2027年:災厄の中に咲いた花 第一章
修(おさむ)は、ごく普通の、やんちゃな少年だった。
人より少しばかり気が強く、尚且つ力も強かったから、小学校に上がる前から餓鬼大将のようになってはいたが、それでもあくまで、普通の少年だった。
他者の気持ちに無頓着で、特に人が感じる悲しみへの理解に欠けていたけれど、それでも普通の少年の枠を出る程ではない。
子供なんて大抵、そんなものだからだ。
小学校・中学校と上がる過程で様々な経験をし、徐々に社会性を身につけ、優しくなっていく。人の気持ちが、分かるようになっていく。
だから本来なら、修にもそんな未来が待っていたのかもしれない。普通の人間としての人生が、あり得ていたのかもしれない。
けれど、二〇二一年のとある日――
小学三年生になったばかりの、陽春の昼過ぎ。
忘れられない一日となった、運命の時……
何か、特別なことをした訳ではない。
いつものように、九条神社の境内に集合して、咲希(さき)と合流した。今日、他のメンバーは家の用事で忙しいから、集まれるのは二人だけ。
だから二人して、いつものように本殿へと足を踏み入れて、神々しい光を放つ御神体――宝剣にしばらくの間、心を奪われた。
……それだけなのだ。
彼らがしたのは、たったそれだけ。悪いことは、何一つしていない。そこから物語が発生する余地なんて、本来何一つ無かった筈だ。
それなのに……
地面が揺れる。天井が軋み、埃が舞い落ちる。
突然の異常事態に、座ったまま宝剣に見惚れていた二人は驚いて立ち上がり、どうしようかと一瞬顔を見合わせた。つまり――
〝宝剣から、目を離した〟
そうだ。今思えば、それが唯一の失敗だったのかもしれない。勿論、そもそも本殿になど入らなければ良かったし、宝剣などに見惚れなければ良かったのだが、それはもう彼らの日常の一つなのだ。だからあの日に限って、それを変えるのは難しい。
だから……そう、せめて。あの時、宝剣から目を離しさえしなければ……
それで、すべてが変わったのだ。
修の運命が捻じ曲がり、更には周囲の人間の運命をも巻き込みながら、異なる結果へと収束を始めた。
けれどもそれが、不幸な出来事だったと断じたい訳ではない。それが良いことだったのか、それとも悪いことだったのか……それは当人にしか分からないし、もしかしたら、当人にすら分からないかもしれない。おそらくその答えは、神のみぞ知る。
だから一つだけ。確かな事実をここに述べるとするならば……
二〇二七年五月二十四日。
後に『災厄の日曜日』と呼ばれることになる惨劇の、始まりの日。
不条理で、不合理で、理不尽極まりない、そんな絶望的な災厄の只中で――
一輪の花が。
花火のように…………〝咲いたのだ〟。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます