第二話 魔術師の資質 7
翌日。
朝早く起き上がる。左側でまだ眠っているアランの手を離す。アランの寝相が良くて助かった。私の方がどうだったかはわからないけど。
「アラン、私、外を歩いてくるね。パンがあれば買ってくる」
アランが動かないので、一応寝息を確認してからドアを開ける。
外は昨日よりは人がいた。みんな朝型なのかもしれない。通りがかった人に自分が旅人であることを告げ、パン屋の場所を教えてもらった。やはり旅人はここでは珍しいらしい。ケーリュは私たちの来た方向には何もないというようなことを言っていた。私たちがいた城は百年間は姿を消していたから、街にいる人もそういう認識だったのかもしれない。
街の東側にあるパン屋でパンを二人分買って、宿屋のある西側に向かっていた。袋から良い匂いがする。
「エミーリアさん!」
背後から声をかけられる。
「ケイオン」
「はい、奇遇ですね」
私をみかけて走ってきたのか、ケイオンは息を切らしていた。
「うん、ちょっと散歩とパンを買いに出かけていて」
「そうですか、街にパン屋は一つしかないですけど、僕は美味しいと思います」
「それはよかった。アランも喜ぶと思う」
そもそもアランはほとんどご飯を食べなくてもいいんだっけと思いながら返す。ケイオンが少し恥ずかしそうに下を向いて、それから私を見ていった。
「あの、少しだけ、お時間いただけますか?」
「え、うん」
「じゃあ、あそこで」
ケイオンが指さす先に街の中央に設けられた広場があり、ベンチが置かれていた。
二人で横になってベンチに腰を掛ける。
「あの、エミーリアさんは魔術師なんですよね?」
「うん、といっても修行中だけど」
修行中、まあ修行中というのはそれはそうだろうと自分に言い聞かせる。
「どうして魔術師になろうと思ったんですか?」
昨日のアランのケイオンに対する評価を思い出す。
「えーっと、どうしてだろう」
私は才能があって、それに向かって努力をして、紆余曲折あって今いるだけで、人に言われて立派な動機があったわけではない。それはアランにも忠告じみて言われたことだ。魔術師とは職業ではなく、意思のあり方なのだと。そうであるなら、私はまだ決意が足りないのかもしれない。
「ケイオンは、どうして?」
「僕ですか、人を助ける仕事だから、です」
「でもそれは魔術師じゃなくたって」
「そうですね、そうかもしれません。でも僕にとって、やっぱり魔術師は特別なんです」
ケイオンが両手を組んで下を向いた。
「三年前、この街で珍しく大きな竜巻が起きました。それで、いくつかの建物が崩れたんです。その中に僕が住んでいた家もありました。僕は両親と一緒に生き埋めになったんです」
ケイオンが続ける。
「街のみんなが僕たちを掘り起こそうとしました。でも人間の力ではどうしようもなかったんです。そのとき、師匠が来て、魔術で崩れたレンガを動かしてくれたんです。師匠が魔術師であることは親から聞いて知ってしましたが、あんなことができるなんてびっくりしました」
物質を自分の意のままに動かす魔術は一般の人がイメージするよりそこそこ高度なものだ。それも人が動かすことのできない重さならなおさらだ。準備もなくそれを行えたとしたら、やはりケーリュはそれなりの魔術師であるということだ。
「結局両親は間に合いませんでしたが、それでも僕は助かりました。だから、僕もそういう人助けができる魔術師になりたいんです」
「それは、良いことだと思う」
「僕はそれだけです。単純な理由ですよね」
ケイオンが立ち上がる。
「師匠以外の魔術師に会えてよかったです」
「私は何も」
「いいえ、ありがとうございます。じゃあ僕は師匠のところに行きます。明日、お待ちしていますね」
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