誕生日

小酒井ナミ

第1話 出産予定日一週間越え

七月三十日の出産予定日から一週間が過ぎ、八月に突入した。

三十歳で結婚、三十五歳で妊娠したのだが、産婦人科の担当医の先生は、高齢出産を控えてあれこれと心配する私の様子を察してか、

「しちゃいけないことはほとんどないですからね、ゆったり過ごしてください」

と七福神のえびす様のような顔で話してくれた。


日中は夫の自営業を手伝っていたので、出産予定日を過ぎてからも働いていた。

「お母さんのお腹の居心地がいいんですね」

従業員の先輩ママさんがそう言ってくれた。

しかし私は毎日気が気でなく、

「もう産まれてきていいんだよ~」とお腹の子に話しかけつつ、陣痛が来るようにと、近鉄四日市駅の周辺をウロウロと歩き回っていたのだった。


八月六日の昼、検査入院のため市立四日市病院に着くと、

「少し食べていったら」と夫がバナナを手渡してくれた。お腹がすいたら食べようと思い、先に検査を受けると、検査結果から緊急帝王切開の必要があると言われ、私と夫はあっけにとられた。担当医の先生が汗だくで待機部屋に入ってきて、

「十年に一度くらい、こういう日があるんだよね」とタオルで汗を拭きながら言った。しばらく出産ラッシュが続いているとのことだった。

一緒に手術を担当する女性の先生が続いて入ってきた。白衣のポケットに手を突っ込み、医療ドラマに出てくるようなクールな先生の登場に、私も夫もますますあっけにとられた。

「食事はされていませんよね」

そう聞かれ、私は手に持ったバナナを夫に押しつけながら、

「はい大丈夫です」と返事をしたのだった。

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