第9話 映画館
「ウーロン茶のⅯサイズ一つお願いします」
売店の店員さんがドリンクを準備している間、僕の目はポップコーンマシーンに向いていた。勢いよく舞うポップコーンを見ていると素直に頼んでおけば良かったな、と後悔の念に駆られる。
映画館に着いてチケットの購入を済ませた後、渡辺に売店で何か買わないか尋ねた。彼女は「大丈夫」と言うので、僕一人が注文の列に並んだ。お腹も空いていたのでポップコーンセットにしようか、そう考えたが、渡辺の横で一人ポップコーンを頬張る自分の姿を想像すると、何だか子どもじみていて、買うのを躊躇してしまった。
ドリンクを受け取り渡辺のもとへ向かう。僕たちが観る映画の上映開始時間が迫り、シアターへの入場が始まっていた。そろそろ行きますか、渡辺と入場ゲートへ進んだ。
ゲートに立つ係員の女性は大学生くらいだろうか、僕らとあまり年齢が離れていない印象。チケットを見せた後、学生証を出そうとしたが、制服姿のこともあってか、そのままゲートを通された。渡辺も同様だった。係員の女性の目には、僕ら二人がどのように映ったのだろう、お似合いのカップルに見えただろうか。そんなことを気にしながら案内された二番シアターに進んでいた。
僕らの座席は、H―7とH―8、Aから順に一段ずつ階段を上がって行き、Hのところで僕から先に座席へと入っていく。僕がH―8、渡辺はH―7に座った。
今から観る作品について、行きの電車の中で軽く下調べをしている。どうやら女子中高生に人気の学園もの恋愛漫画を実写映画化したもので、僕も知っている女優が主演を務めたらしい。公開から一か月以上経っているためか、休日にしては人の入りがまばらなように感じる。その観客のほとんどが僕らと同年代で、やはり女子の割合が高い。
劇場内の照明が暗くなり、いよいよ本編がスタートした。主人公の女子高生は地方の田舎町で暮らしていたのだが、親の転勤で東京の高校に転校することになる。転校先で出会う男子との恋模様を描く、そんな物語のようだ。登場人物が美男美女ばかりだな、制服がおしゃれだな、僕はそんな所に目が行っていた。
渡辺は楽しんでいるだろうか。僕はドリンクを飲みながら、そっと彼女の横顔を覗いてみた。渡辺は真っ直ぐな視線をスクリーンに向けている。どうやら退屈はしていないようだ。僕は安心して顔の向きを戻した。お腹空いたなあ、そんなことを考えていると次第に集中力がなくなっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます