第一話 途中の始まり 7
「いや、無理!」
私の部屋で、私はベッドに横たわっている。そのそばでアランがベッドの私に背を向けて腰を掛けている。私の左手をアランが握る。ひんやりとした感触が伝わってくる。
「無理と言われても」
アランが苦笑した気がした。
アランが言ったレッスンとは、この状態でただ眠るだけのものだった。
ただ?
だけ?
いやいやいや。
もうずっと一人で眠ることになれているし、そもそも男の人とこんなに接触して眠るなんて小さい頃でもしたことがない。
「むりむりむりむりー!」
足をバタバタさせる。
「エミーリア、落ち着いて」
「無理! 寝られるわけない!」
「眠れるよう魔術をかけてもいいが、君は魔術が使えないかわりに、外からの改変にも耐性がある。外側から影響させることも難しいんだ」
だから私が眠って無防備な状態のときに魔術をかけようというのだ。
「なんで改変なんか」
「君が接続できないのは、おそらく魂に壁があるからだ。それを少しずつふやかして、剥いでいく」
「でも他の人だって」
いろんな人がいろんな方法を試してきたのだ。
「大丈夫、私を信じてくれればいい。安心して眠ってほしい」
「そんな」
「この状況に慣れるところからスタートかな」
アランが強く手を握る。
「わかった。頑張るから今は何か話をして」
「たとえば?」
「ええっと、街の話とか」
「いいよ、私が知っていることならね」
アランの話はどれも私にとっては新鮮なもので、興味深かった。結局一時間以上経っても眠ることができず、アランは今日はここまでにしようと言い、部屋から出ていった。
目が冴えてしまった私はじっとベッドにいて、そのまま朝近くまで起きていて、そしていつの間にか眠っていた。
私は霧の中にいた。
すぐに夢の中だということがわかった。
目の前に、うずくまっている小さな私がいたからだ。
十歳くらいだろうか。
彼女は泣いている。
何もできず、塞ぎ込んでいる私だ。
手を差し伸べて頭を撫でようとするが、距離はないはずなのに手が届かなかった。それどころか離れていく気すらする。
「ねえ」
声をかけてみる。
彼女が顔を上げた。
幼い顔で私を見上げている。
「なに?」
「どうして、泣いているの?」
「泣いているの?」
彼女がオウム返しをする。
「そう、泣いている理由を教えて」
「閉じ込められたから」
城のことだろうか。
「どうして、閉じ込められたの?」
彼女に聞いてみる。
「閉じ込められたの?」
またオウム返しだ。
「違うの?」
「違うけど、違わない」
彼女が言う。
「どういうこと?」
彼女が私を指さす。
「私が閉じ込めて、私が閉じ込められたの」
その言葉で夢の中の意識が遠のいていった。
目を覚ます。
今度は現実であることがわかった。右手で目元を拭う。彼女と同じく、私も泣いていた。
「アラン」
私の左手を握っていたアランに声をかける。彼は膝をつき、両手で私の手を握っていた。
「戻ってきてたの」
「その方がよさそうだったからね」
優しい顔で彼が微笑む。
彼の言う通り、私が寝てから来てもよかったのだ。
「夢を見た。私がいた。昔の私。あれはアランが見せた夢なの?」
「夢自体は君が見たものだ。どんな夢を? 覚えている範囲でかまわないから」
夢なのにはっきりと覚えている。
「私がいて、私が私を閉じ込めたって言っていた」
「思い当たることは?」
「わからない。どういうことだろ」
「そう、明日以降も続けよう。君は君と対話をするんだ」
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