第三話 名誉ある死 2
山を下りて街へと向かう。
街をぐるっと囲むように壁があった。
「なんか、ある。取り囲むような?」
街に近づくにつれて、何か違和感があった。薄いヴェールが街全体を覆っているようだった。
「さっそく目の訓練をした効果があったみたいだ」
アランが頷く。
「これは、結界?」
「そう、もしかしたらエミーリア、君は結界に関していえば私よりも上達するかもしれない。なにせ君は百年もの間、城一つ分の強力な結果を張り続けていたわけだからね」
「そうだけど……」
自分が意識的にやっていたわけではない。
「別に侵入を拒んでいるわけではないようだ。感知結界かな」
「入っても大丈夫?」
「入ったことが向こうにわかるだけだ」
「それって大事なことなんじゃない?」
「どうかな。少なくとも魔術師がいるということだ。ただ通るだけなら何も言わないだろう」
「うーん」
私が言うことではないけど、アランは少し他の魔術師に対して信頼をしすぎているような気がする。アランが自分で言っていたように、私たちの時から百年が経ち、少々野蛮になっている可能性は十分にある。
「いっか」
その心配を頭から避ける。
「入ろう」
結界がありそうなラインの空間に手を触れる。
「エミーリア!」
「え?」
その瞬間、何かが弾けた。
アランが空いている手を頭に持っていく。
「ああ、君は」
「私、何をしたの?」
「君は結界を破壊したんだ」
「え!?」
そういえば、さっきの違和感がなくなっている。
「しかし、これはどうしたものか。君はそういう性質を持っているのか、参ったな」
「性質って?」
「君は結界に対して過敏になっているようだ。結界は自分と他者を分かつもの、それを君は許容できない。だから、他人の結界に触れるとそれを受け入れられなくなって破壊してしまう。君を上回るような結界を作れる魔術師は数えるほどしかいない」
「それじゃあ」
「これは早急になんらかの手を打たないといけない。そうしないと行く街々でトラブルを起こすことになる」
「うん」
「ほら」
アランが街の奥を指す。
中心部の方から二人組が駆け寄ってきた。
「おい、お前ら!」
二人は銃身の長い銃を構えている。その銃口を私たちに向けた。
「魔術師だな?」
「落ち着いてくれ、誤解だ」
「杖に触れるな。ゆっくりと手を上げろ」
「……わかった。エミーリアもそうしてくれ」
「うん」
アランと私が両手を上げる。
二人組が背後に回る。
「それで、どうしたらいい?」
アランが冷静に二人組に話しかける。
「ついてこい」
背中に感触がある、彼らの一人が銃口を押しつけているのだ。若干の緊張感がある。横目でアランを見てみたが、彼は自然にしているようだった。
「指揮官に会わせる」
「魔術師か?」
「そうだ」
アランの質問に一人が答えた。隠すつもりはないらしい。
「なぜ?」
「知らん。魔術師同士話をつけろ」
突き放すような言い方だった。普通だったら答えないのではないか。アランが私を見る。それで私も頷いた。どうやら彼らの指揮官含めて、魔術師自体があまり歓迎されていないようだ。魔術師がどのような扱われ方をしているのかは街によるのだろうか。
彼らに押されて中央まで歩いて行く。中央には塔があった。
「中に入れ」
塔に入る。
「上だ」
塔の内部にある螺旋階段を上っていく。最上階まで上る。部屋はさほど広くない。アランと私、私たちを連れてきた二人組、そしてそこにいる男の人の五人でかなり狭く感じるくらいだ。
男は窓の縁に腰をかけていた。窓の向こうを見る。街の外、私たちが選ばなかった方の街が見えた。男は私たちの後ろに声をかける。
「下がっていい」
二人組はそう言われて下りていった。
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