第二話 魔術師の資質 9

 街に来て三日目になり、私たちは荷物をまとめた。

 ケーリュの家に行き、ケイオンも合わせて四人で街を出た。ケーリュは長い杖を持っている。農地を横切り、林の中に入る。そこまでは道も整備されているようだった。

 林の中に、開けた場所があった。

 そこにはアーチ状に組まれたレンガ積みの建築物があった。

 二人が並んで通り抜けられるくらいだ。

「確かに魔素が他の場所より濃い」

 アランが言った。その差は私にはまだわからない。

「これが転送門だ。場所によって多少の形の違いはあるが、大体は似たようなものだね。それじゃあ準備をするよ」

 ケーリュがケイオンから何か袋を受け取り、腰を屈めてその中身を掬って地面に落としていく。石灰のような白い粉だ。

「石で書いておけばいいんだろうが、この辺りは獣がいてね、都度書かなくちゃいけない」

 建築物を囲むようにケーリュは一周して石灰を撒いていく。

 あまり時間はかからず、準備は整ったようだ。

「では、開く」

 ケーリュが杖でトンと地面を叩く。

 アーチに白いヴェールがかかる。

「さあ、行ってくれ。入ればすぐに向こう側の転送門に着く」

「ありがとう」

 私がケーリュとケイオンに向かってお礼を言う。

「ただ、あまり次の街は気に入らないかもしれないな。特にあんたみたいな魔術師にとっては」

 ケーリュはアランを見ていった。

「どういうことだ?」

「行けばわかるさ」

「わかった」

 アランが私の手を取ろうとしたところで止め、ケーリュを見た。

「互いの選択に、最良の祝福を」

 アランの言葉を聞いて、ケーリュは苦笑いをしているみたいだった。

「懐かしい。久しぶりに聞いた。まあ、そうだな、互いの選択に、最良の祝福を」

 アランと同じく返した。彼らには理解ができるフレーズなのだろう。

「行こうか、エミーリア」

「あの」

 アランと一緒にアーチをくぐろうとしたとき、ケイオンが声を掛けた。

 アランが先に振り返る。

「なんだい」

「良い魔術師になるには、どうしたらいいですか?」

 ケイオンが聞いた。

 アランが一瞬だけ考え込む。

「良い魔術師になるには、そうだな、強い意思を持って、諦めないことだ」

「諦めないことですね、ありがとうございます!」

 ケイオンが深々と頭を下げた。

 それをケーリュは黙ってみていた。

「それじゃあ」

「じゃあね」

 私とアランはアーチに向き直し、一歩踏み入れた。

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