第5話 帰宅
「ブーッブブ」
LINEの通知音に胸をときめかせながら、僕はスマホを手に取った。
『まじか!おめでとう!』
なんだトッチーからか、思わずスマホをベッドに放った。家に帰ってから、渡辺とトッチーにLINEをしている。渡辺と付き合うことになった件はみんなには黙っておこうと考えていたが、トッチーには報告しないわけにもいかなかった。トッチーも誰かに言い触らしたりはしないだろう。
「ブーッブブ」
再度の通知音に、僕は今度こそはとスマホを掴む。
『どんな感じで告ったん?(笑)』
またトッチーだ。とりあえず返信しておくか。そう思い、トーク画面を開こうとした。
その時、「ブーッブブ」トッチーからのメッセージを覆うように、新たな通知が届く。ネコのアイコンが目に入った。
『こちらこそ、これからよろしく』
文章の最後には、スマイルマークがついている。渡辺からの返信だ。
僕は思わず顔が綻んでしまった。本当に彼女と付き合うことになったのだ。そのことを改めて実感すると、胸が熱くなってくる。「彼女への返信は早すぎてはいけない」そんな話をどこかで聞いたことがあったが、僕は返事を打たずにはいられなかった。
僕は、クラスのみんなには付き合っていることを黙っておこうと考えていること、訳あってトッチーにだけは教えていることを渡辺に伝えた。しばらくして、渡辺からメッセージが返ってくる。内容は、僕の考えに賛成してくれること、実は同じクラスの相本には、今日のことを伝えているというものだった。
渡辺によると、相本とは幼馴染の関係にあるらしい。言われてみれば、二人が教室で会話している姿はよく目にしていた。おとなしいタイプの渡辺に対して、相本はクラスの中でも目立つ存在。そんな二人が仲良くしているのを見て僕は意外に思ったこともあるのだが、幼馴染と聞いて合点がいった。
しかし相本に今回のことが知られたのは、僕にとって少々気がかりでもある。相本と僕は、前期のクラス委員で同じ体育委員になり、それがきっかけで話をする仲になった。初めは委員会の仕事のことで話す程度だったが、次第にプライベートな話をすることも増え、LINEでもやり取りする間になっていった。
しかし今では以前のように連絡を取り合うこともない。夏休みに入る前、最後の体育委員の仕事を終えた後で、僕は相本から告白された。告白といっても、「私たち、付き合ってみない?」そんな軽いノリだったと思う。僕はそれを断った、サッカーに集中したいからと断った。
僕の返事に、相本は一瞬、戸惑った様子だった。当然だと思う、学年の中でも相本は、美人として知れ渡っている存在。そんな相本からの告白を断るなんて、僕のほうが間違いなくおかしいのだ。
僕だって相本のことを可愛いと思っていたし、相本と会話するのは楽しかった。相本と一緒にいると、時間の経過とともに自ずと彼女のことを好きになっていく、そんなことは分かりきっていた。ただ僕には、それが怖かった。僕の中での優先順位は、常にサッカーが一番でないといけない。相本と付き合ってしまうと、その優先順位が揺らいでしまう気がして怖かった。
僕は相本から告白された件について誰にも話したことはない。相本の方も同様であろう。つまり渡辺もそのことを知らないはずだ。渡辺には悪い気もするが、この事実は隠したままでいようと思う。
ただ僕がサッカーのことを一番に考えていることは、渡辺にも理解して貰わなければならない。周りのカップルみたいに、毎日一緒に帰ったり、頻繁にデートしたりは難しい。
そういえば、トッチーからのLINEにまだ返信していなかった。僕はトッチーとのトーク画面を開いて、文章を打つ。
『次はトッチーが相本に告白する番!』
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