第21話 お祭り③
噴水の周りに腰掛けて、焼きそばを口に運ぶ。やはり味が濃い。嫌いではないが、のどが渇くこと間違いなしだ。
「俺らの模擬店は箸の付け忘れしないようにせんとな」
トッチーが口をモグモグさせながら言っている。
大通りの方から祭り太鼓の軽快な音が聞こえてきた。広場の中は大通りよりもほの暗く閑散としている。祭りの雑踏から一息つくための、いわば休憩所のような場所だ。
僕たちの前を小さな子連れの家族や中学生くらいの男子集団が通り過ぎていく。そういえば、僕たちは高校三年生だったな、そう思うと何だか寂しい気持ちになる。
「この祭りに参加できるのも今年で最後かもしれないな」
「なんだよ末永、お前県外出るの?」
「可能性として、なくはない」
ふーんと相槌を打って、トッチーは焼きそばを口に入れた。
高校三年生の六月となると、色んなところで次第に、進路のことが話の話題に上るようになる。早い人だと九月には進学先が決まるそうだ。そんな話を耳にすると、進路選択という現実から目を背けてはいられない。
「俺はまだ何も考えてないなー。将来これがやりたい、っていうのもないし」
トッチーの言う、「何も考えてない」というのは嘘だろう、僕にはわかる。ただ、いくら考えても答えが見つからないのだ。そもそも自分の進む道に正解など存在しないのだから。
「なに?進路の話してるの?こんなところでやめときなよー、焼きそばが美味しくなくなっちゃう」
「佳純はこっちに残るんだもんな」
相本は怪訝そうな顔をするが、トッチーはお構いなしといった様子だ。
「うちの場合、県外に出たいって言っても、親が許してくれないの」
相本は不満げに言う。
「渡辺さんは?」
トッチーが、今度は渡辺に話を振る。
「まだ特に考えてないかな。でも、こっちには残ると思う」
ふーん。トッチーは自分から聞いておいて、さほど興味のないような反応を示した。
やはり女子の場合、進学するにしても地元に残るというケースが、男子に比べて多い気がする。女子は男子に比べて地元愛が強いから、そんな理由でないことはわかっている。僕は女子に対して進路の話をするのは、正直気が引ける。それもあって、渡辺と今までそういう話をしたことはなかった。
「二人もこっちに残りなよー、そしたら来年もこうしてお祭りに来れることだし」
京香もそう思うでしょ、相本は渡辺の方に顔を向ける。
「京香が『伊織くん、行かないで』って頼んだら、伊織くんこっち残るかもよ」
相本がまた余計なことを口にする。これは叩かれるな、僕はそう期待した。しかし当の渡辺は、相本の相手をしてあげる気力すら湧かなかったらしい。相本を無視して、焼きそばに箸を進めている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます