第一話 途中の始まり 12

 荷物を引きずって廊下を歩く。私が持てる荷物はそれほどない。ほつれを直した服が多少あるだけだ。全く使っていなかった金貨が机の引き出しにあるのを見つけた。

 城の門の前ではアランが待っていた。

「さあ、行こうか」

 私が先頭になって門を出る。普段ならこの辺りで頭痛がしてくるはずだった。

「手を」

 横に立ったアランの右手を私の左手が掴む。

「手を伸ばして」

 アランに従って右腕を伸ばす。

「そうであるかのように、願う。認識を変える」

 恐る恐る足を進める。遅れてアランがついてくる。

 イメージは、別れ。

 私を閉じ込めていたのではなく、私を守っていてくれた城と結界にお別れを告げる。

 もう一歩。

 今まで一度も出たことのないラインを踏む。

「出られた!」

 思わずアランの手を離してぴょんと跳ねてしまう。

「やった!」

 後ろを振り返る。

 アランも嬉しそうに笑っていた。

 アランもきちんと生きている、死んではいない。

「おめでとう、かな、エミーリア」

「うん!」

「さて、どこに行こうか、中央都市はまだ健在だろうか」

「私は自分の家がどうなっているか見たいな。少しは思い出が残っているかも」

「そうだね、そうしようか」

 アランが追いついてくる。

 再びアランの手を取る。心なしか以前より温かみがあるように感じた。

 お互い見つめ合う。

「行こうか、私の主、そして愛しき妻よ。死がふたりを分かつまで」

「行きましょう、私の従者、そして大切な旦那様。死がふたりを分かつまで」

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