第8話 待ち合わせ

待ち合わせの時間よりは早く着いたと思う。正門の前で待つ渡辺の姿が目に入り、僕は小走りで彼女に近づいた。


「ごめん、お待たせ」


渡辺は気にしないでといった表情を見せた。じゃあ行こうか、二人並んで歩き始める。記念すべき人生初デートがスタートした。


「制服で来たんだ」


「学校で待ち合わせだったから、一応……」


渡辺の答えに、真面目だな、と僕は思った。僕は、真面目な人間が好きだ。正直、彼女の私服姿も気になってはいたが、次の機会にでも取っておこう。


今から行く場所は決まっている。高校の最寄り駅から電車に乗って一駅、隣町にある映画館だ。高校生の初デートで映画は、無難な選択と言えよう。ここで僕は、大事なことに気づいた。


「まだ何の映画見るか決めてない」


「そういえば、そうだね」


「今どんな映画やっとんかな」


「調べてみるね」


渡辺はブレザーのポケットからスマホを取り出し調べ始めた。告白のときもそうだったが、僕は事前に計画立てして行動するのが得意ではない。計画を立てたところで、物事がその計画通りに進まなかった場合に、臨機応変に対処できる自信が僕にはない。それなら最初から計画なんて立てなければ良い、これが僕の悪い癖だ。


「こんな感じ」そう言って、渡辺は僕にスマホの画面を向けてきた。今から行く映画館の上映スケジュールが表示されている。名前だけは知っているアニメの劇場版、コメディ要素の強そうな時代物、全米が涙しそうな洋画等々、色々あるが、僕の中で特にこれが観たいといった作品はなかった。


「渡辺は何か観たいのある?」


そう言って渡辺に決定権をパスしたのだが「特にないかな」と跳ね返される。


結局、僕たちが映画館に着く時間にタイミング良く上映が始まるものに決まった。


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