第15話 今世紀最大の危機
中間テストの結果が発表された。俺の順位は学年8位。ちなみに前回は17位。実は1年の学年末テストはかなりヤバかったんだよね。20位以下になってないか、順位が出るまでハラハラだった。
専属執事になったおかげで、バイトを減らしたぶん勉強に時間が割けるようになったのが大きいな。
「う~っ……」
順位表を見ながら唸っているのは隣の席の倉橋さん。
「倉橋さん、何位だった?」
「……教えない」
持っていた順位表をクシャっと丸めてしまった。
「いや教えてよ!勉強を教えている立場からも知っておかなきゃダメでしょうが」
「ぐぅ~っ……151位」
なぜか絞り出すような声を出す倉橋さん。2年生は全部で220人だから、平均よりちょい下か。
「なら前回よりだいぶ上がってるじゃん。別にそんな悲しそうな顔しなくても良いでしょ?」
1年の学年末は193位だったからね。それを考えたら大幅上昇だ。
「でも……藤野くんに教えてもらっているのにこんな順位なんて……私のことバカだと思っているでしょ?」
少し涙目で俺を見る倉橋さん。眉も垂れ下がってて、いつもの弾けるような可愛さとは別の可愛さがある。
「思ってないよ。教えたことはちゃんと理解できてるし、記憶力だって悪くない。今まで授業を集中して受けてなかったから成績が悪かっただけだから、これから少しずつ良くなっていくと思うよ」
ズルいなぁ、そんな顔されたら慰めたくなってしまうじゃないか。無意識に頭を撫でてしまいそうになって慌てて右拳を握り締めた。
その日の放課後、再び村上に呼び出された。だが今回呼び出された場所は職員室ではなく進路指導室だった。他の教師に聞かれたくないことだろうか?
「失礼しまーす」
今回は何を言われるのかと警戒しながら部屋に入る。
「よく来てくれたね、待っていたよ藤野君」
椅子に座っている村上が満面の笑みで俺を迎えた。藤野クン?この先生に君付けで呼ばれたの初めてじゃないか?ていうか笑顔が気持ち悪い。
「用件は何ですか?」
テーブルを挟んだ反対側の椅子に座った。この距離なら村上の思考カードを見ることができる。
「……その、実はな、この間の話なのだが、どうも倉橋さんの御父上から誤解を受けてしまってな、私が前沢家から賄賂を貰っているのではないかと疑われているのだよ。もちろん!もちろんそんなことはしてないぞ。教師である私がそのようなことをするはずないからな!」
『誤魔化すしか』『言いくるめて』『こいつなら』
「はあ……」
俺が何も知らないと思っているのだろうな。
「倉橋家と前沢家で今回の件について話し合った結果、全ては前沢兼人の虚言だということで決着がついたようなのだ。それで何故かは知らないが、前沢家側が私に金銭を支払ったなどと言い出したようで、倉橋さんの御父上から問い合わせが来てしまっているのだ。お前、倉橋家の執事だろ?御父上に話をして誤解を解いてはくれないか?」
『こいつが言えば』『20万は返すしか』
「知りませんよ。俺が先生を庇う理由ってなにかありましたっけ?」
「担任にそんな冷たいことを言うなよ。頼むよ、ちょっと口添えしてくれれば良いんだから、なっ、この通り!」
『クソガキが』『調子に乗りやがって』
そう言って座ったまま頭を下げる賄賂マン。
「ハァ……分かりました。とりあえず
前回の村上の言葉を引用する。
「そうか!いや助かるよ!お前は見所があると思っていたんだ!私の目に狂いはなかったな!」
『それでいい』『チョロい』
俺の渾身の嫌味がスルーされた。
すぐに宗仁さんに連絡すると、帰りに倉橋邸に寄るよう言われた。
「じゃあ一緒に帰ろ~」
倉橋さんに事情を話すと、なぜかノリノリで迎えの車の後部座席に押し込まれた。運転手の佐伯先輩に殺気の籠った視線を頂戴しました。
「初めまして、倉橋琴音です。由依のお母さんです」
倉橋邸に到着し、本物の執事さんに案内され応接室に通されると、倉橋さんに似た綺麗な大人の女性に挨拶された。
「は、初めまして、藤野真言です。お嬢様にはいつもお世話になっております」
ドギマギしながら挨拶を返した。だって凄いんだよ、特にお胸が。倉橋さんもドンッて感じで立派なモノをお持ちだけど、お母様のはドーンッ!て感じ。何カップとかはよく分からないけど、とにかく目を奪われる。しかも若い。年の離れた姉で十分いける。
「娘から色々聞いてますよ、なかなか面白い方のようですわね」
『可愛らしい子』『ロリコン?』『なるほどなるほど』
色々聞いてるって何を聞いたの?とりあえず俺がロリコンっていうのは話してるのね、それは理解しました。
「コホンッ、藤野君、こっちに座ってくれ。例の件について話しておかなければならんからな」
「先ほど連絡しましたが、担任から口添えを頼まれました。自分はお金など貰っていないと言ってます。まあ僕は信じてませんが。それと今回の件、話が付いたと聞きました。お手数をおかけしました」
座る前に宗仁さんにお礼を言って頭を下げた。
「どうと言うことはないさ。倉橋家の当主として従業員を守るのは当然のことだ。そうだろ?琴音」
宗仁さんは隣に座った琴音さんに同意を求めた。ニッコリと頷く琴音さん。仲がよろしそうで何よりです。
「でもよく相手が納得しましたね」
「簡単なことだ。『事実関係も正確に把握していないくせに当家の関係者に謝罪を求めるなど、
穏やかにお話し?違う、絶対に日本語の使い方間違ってる。
「担任にお金を渡していたことは確認が取れたのですか?」
「ああ。担任の口座に振り込まれていたからな、簡単だったよ」
「えっ?どうやって調べたのですか?」
個人の口座の取引とか、そんな簡単に他人が見れるもんなの?
「聞きたいかね?」
ニヤリと笑う宗仁さん。ダメだ、これは聞いてはいけない気がする。
「いえ、結構です」
好奇心は猫をも殺す、君子危うきに近寄らず。
「そ、それで前沢建設の社長の反応は?」
なんかもう聞くのが怖い。
「土下座してきたよ、そんなつもりは全くなかったと泣いていたな。汚いオヤジの泣き顔など見たくなかったよ」
うわー……。
「担任に関しては学校の理事たちに話を通した。まあそのうち何らかの処分があるだろう」
哀れ村上、同情はしないけど。
「お話は終わったかしら?だったらちょっと藤野君と二人だけで話がしたいのだけど」
倉橋家の影響力の強さにドン引きしていると、琴音さんが俺の後ろに回り肩に手を置いた。
「ん?琴音、何の話をするつもりだ?私には聞かせられないことか?」
「そんな事はないのだけど、まあ良いじゃない、ちょっと借りるだけだから。藤野君、ちょっとついてきてくれるかしら?」
そう言われて応接室(小)に連れ込まれた。デジャヴー。
「さてと、あまり長くなると由依が心配するだろうから単刀直入に行きましょう。藤野君、あなた何故ロリコンのふりなんかしているの?」
今世紀最大の危機がやって来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます