第6話 居残り練習

十一月も下旬になると、グランドに吹く風は優しさを知らない。全体練習の後、一人残ってシュート練習をする僕のやる気を削ぐかのように、冷たい風が体を刺激する。


余計なことしなくても、もうすぐ帰るから。僕は見えない何かに向かってそう訴えていた。日曜日の今日は、全体練習は午前で終わり、午後からはオフとなっている。普段こういう日は、午後からトレーニングルームに行き、もう一汗かくのがルーティンなのだが、今日は違う。付き合い始めておよそ二週間、渡辺との初デートが待っている。


僕は、リフレッシュの重要性についてよく理解している。サッカーのパフォーマンスを高めるためには、息抜きも必要なのだ。昨日の練習試合の疲れも残っていて、身体を休めるにはちょうど良いタイミング。要するに、僕は彼女とのデートでさえ、サッカーにプラスに働くよう考えているのだ。


よし、最後の一本蹴って終わろう。僕はボールをセットし、腰に手を当てた。ゴールまではおよそ二十メートル。インサイドから蹴り込み、ボールにカーブ回転をかけ、ゴールポストの枠外からゴールの中に落とし込むイメージ。


集中――集中――「ふっ」と息を吐いて、短い助走から右足でボールを蹴り上げる。


「ガシャッ」


ボールはゴールポストのはるか上を外れて、ゴール裏のフェンスに直撃した。


――何だ今の。僕は呆然と立ち尽くしていた。自分が思い描いたシュートとボールの軌道があまりにもかけ離れている。ただのシュートミス、その一言では言い表せない嫌な感覚が残った。今までのサッカー人生でもこんな経験は思い当たらない。


疲労が相当溜まっているのか。最近、否、一か月前のあの選手権予選のあたりから、何となく調子が悪い。体が思ったように動いてくれない、そんな気がする。もしかするとこれがスランプというものなのか。今からせっかくのデートだというのに、なんだか気分が沈んでしまった。

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