第7話 専属執事

 俺と宗仁むねとさんが初めに通された応接室に戻ると、彩香さんがテーブルにお茶を置いているところだった。


「皆、待たせて悪かったね。藤野君に色々と確認していて遅くなってしまった」


 笑顔の宗仁さんがソファーに座ると、お茶を出し終えた彩香さんが宗仁さんに詰め寄った。


「宗仁様、この不埒者の処分は決まりましたか?私にどのようなことでも御命じ下さい。例え刑務所に入ることになろうとも必ず遂行してみせます」


 いやちょっと待って!刑務所に入るって、俺を殺す気満々じゃん!この人さっきから俺に敵意あり過ぎだろ。


「彩香君、なにか勘違いしていないかね?藤野君は不審者から由依を守ろうとしてくれたのだよ?感謝こそすれ、処罰などするわけないじゃないか」


 ハッハッハッと笑いながら彩香さんを宥める宗仁さん。落ち着け彩香、どうどう。


「宗仁様!この者の妄言を信じるのですか!?」


 青筋浮かんでますよ~。


「信じるもなにも、それが事実だからね。身を挺して娘を守ろうとしてくれた藤野君に私は深く感謝している。残念なことに不審者は逃げてしまったから藤野君の主張を立証することはできないが、私は藤野君を信じることにした」


「なっ!?」


 宗仁さんの言葉でフリーズしてしまった彩香さん。


「信じてもらえて良かったな真言まこと


 和人だけが良い笑顔だ。こいつのロリコン提案がなければ、かなりマズい状況に陥っていた可能性が高い。本当に感謝してもしきれない。


 当事者であるはずの倉橋さんは、お茶請けの煎餅をバリバリ食べながらお茶をすすっていた。

 しっかし、美少女って何してても目を引くよね。ただソファーに座って煎餅を食べているだけなのに、まるで映画のワンシーンのように見えてしまう。こんな状況にもかかわらず目を奪われたよ。


「学校と警察にも不審者が出た旨を報告し、警戒を促すことにする。藤野君、不審者の顔は覚えているかね?」


「……えっ?!あっ、はい。しっかり覚えてます」


 あぶない、倉橋さんに見惚れて一瞬意識が飛んでた。


「警察に聞かれると思うので、そのときは協力してほしい」


「わかりました」


「皆も当分の間気を付けるように。特に由依、その男が偶然由依を狙ったのか、倉橋の娘と知ってて狙ったのか現時点では判断できん。しばらくの間、登下校は彩香君に送ってもらうように」


「ふゎ~い」


 煎餅を頬張りながら気のない返事をする倉橋さん。緊張感ないなこの人。


「それともう一つ私から話がある。藤野君を由依専属の執事として雇うことにした」


「「はいぃぃぃっ?!」」「なな何と!」


 委員長と彩香さんが異口同音の反応、倉橋さんは本当に驚いているのか微妙な反応。


「学校内に限り、世話係兼ボディーガードとして働いてもらう。学習の補佐もしてもらうことになっている。授業で解らなかったところを教えてもらいなさい」


「えぇ~っ!いらないよ~そんなの」


 学習の補佐と聞いて倉橋さんが急に拒絶しだす。


「由依、最近お前の成績が下がっていることを私が知らないとでも思っているのか?学校から全部報告を受けているぞ」


「ぐが~っ!バレてたぁ~!」


 頭を抱えながらソファーの背もたれに倒れ込む倉橋さん。どうやらテスト結果とか隠していたらしい。


「おじさま、勉強なら私が教えます。男子を由依の近くに置くのはやはり良くないのでは?去年のこともありますし……」


「鈴音君には今でも十分に世話になっていて有難く思っているが、二年に進級すれば授業も難しくなってくるので自身の勉強も大変になるだろう。これ以上の負担はかけられんよ。その点、藤野君は特待生で成績もトップクラスだ。由依一人くらいの面倒を見る余裕はあるそうだ。それに多少だが給与も出せるので藤野君も喜んでいる。ウィンウィンというやつだな。それに藤野君はロリコンということなので由依に変な気は起こさないだろうし。そうだよな?藤野君」


「もちろんです!僕は紳士なので」


「いよっ!ロリコン紳士!」


「すみません倉橋さん、ロリコン紳士はやめてください。心臓がキリキリします」


 それにしても彼氏作りの妨害という本当の目的を悟らせずに説得してしまったな宗仁さん。


「でももうすぐ二年になってクラス替えがありますよね、同じクラスになれるとは限らないのでは?」


 そう言えばそうだった。良い所に気づいたな和人。


「学校には私から言っておこう。ここに居る全員同じクラスで良いだろう?そのくらいならどうにでもなる」


 どうにでもなるんだって、さすが大企業の社長さま。

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