第二話 魔術師の資質 6
「あんな言い方しなくていいでしょ」
宿屋に行き、二人用の部屋を用意してもらった。
アランはケーリュから貸してもらった本をずっと読んでいる。
「ええ、いや」
曖昧な返事をアランがする。
「だから、あのケイオンって子に。魔術師になりたいって言っていたのに。冷たくしすぎじゃない?」
「だから、だよ」
アランが本を閉じて私を見る。
「エミーリア、君にはまだ魔術師の目が育っていないようだね。どこかで訓練しないといけないかもしれない」
「どういうこと?」
大きく息を吐く。
「ケイオンと言った彼は、魔術師にはなれない」
「えっ? どうして?」
「魔術師になるための最低条件は?」
反対にアランが質問をする。
「ええっと、それは、魔力の量がある程度あって、魔素と接続できること」
私が通常時にできないのは後者だ。
「そう。彼にはそのうち、魔力の量が足りていない。せいぜい、一般人より多少ある、くらいで、魔術を適切に扱えるだけの量ではない」
「それは」
「どうしてわかるのか、と言いたいんだね。ケーリュが言った通り、『魔術師には魔術師がわかる』だよ。魔術師は魔力と魔素を見ることができるのだから、相手が上手に隠していない限り、魔力の総量は面と向かい合えば大体わかる。君みたいな例外はきちんと調べないとわからないだろうけど、彼はおそらくそういうものではない。だから、彼は努力をしても魔術を満足には使えないだろう」
「でもそれって」
「当然ケーリュは知っているはずだ。そしてそれをケイオンは知らない。ケーリュは意図的にケイオンに伝えていないんだ」
「そんな……」
あんなに明るそうに、はっきりとして魔術師になりたいと言っている彼を弟子にしながら、ケーリュはそれを言わないのだ。
「それを悪だとは思わないけどね。君ならどうする? 魔術師を志望する人間に、あなたには魔術師としての適性がないから、諦めなさいと言える?」
「でも、いつか」
「まあそうだね、奇跡が起きないとは限らない。後天的に魔力総量が増えることも絶対ないとはいえない。そういう事例がないわけでもない。でも例外中の例外だよ。それに私たちが立ち入るべき問題でもないように思うね。いずれケーリュだって隠し続けることはできなくなるだろう、それまでの話だよ」
「うん……」
アランに言い返せることはなかった。
「君はケイオンに自分のことを重ねているかもしれないけど」
「それは、うん、そうかも」
「転送門は明後日だったね、明日はゆっくりしていよう。私は部屋でケーリュから借りた本を読んでおくよ。百年分の魔術を覚えないといけない。せめて転送門を自力で起動できるようにはしておきたい。もし街から出るようなら先に言っておいてくれ、あまり離れるわけにもいかないからね」
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