないよ。どうせ、いつまでもここにはいられない」

 戻ってきた修が、そう声をかける。

「ごめん……」

 そんな修に、今やすっかり逆らう気力を無くした和樹が、力無く謝った。

 目の前で起きたあの惨劇から、まだ三十分も経っていない。途中既に二回襲われ、その時に敵から奪った銃を和樹が撃ったせいで、完全に敵に気付かれた。しかも至近距離で撃ったせいで、近くにいた女性陣諸共、敵の血を全身で浴びてしまい、しばらくは滴る血を誤魔化すだけで大変だった。

 なんとか血の跡を残さないように拭き取った後、それからは修の直感に従って、縫うように裏通りを進んでは曲がってを繰り返し……

 今はようやく敵をまけたと思うが、それでも、気を抜くことはまったく出来ない。

「とにかく……一度落ち着ける場所が必要だな」

 みんなの様子を見て、流石にもう限界だと悟った修がそう提案した。

「良いのか?」

 隆は怪訝そうにそう尋ねるが、修は「大丈夫だ」とはっきりと断言する。

 実を言えば、決して『大丈夫』ではないのだが、ここで不安そうな仕草を見せれば、それはみんなにも伝染する。そうなれば、折角の休憩時間であっても、心から休むことなど出来ないだろう。

 それに、このまま疲れ切った状態で進むのが望ましくないのも事実なのだ。もし休むなら、この際ガッツリ休んでしまった方が良い。幸い、時間だけを見れば、まだそれほど切羽詰まっている訳ではない。二、三時間ほど休んでも、約束の時間に遅れることはないだろう。

 勿論、道中で大きなトラブルが発生しないことが条件になるが……

「一度、どこかの民家に寄ろう。出来れば、そこでお風呂を借りて……可能なら、服も拝借しよう」

 束の間首をもたげた不安を振るい落とし、修はみんなに笑顔を向ける。みんなもその笑顔に釣られ、少しだけ表情が柔らかくなった。

「じゃあ出来るだけ、中学生の子供がいそうな家を探そう」

「難易度高いな……」

「ちゃんとお金も置いてかないと。みんな今、どれくらい持ってる?」

 強がりでも良い。みんなでこうして、普段と変わらないことを言い合えている間は、まだ何とかなる。

 修はそんなことを考えながら、みんなの様子を見守りつつ、同時に、意識を家探しへと向かわせた。


 幸い、手頃な民家はすぐに見つかった。

 多分、急いで避難したのだろう。玄関のドアは開いたままになっていて、中にも当然、誰もいない。少し台所を漁ると、カップラーメンやらスナック菓子なんかも出てきて、一食ご相伴に預かるくらいには、充分すぎるほどだった。

「じゃあまずは女子から。シャワー浴びてこいよ」

 隆の言葉で、女子二人が浴室の方へと消える。残った男三人は、食事の準備と並行して、これからの方針について打ち合わせることにした。

「俺馬鹿だから、食事の準備に専念するよ」

 と言っても、食事については和樹が一人で受け持ってくれる。

 昨日までの和樹は、修には反抗的な態度を取り続けていた。けれど今や、修に対してもすっかり従順だ。あの銃撃の悲劇を経て、それだけは収穫だったと言えるかもしれない。

「さて……じゃあまずは、何時頃までここでゆっくり出来そうか、そこら辺を考えるか」

 隆が壁に掛かった時計を見つめながら言う。

 今が、朝の八時前だから…… 

「余裕を持って、十一時には出た方が良いだろう。車を使えるならいざ知らず、徒歩なら二、三時間はバッファーを見ておきたい」

 あらかじめ考えていたのだろう。修の答えは早い。だが隆は、そこで一つ提案する。

「乗れそうな車、探せば見つからねぇかな?」

 徒歩で行く――それはあまりに、マイナスが大きい。今感じている色々な不安も、車さえあれば一気に解決するかもしれない。

「見つかるかもしれないが……誰が運転するんだ?」

「別に誰でも良いだろ。俺でも良いし、お前でも良い」

「…………」

 真面目に交通法規を気にする修に対して、隆はあくまで軽い。修が、分かりやすく顔を顰めた。

「ペーパーですらないんだけどな、俺たちは」

 思い出させるように、その事実を口に出すが、

「こんな状況で、何言ってやがる」

 隆は鼻で笑って、相手にもしない。だから修は、仕方なく肩をすくめて、

「まぁ良いよ。倫理的な問題は置いておくとして」

 もう一つ。もっと重大な問題を提示した。 

「現実問題、車を使うのは目立ちすぎる。狭い車内だから充分な迎撃も出来ないし、奇襲に対応するのも難しい。そんな状態で見つかって、重火器でも撃たれたら詰みだ。俺たちだけならいざ知らず、走る車から飛び降りて逃げるなんて真似、女子たちにはさせられないだろ?」

 修の正論に、隆は苦虫を噛みつぶしたような顔をする

「……それを言うなら、俺にも無理だな。下が土ならともかく、アスファルトの上に投げ出されて無事でいられる自信はな――」

 と、そこまで言ったところで、何かに気が付いたかのように言葉を止め……

「バリアかなんかで、敵の銃弾を防げないのか?」

 そんな馬鹿みたいなことを、真面目な顔で尋ねた。修の返答も、至って真面目だ。

「無理……とは言わないが、リスクが高すぎる。俺も、この力を完璧に掌握している訳じゃないんだ……どこまで出来るのか、みんなの生命を天秤にかけてまで、実験したくはない」

「この力……ね」

 それを聞いた隆が、口の端を上げて笑う。

「今更なんだが、一体全体何なんだ? その力は。今まで腕に自信がある奴とは何度も会う機会があったが、お前みたいなのは一人もいなかったよ」

 それだけ言うと、隆は顔から笑みを消し、更に繰り返した。

「今更だが、教えてくれねぇか? 自分の生命を預ける力だ。どんなものかくらいは、知っておきたい」

「…………」

 修は、黙ったまま隆をじっと見た。隆も、表情を変えずに隆を見返す。そのまま、しばらくの間沈黙が続いた。

「……別に、楽しい話じゃない」

 やがて、修が目を伏せる。口にした言葉からは、打ち明けるつもりがないという明確な意思が、はっきりと見てとれた。

 そんな修を見て、隆はゆっくりと天井を見上げる。そして――

「俺はな、おまえのことを偽善者だと思ってたんだよ」

 唐突に、そう呟いた。

「……え?」

 思わず、修は首を傾げる。いきなり変わったように見えるその話の行き着く先を、咄嗟に理解出来なかったのだ。隆は、そんな修のことはお構いなしに続ける。 

「人が誰かのために動くのは、常にその見返りを期待するからだ。それが有形か無形かは関係ない。損得勘定の算盤を弾いて、初めて人は誰かのために動く。それが、俺の考える人間という生き物だ。その枠から外れたもんは……一様にすべて、偽物だ」

 その率直な考えを聞いて、隆らしい価値観だと修はそう感じ、特に意外な顔もせず頷く。

「あぁ……だから、偽善者か」

「そうだ」

 迷いなく、隆が肯定する。修は、そんな隆から目を逸らして、下を向いた。

「……寂しい考え方だな」

「例えそうでも、それが真理だ」

 大真面目に、隆は断言する。けれど――

「少なくとも……昨日までは」

 短く、そう付け足した。それから、不思議そうに目線を上げる修を見て、どことなく嫌そうに顔を歪めながら、もう少しだけ、補足する。

「お前と、それと九条を見ていて、『それだけじゃないのかも』って思ったんだよ。少なくとも、お前らが自分の利益を打算的に計算して動いているようには見えなかったからな。そんな奴は他人のために自分を盾にしたりはしない」 

「……ドラマとかでなら、よく見るだろ? そういうシーン」

 対して、修はまた気まずそうに目を伏せた。その理由は、自分でも分かっている。かつての自分も隆と同じように考え、そして行動していたからだ。

 人は、結局自分のためにしか生きられない――それが、あの日を迎えるまでの修の現実で……そして、あの日から時間が経った今でも、完全にはその現実から抜けきれていない。

 だからこそ、ここで本物の善人の一例として挙げられることに、なんとも言えない居心地の悪さを感じたのだ。そして、そんな修だからこそ、次に隆がどう答えるのかも、聞く前から予想がついてしまっていた。

「ドラマで、だろ? 現実は、助けた相手に自分の良いところを見せたいか、周りによく評価してもらいたいか……精々は雰囲気に流されてのことだ。少なくとも、俺はそう考えてたんだよ」

 おおかた、予想と外れない。それは本当に、かつての自分とよく似た考え方だった。

 隆の話は続く。

「でも、さっき言った通り、どうやらそれだけじゃない人間もいるってことを俺は知った。そして、そんな馬鹿な奴らを見て、馬鹿だなと笑っている自分がいるのも知った。けど、癪なことに……」

 今度こそ、隆は本当に嫌そうな顔をする。それでも……

「そんな馬鹿を、心地が良いと感じている自分もいるんだ。人の本能に逆らった不条理さに、何故か魅力を感じている自分がいる。そしてそれは、俺からすれば理解できない不合理さだ。だから俺は今、生まれて初めて誰かに従っている」

 それは、隆の告白だった。その愚直なまでの内容に、気恥ずかしさを感じたのだろう。気まずそうに天井を見て、数秒間沈黙する。

「……知りたいんだ」

 その沈黙の後、漏れ出たのは、少年らしい隆の想い。

「俺の価値観を変えた人間のことを知りたい。そいつを形作っているものの正体を知りたい。そうすれば俺は――」

 隆が再び、正面を見た。まっすぐに、その両眼で修を見つめる。

「不合理な世界へと飛び出した俺を、もう一度合理性の海の中に戻すことが出来るかもしれない。だから……」

 再び、隆の口から紡がれる。

「知りたいんだ」

 繰り返された、その言葉。繰り返されることで、その奥に潜むものがより一層顕になった。それは、変化する自分を受け止めようとする、切実なまでの真剣さ。普段の不真面目な態度からは想像できない、隆が放つ魂の叫び。そんな一人の人間を前にして、それを退けられるほど、今の修は人の想いに無頓着にはなれない。

「……仕方ないな」

 だから修は、立ち上がった。

「ちょっとついてこい。誰かの耳がある所で、話せることじゃない」

 そう言うと、未だ台所で食事の準備をしている和樹に、

「俺たち玄関で見張りしてるから、食事の準備出来たら先食べて良いぞ。ただ、女子のシャワーの覗きだけはするなよ?」

 と、声をかけた。和樹は従順に頷く。

「え? あ……あぁ、分かった。でも二人とも、気をつけてくれよ?」

 戸惑いつつも、心配そうな顔で二人を送り出す和樹を残して……

 修は隆を連れて、玄関から外に出た。


「さっきも言ったが、これは別に楽しい話じゃないし、ついでに言えば、簡単に信じて貰えるような話だとも思っていない。それくらい、これは突拍子もない話なんだ」

 外に出て、玄関の扉に背を預けた修が、開口一番そんなことを口にした。隆は可笑しそうに口角を上げる。

「信じて貰えないって……今更だな。武装した兵士相手に大立ち回りしているおまえの姿を、こっちはもう何度も見てるんだぞ? これ以上、一体どんな信じられない話があるって言うんだ?」

 そんな馬鹿なことと、隆は一笑に付す。だが、修は大真面目だった。相変わらず厳しい表情のまま、更に言葉を足して説明する。

「それでもだよ。俺の力をただ見るだけなら、それは精々超常現象の類で済む話だと思う。UMAとか、魔法とか、宇宙人とか、そういったものの延長だ。でも俺が今から話すのは……神様の話なんだよ」

「神様?」

 思わず、隆は目を見開く。

「神様って……そんなアホな。ファンタジーの世界ならいざ知らず、現実世界でそんなの……今どきラノベにだって、中々出てこないぞ?」

「止めとくか?」

 修は間髪入れずにそう返す。その一言で隆は、自分が無理やり聞き出している立場なのを思い出した。

「……悪かった、続けてくれ」

 それを聞いた修は「別に、本当に止めて良かったんだけどな」と、溜息のように呟いて……渋々と口を開いた。

「……六年前。地震があったのを覚えてるか?」

「地震?」

 隆は、しばしの間考え込む。けれど、心当たりはない。

「いや……大きかったのか?」

 逆に聞き返すと、修は首を振った。

「いや、確か一番揺れた所でも、震度四か五くらいだったと思う。被害だって、ほとんど無かったはずだ」

 それを聞いて、隆は「なんだ」と肩をすくめる。

「じゃあ、覚えてる訳ないな。しかも、そんなガキの頃の地震なんて」

 尤もなことだ。地震が滅多にない国ならともかく、地震大国日本で、そんな小さな地震を数年後まで覚えていることなんてまずない。ヘタをすると一年後には記憶から消え去っているかもしれない。

 そしてそんなことは、当然修自身も分かっていた。それでもやっぱり、聞かずにはいられなかったのは――

 誰の記憶にも残らない、そんな些細な地震であったとしても、その地震は紛れもなく……

「だけどその地震が、俺たちの運命を変えたんだよ」

 そう。それが全ての始まりだったのだから。

 子供らしく自己中で、それでもわんぱくな少年の枠を出ていなかった修を、人のために自らを犠牲にする〝聖人のようなもの〟に仕立て上げた出来事。

人の限界を超越した力を授かった分不相応な少年が、ヒーローになる道を選ばざるを得なくしたエピソード。

 その物語は、修と咲希が、いつものように九条神社の本殿に忍び込んだところから始まる。

「あの日、俺と咲希の二人は、九条神社で遊んでたんだ。九条神社――分かるだろ?」

「あぁ。新年つったらあそこに行くからな。と言っても、あそこに何が祀られてるかまでは、知らねえけど」

「別に、それが普通だよ。俺たちの歳で、神社に祀られている神様を知っている人の方が少ない」

 隆の断りに対して、修は肩をすくめてそう答えた。けれど、それからすぐに「でも」と続ける。

「九条神社の場合は、少しだけ事情が違うんだ。だって神主自身も、どんな名前の神様が祀られているか、知らないんだからな」

「は? なんだそりゃ?」

 隆が素っ頓狂な声を上げる。

「そんなことあり得るのか? 自分の祀ってる神が、誰か分からないなんて」

「どうやらな」

 修が答える。

「珍しいけど、決してないわけじゃないらしい。神社が古すぎて、解読できる文献なんかが残っていないと、そんなことも起こる。土地の慣習だけで、何百年も……もしかしたら何千年も、ずっと維持されてきたんだろうな」

「へぇ~そんなこともあるんだな」

 物珍しそうに頷く隆。その様子を横目で見ながら、修は続ける。

「九条神社の場合、碌に文献もなくて、伝わっているのは御神体だけだった。その御神体は、綺麗な一振りの……宝剣だ」

 そう言うと、修が右手を掲げてみせる。いつの間にかその手には、一本の見事な剣が握られていた。

 隆の目が、大きく見開かれる。 

「もしかして……それが、その宝剣なのか?」

 隆は、この宝剣に見覚えがある。だがそれは、九条神社でではない。昨日から、修がその剣を片手に戦っている姿を、何度も見ていたからだ。

 だから勿論、修の力を説明されるに当たって、このなんとも不思議な一振りの剣に言及があることは予想していた。それでも、まさかそれが、子供の頃から親しんできた神社の御神体だなんて、想像すらしていなかった。

「九条も……このことを知ってるのか?」

 思わず、その質問が飛び出す。

 咲希が、九条神社の神主の子供であることは有名な話だ。隆も当然、そのことを知っている。ならば、この剣に纏わる力に彼女が絡んでいると考えるのは自然なことだろう。

 けれど、修は首を振る。 

「話したことはない。見せたのも、昨日のあの時が初めてだ」

「……そうなのか?」

 意外な答えに、隆は眉を顰める。そんな訝しげな顔に、修は「あぁ」と返して……

「でも当然、見てすぐに気付いただろうな。俺が持つこの剣が、六年前に折れたはずの御神体であることに」

 何気なく語られた事実。隆は、その表情を凍らせる。

「……折れた? 今、折れたって言ったのか?」

 隆には、取り立てて宗教心と呼ばれるようなものはない。そんな彼であっても、流石に御神体が折れたと聞いたら、それが只事ではないことくらいは分かる。

「どうして折れたんだよ。普通ああいうのって、厳重に保管してあるんじゃないのか?」

「本殿の祭壇に安置されてたんだ。普通の人は入れない場所だけど、咲希は神主の子供だからな。昔は俺と二人でよく本殿に入り込んで、ただ何をするでもなく、ぼうっと宝剣を眺めてたんだよ。今となっては、何でそんなことをしてたのか、よく分からないけどな」

 自嘲気味に話す修。だが隆にとって、その理由は別にどうだって良い。知りたいのは、結果だ。

「それで? 何で見てるだけで折るなんてことになるんだよ。不用意に触ったりでもしたのか?」

「まさか」

 修は首を振る。

「向こうから落ちてきたんだよ。神社が揺れて、刀掛けから外れたんだ」

「神社が揺れたって…………ッ!? まさかそれが……その地震か?」

 修は頷く。

「震度四か五って言ったけど、あの辺ではそんなに揺れなかった筈だ。でも俺の体感だと、もっと凄い揺れだった気がするよ。このまま建物が崩れるんじゃないかって、一瞬そんなことを思って……咲希と一緒に立ち竦んだまま、揺れる建物に意識を奪われたんだ。だから俺は、その瞬間を見ていない」

 その瞬間――文脈から考えて、それは剣が床に落下して折れた瞬間のことだろう。けれど……

 その時の修の表情から、隆はそうでないことを直感的に悟ってしまった。何が起こったのか、本能的に理解してしまった。

 だから思わず、家の方を見る。今も尚、咲希がいるはずの方向を。

「気が付いた時には、手遅れだった。どんな軌道を描いたのかはわからないけど、気付いた時には、もう終わってしまっていたんだ」

 視線を戻す。目の前には、顔を歪めた修がいた。 

 そこに浮かぶ感情は、懺悔だろうか? それとも、悔恨だろうか?

 隆には、その判断はつかない。いやもしかしたら、修自身にも分かっていないのかもしれない。押し寄せる感情の奔流が、きっと彼に、まともな思考を許さない。

 ただ一つだけ言えるのは――


「咲希の身体を、宝剣が貫いたんだ」


 修はきっとその瞬間、囚われてしまったのだろう。

九条神社の一画に……神聖な本殿の一室に、血塗れの咲希を、その両腕に抱えたまま。

 未だそこから、一瞬だって抜け出せていないのだ。


「その剣が……九条を……」

 修の口から告げられた真実は、直前に予想がついたとは言え、やはり衝撃的な内容だった。

「それで……大丈夫だったのか?」

 大丈夫な訳がない。大人でも、身体に大穴が開きそうなほどの剣幅だ。ましてや、当時の彼らは小学三年生。間違いなくそれは、致命傷であったはず。

 それでも、敢えて隆がそんなことを聞いたのは、咲希が今も元気に、学校に通っているからだ。そんな怪我をしたなんて話は聞いたこともないし、体育の授業にだって問題なく出席している。だから、とてもそんな大怪我を過去に負っているようには、見えなかったのだ。

「大丈夫じゃなかったよ」

 そんな隆の混乱を、修もよく分かっている。だから、その頓珍漢な質問に特にツッコむこともなく、静かに事実を告げた。

「剣は咲希の血管と内臓を破壊し尽くしていた。倒れた咲希を、俺はすぐ抱き留めたけど……でも、凄い血の量だった。あっという間に辺り一面血塗れになって……咲希の身体は、瞬く間に冷たくなった。呼吸なんて、勿論してない。脈だって……多分無かったんだろうな」

「それって……」

 隆は絶句する。だって、それはどう考えたって――

「あぁ。咲希は……死んだんだよ。あの時、あの日、あの場所で。咲希は確かに、生命を落としたんだ」

 修は、否定しなかった。前のめりになっていた隆は力無く扉にもたれかかり、空を見上げる。

「じゃあ……あの九条は何なんだよ? 幽霊だとでも、言いたいのか?」

「分からない」

 修も、隆に倣って空を見上げた。

「もしかしたらこれは夢なのかもって、そう何度も考えたりもした。俺は未だにあの本殿に囚われていて、咲希を守る夢を見続けているんじゃないかって……血塗れの咲希を、この両腕に抱えたまま」

「ハッ、なるほど。じゃあ俺たちは、夢の中の登場人物か?」

「どうだ? 心当たり、あるか?」

「……あるわけねぇよ」

 隆が俯く。修はまだ、空を見ていた。雲が……ゆっくりと流れている。

「声が……聞こえたんだ」

 やがて、一つの雲がその視界から消えた時、修はそう切り出した。隆は、俯いたまま答えない。

「血塗れの咲希を前に呆然としていたら、その声が聞こえた。だから俺は、その声に応えた。縋った。結果、俺の手には……力が残った」

 修が、宝剣を太陽の光にかざす。刀身で鏡面反射した光が、太陽のレプリカを塀に描き出す。

「それは、契約だった。報酬は……咲希の生命。動くことをやめた咲希に、再びこの世での人生を与えること」

 次の瞬間、太陽が雲にかかった。それだけのことで呆気なく、そのレプリカは地上から姿を消す。

「対価は……俺の生き方。『無償の愛に生きよ』――それが、神様が俺に与えた、新しい人生だった」

 再び、翳った光が戻っていく。けれどもう、塀には何も描かれない。

 隆は顔を上げ、剣を納めた修を見つめた。

「そうか……それが、お前という人間が生まれた理由か」

 隆の価値観を変えた不条理。その不条理は、やはりその原因に特大の不条理を抱え込んでいた。人の死をも超越したその不条理は、一人の生命を救うために、一人の命(かたち)を変えたのだ。

 感慨に沈む隆を尻目に、修は言葉を続ける。

「与えられた力は、二つあった。一つは、おまえも散々見てきたように、この宝剣だ。何ものをも両断するこの大剣と、それを自在に振るえるだけの身体能力。身体の耐久度も、相応に上がっているみたいだ。さっき『バリア』なんて話もあったが、この刀は離れた空間にも作用させられるから、車外の銃弾を弾くなんてことも、多分不可能じゃない」

 改めて聞いて、とんでもない力だった。まさに、神から与えられたと言っても過分ではないほどの、超常的な力。しかも、それでもまだ……すべてではないのだ。

「与えられたもう一つの力は……未来視の能力だった」

 これには、隆も意表を突かれる。

「は? 未来視? それは……未来を視れるとかっていう、アレのことか?」

「あぁ、そうなるな」

「おい……じゃあおまえは、ここまでの展開をあらかじめ知っていたってことなのか?」

 思わず、口をついて出る疑問。そしてその問いの中には、どうしようもなく非難の色が混ざっていた。もし本当にそうなら、つい一時間前の惨劇を何故防ぐことが出来なかったのか。

「……制限があるんだ、この力には」

 しかし修は、そんな隆の非難にこう返した。

「それに、かなり不安定だ。一回使えば、それから一週間は使えない。ただごく稀に、二回使えたり、逆に一回も使えないこともある。五日でまた使えるようになったり、十日使えないなんてこともあった」

「なんだその……壊れた電化製品みたいな性能は……」

 あまりの不安定さに唖然とする隆に向かって、修は告げる。

「だから結論を言えば、今回は未来視を使えなかったんだ。最後に使ったのが九日前だから、普通なら使えるはずなのに、何故かずっと使えていない。もし使えてたら、誰があんなことを許したものか」

 少しだけ声を荒げながらそう言って、しかしすぐに、修は自嘲げに首を振った。

「いや……もしかしたら、使えていても防げなかったかもしれないな。俺が未来を視れるのは一回だけ。俺が今回未来視を最初に使おうとしたのは、アメリカ大統領が北朝鮮に呪殺されたニュースを聞いた直後のことだから、あの惨事よりも随分前だ。だから、その段階で未来視をしても、あの惨事は予見できなかった可能性がある」

「? どういうことだ?」

「未来は流動的なんだ。俺たちが今まで取ってきた選択が、あの段階で視えただろう未来の俺たちの選択と完全に一致している保証はない。そしてもし違っていたら、今とは違う未来がそこでは展開しているはずだから、あの惨事はきっと起こらない」

 分かったような、分からないような……隆は眉を顰めつつ、自分が理解できている範囲で更に尋ねる。

「それでも、未来を視てるんだ。少なくとも、誰かが死ぬような未来に至るような行動はしなくなるだろ?」

「視た範囲ではな。でも、そこからズレた未来に入った段階で、もうその未来視は意味をなさなくなる。せめて、未来視の中の俺が更にもう一度未来視を使ってくれれば……あわよくば、その未来視の中で更にもう一度未来視を使ってくれれば……最終的には完璧な未来へ辿り着くことが出来るのかもしれないが……残念ながら、それはしてくれないんだ。未来の俺は、制限やらなんやら色々な理由をつけて、結局未来視を使わない。一回きりという制限は、変なところで厳格だ」

 それから、修は思い出したように隆を見た。

「そう言えば、俺が常に〝平打ち〟で敵を倒している理由を、おまえは気にしていたな」

 言われて、隆は曖昧に頷く。

「あぁ、確かにそうだが……もしかしてそれも、何かの制限なのか?」

 修は頷く。

「俺に力を授けた神様の言葉には、更に続きがあったんだよ」

 そう言うと、修はゆっくりと、あの日聞いた言葉を誦じる。

忘れようのない、もう一つの契約内容。

『誰かを守るためにのみ、この宝剣を使え。同時に、決してその刀身を血に染めてはならぬ。もしそれを破れば……人として生きることを許さない』

「…………」

 言葉を失った隆に、修は続ける。

「だから、この剣で、人を斬ることは出来ない。もしそれでも、どうしようもなくて人を斬った時……その時が、俺が人間を辞める瞬間だ」

 人間を辞める――確かに、それは修がこれまでも何度か使ってきた表現だった。

 隆は首を振って、疲れた声で言う。

「そんな契約に従って、何年も他人のためだけに生きてきたお前は、もうとっくに人間辞めてるよ」

「他人のためだけに……か……」

 しかし、修は頷かない。

「それは違うよ。確かに、この生き方を続ける過程で、そんな人にも会ってきた。誰かのためを想って、誰かの幸せのために心から尽くせる人。そんな立派な人にも出会ってきたけれど……でも残念ながら、俺はそんな聖人君子にはなり切れなかった。そんな風になりたいと思ってもなれなくて……心のどこかで、人からの……特に咲希からの、称賛を求めている自分がいる」

 それは、修の本心からの告白であり、彼の苦悩と試行錯誤の原因だった。

「だから結局、俺は『無償の愛』では生き切れないことを悟った。それでも、咲希を助けるためには『無償の愛』に生きるしかない。その絶対的な矛盾に気が付いた時、俺が取れる道は、一つしか残されていなかった」

 そう。それこそが、修が弱々しい善人を演じていた、ただ一つの理由。

「俺は、為した善行を人に知られることを恐れた。人に知られる可能性を、出来得る限り排除した。そうすれば、絶対に誰からも、感謝なんてされずに済む」

 それは鬼気迫るほどの……いや、もはや狂気じみた、修の決意の表れだった。

「……え?」

 隆も、思わず聞かずにはいられない。

「感謝すらも……されちゃ駄目なのか?」

「当たり前だろ? それだって、善行に対する見返りだ」

 隆は、絶句する。

(あまりにも……潔癖すぎる)

 そう。それが、隆の嘘偽らざる感想だ。感謝されることすらも許されないとするならば、それこそ修が言うように、秘密裏に善行を積む以外に方法がない。むしろ時には、天邪鬼のような行動を迫られる時さえ、あるかもしれない。

(いや……だからか?)

 そこで、気がつく。修は翔吾を助けた後、感謝されるどころか、助けた本人にまで虐められるようになった。本当だったら、ヒーローの如く感謝されてもおかしくないというのに……

それなのに修は、助けた人からの虐めを甘んじて受け続けた。

(そんなの……馬鹿すぎるだろ)

 そう、馬鹿。修は、その行動原理にはまったく共感できない。むしろその行動は、自然の摂理に反しているとまで言える。

(でも……)

 修の話を聞いた今なら、共感は出来ずとも理解はできる。何故、そんな不合理極まりない選択を修が選んだかと言えば……

(小学生か……あまりに、小さすぎる)

 『無償の愛に生きる』――その運命を背負った時、修はまだ小学三年生だったのだ。そんな歳で、まともな判断なんて出来る筈もないし、『無償の愛』なんて概念すら、聞いたことも無かっただろう。そんな無知な子供が『無償』と聞いて、あらゆる見返りを拒絶しなければいけないと考えても、一向に不思議はない。

 しかも厄介なことに、下手なことをして失敗すれば、その瞬間、最愛の人の生命が潰えるかもしれないのだ。そんな状態であれば、誰だって慎重にもなるし、潔癖にもなるだろう。

(だから、理解はできる。理解はできるが‥‥…)

 隆は、修の環境を理解しつつ、それでも納得したりはしなかった。『仕方がないね』と同情するフリをして、目を背けるような真似はしたくなかった。何故なら――

(そんな生き方で……良いはずがない)

 誰かが言わなければ、修は死ぬまでこの生き方を続けるはずだ。与える度に失うことを是と捉え、最後はきっと、何もかもを失うだろう。

(こいつがそんな生き方をするのを、俺は黙って見過ごすのか?)

 曲がりなりにも、修は生命の恩人なのだ。隆が今もここで生きていられるのは、間違いなく修のお陰。だったら……

(はぁ……本当に、柄じゃないな)

 隆は内心で溜息を吐く。こういう時、融通の利かない自分の性格が心底嫌になる。

「……本当に馬鹿だな、お前は」

 それでも、隆は口を開いた。内心を蹂躙する自己嫌悪の感情が、表情に表れないように注意しながら。

「もし俺が神だったら、九条を殺すな」

 遠慮も躊躇もなく、そう言ってのける。そしてその一言は、咲希を守るために生きてきた修にとって、決して看過できない言葉だった。

「……なに?」

 修の視線が、刺すような鋭さを帯びる。

「おい、どういうことだ?」

「当たり前だろう? お前は、『無償の愛』で生きてなんていないからな」

 だがその視線を受けても、隆は一切舌鋒を緩めない。断言するようなその口調のまま、変わらず言葉を紡ぎ続ける。

「人のために何かをして、自分はその分何かを失う。その繰り返しの結果、行き着く先には何がある? 俺にはそれが……緩やかな自殺にしか見えないんだよ。つまりお前の場合のそれは、『無償の愛に生きよ』ではなく、『無償の愛で死ね』だ。俺が神なら、人間にそんな生き方は求めない」

 そこまで言い切って、しかし隆の口は止まらない。恐らく最後になるだろう、いや……最後でなくては困る、この恩返しの機会に。隆は思うことの全てをぶつける。それがたとえ、自分を切りつける刃になろうとも。

(他の誰も言えないのなら、当事者の俺が言ってやる)

「しかもお前の場合、自分を犠牲にすることに夢中になりすぎて、肝心の相手のことを考えてない。翔吾がそのいい例だ。お前はあいつを助けたつもりなんだろうが、その結果あいつは、自分を助けた相手を虐めるっていう〝最悪〟を続けてるんだ。つまりおまえが、あいつを悪人にしたんだよ」

(あぁ……くそ!)

 覚悟はしていたが、自分で口にして、その白々しさに虫唾が走る。

(こんなことなら、和樹が翔吾を虐めるのを止めさせとけば良かった)

 隆は本気で後悔するが、今更そんなことをしても後の祭りだ。すべては、自分の行いが招いた結果に過ぎない。

(……クソッ)

 それでも、言わなければならない。

 だから隆は、一気に言い切る。もう二度と、誰かを虐めないと心に誓いながら。

「だからな、やっぱりお前は聖人なんかじゃないよ。お節介で、おまけに馬鹿な、ただの偽善者にすぎない。良いことをしたつもりが、自分も他人も不幸にするなんて、自分のために善行を積む本物の偽善者よりも、更にタチが悪い。そうは思わねぇか?」

 言い終えて、隆は力尽きたように空を見上げる。それから、チラリと修の顔を覗き見た。

 修は……呆気に取られた顔で固まっている。その表情の意味を、隆は知らない。自分の言葉に、どのような印象を抱いたのか、それが修に届いたのか、隆には知る由もない。けれど……

「この島を脱出したら――」

 もう戻ろう。言いたいことは、すべて言った。これ以上何も言うことはないし、正直、修の感想を今から聞くのは、精神的にキツすぎる。

「元の日常に戻れたら、その時にもう一度、お前の生き方を考え直してみろ。どう生きるべきか、見つめ直してみろ。それくらい、お前が契約している相手が本物の神様なら、きっと許してくれるだろう?」

 だから隆は、返事も聞かずに身を翻す。

(いい加減、腹も空いてきた。何もかも忘れて飯を食って、さっさと風呂に入ってしまいたい)

「おい! もう風呂はOKか?」

 その掛け声は、きっと隆なりの照れ隠しだろう。

 家の玄関を開けて中に入るなり、奥に向かってズンズンと歩いて行く様は、彼の内心を知っていれば、どこか愛らしさすらあった。では……

 当の修は、どう感じたのだろう。

「何なんだよ……まったく」

 去っていく隆の後ろ姿を見て、修の口から溢れたのはそんな愚痴っぽい声。

 まぁ……当然だろう。いくらなんでも、隆の言葉は身勝手が過ぎる。少なくとも、虐めに加担した張本人が、その虐めから被害者を守った人間に向けて、言う言葉ではない。むしろ修は、ここは怒っても良いくらいだ。

「でも……」

 けれど修の顔には、そんな感情の色はない。ただ考え込むように、改めて一人、空を見上げた。

 そして、独り言。

「考えてみるよ。この事件が終わって、無事あの神社に戻れたら。預かったこの剣を刀掛けに置いて、一人静かに目を瞑って。咲希のために、そして自分のために……選ぶべき未来の選択を」

 それは、隆の忠告に対する修の答え。同時に、誰にも聞かせる気はない、一人きりの静かな誓願。

 新たな門出に立つために、修はそんな言葉を残して……隆を追って、家の中へと歩き出す。 

 まだ見ぬ未来に、辿り着くために。

 今一度、戦いの渦中へ。

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