第6話
昼休憩になった。
正雄はコンビニ弁当を持って工場裏にある河川敷へ行った。
工場内の食堂よりもこっちの方が涼しいのだ。
他所の工場からも人が沢山来ている、皆よく知っているのだ。
正雄は適当な場所を見つけ弁当を開けた。
河川敷の下の方から変なものがゆっくりと上がって来る、霊魂だ。
最近たまにだが霊魂を見るようになった。
あのアパートに入居してからだ。
自分の中にあった霊感と言うヤツが覚醒して来ているようだ。
霊魂に気付いても、気付いてない振りをしないといけない。
気付くと大抵寄って来るし、悪くすれば家まで着いて来るのだ。
こいつ等に拘って良いことなど一つもない。
苦しいから助けてくれ、話を聴いてくれ、などと必ず何か求めて来る。
それも己のペースで、こっちの迷惑など考えもしない。
自分以外のコトは受け入れようとしないので、勿論こちらの話など聴きもしない。
だから何時まで経っても成仏出来ないのだ。
正雄からすれば、面倒くさいだけの存在だ。
結局佐代子もそうだった、正雄の提案に耳を傾けようともしない。
最近では少し慣れたのか、簡単な世間話には応じるのだが、事の原因に少しでも触れると、頑なに受け入れようとしないのだ。
下から上って来る霊魂は、ゆっくりとした動作で河川敷に座っている人間を、一人ずつ眺めながら近寄ってきた。
気付かない振りをした。
何だぁコイツは?
太平洋戦争当時の軍服だろうか、服はボロボロで判断出来ないが、かろうじて帽子から判断出来る。
正雄は目を合わせない様に努めた。
その時正雄から五、六メートル程離れて座っていたおじさんが通り過ぎた軍服の霊魂を一瞬振り返って見たのだ。
ほんの一瞬の動作ではあるが、正雄は気付いた。
あのおじさんには見えている。
軍服の霊魂が近づいて来た。
必要以上に顔を眺め回して来る、キモイ。
しばらくして正雄の耳元まで来て「気付てるの、分かっているから…」と囁いたのだ。
「分かっとるなら、わざわざ眺め回して来るなや、クソが」
思わず正雄は軍服の霊に言い返した。
「くふ、ふふふ、すぐ分かったから…」
「なめとんのか、キモイのう」
いきなり大声で怒鳴り始めた正雄の方を、河川敷に居る人達が変な目で見ている。
それもそうだろう、正雄が独り大声を出して居ると思われているのだ。
頭がおかしくなったのだろうと思われているに違いない。
「向こう行けや、クソがぁ」
「おー怖い、おー怖い、ひひひひ」
そう言いながら軍服の霊はまた、ゆっくりとした動作で向こう側に消えて行った。
正雄は皆の目が気になって、弁当も食べて無いのに工場へ帰るコトにした。
「アレはね、浮遊霊と言うのだよ…」
いつの間にか正雄の隣まで来ていたおじさんが言った。
「やっぱり見えていたのですか」
「まぁね、気付かない振りしないと、ほら、あとあと面倒だしさ…」
「ですよね、アイツら自分のコトしか言いませんからね。疲れますわ」
「でも君のさっきのヤツ。危険な行為だよ」
「そうですか、甘やかしたらダメでしょ」
「そうだけどさぁ、今回はたまたま大人しく離れて行ったけどね、浮遊霊は障るから」
おじさんは田島と名乗った。
霊のコトでも色々と詳しそうだった。
正雄が分からないコトを沢山知って居そうだ。
正雄はまず、自分の経緯を話した。
それを優しく聞いてくれた後で今度家へ遊びにおいでと誘ってくれた、その時にゆっくり話をしようと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます