第一話 途中の始まり 5

 食事を終えて、今日の私は食卓を掃除することにした。ここでアランと一緒に食事をするのだ。二週間が長いか短いかはまだわからないが、向かい合って誰かと食事をするのは久しぶりで楽しみだ。私が知っているのは本の内容ばかりだからアランにはつまらないかもしれないけど、アランが知っているであろう外の世界、とりわけ中央都市での生活がどんなものだったかを聞きたい。そうだ、テーブルクロスを洗濯しよう。それに部屋のどこかに花瓶があったはず、庭に何か花は咲いていただろうか、いつもはそのまま眺めるだけだったけど、食卓に持ってくるのもきっと悪くないはずだ。適当に案内してしまったが、アランの部屋も掃除した方がいい。とりあえずシーツは新しいものにしたが、もっと上等なものがあったはず。

 どんどんどんどんいろんなことが頭に浮かんでくる。どれも今までの生活ではなかったことだ。明らかに浮かれているのを実感するが、軽くなる足と身体は抑えようがない。

 午後になり、アランを連れて城を案内した。私一人では広すぎるが、二人になれば半分だ。そんなわけのわからないことも思った。城を案内するのは自分の部屋を案内するのと同じだ。どこに何があるが、完全に記憶している。

「それでね、この主人公が、味方を集めて、その味方っていうのがすごく魅力的で、それで色んな問題を解決していくの! この世界は魔術師がいない世界なんだけど、その代わりに一人一人に不思議な力があって、それが面白くて、でもこの城には最後の方がなくて、主人公がどうなったのかがわからなくて、城を出たらこの続きを探したいの」

 書庫で私の読み過ぎてもう内容もほぼ暗記している好きな冒険譚の説明をしていたときアランが聞いてきた。 

「ここの前の持ち主のことは?」

「私は全然。そっか、持ち主がいたんだ」

 今さらながら当たり前のことに気づく。

「まあ、覚えていないのならそれはそれでいいか」

 アランが独り言のように言った。

「覚えていない? 知らないじゃなくて?」

「いやこちらの話だ」

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