第2話 帝王切開の準備とかしてなかった
私自身も帝王切開で産まれた子だったので不安はなかったが、手術開始前は自分の足が少し震えているのがわかった。麻酔科医の先生と助産師さんがぎゅっと手を握ってくれた。
「はい、頭出てきたよー、あっ髪の毛生えてるよ!」
〈か、髪の毛生えてる⁉〉
その瞬間、先生が赤ちゃんを空中に取り上げるのが見えた。
助産師さんが娘の体を拭いて、横に寝かせてくれた。確かに髪が濃い。ギャアギャアと大声で泣いている。私も泣きながら、
「頑張った、頑張った」と、元気に産まれてきた娘に話しかけたのだった。
産婦人科ではその後も出産ラッシュが続いたようで、入院部屋が満室となり、術後は陣痛室の隣の待機部屋で寝ることになった。
二十四時間安静にしていなければならないが、どんどん激しくなってくる術後の痛みを少しでも紛らわしたくて、
「何でもいいから雑誌を買ってきて」と夫に頼んだら、売店で買った雑誌の袋を机の上に置いてくれた。
夫が仕事に戻っていった後、助産師さんに「机の雑誌を取ってくれますか」と聞くと、
「美味しんぼの漫画みたいですけど、いいですか?しばらく食事はとれませんけど……」
夫は二人でよく読む漫画を買ってきたのだった。
〈美味しんぼは好きだけど…今じゃない……〉
「…あ、じゃあやっぱりいいです……」
買ってきてくれたという事実には感謝しつつ、その日は隣室から夜通し聞こえてくる、出産間近のお母さん達の陣痛のうめき声に、
〈頑張れえ…〉と心の中でエールを送りながら、眠りについたのだった。
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