第4話 ロリコンなので!

前略、お母さま


俺は今、一時間目の授業を欠席してクラス委員長の鈴音美郷さん、倉橋由依さんとともに談話室にいます。


テーブルを挟んで委員長から抱きつき容疑の件で尋問を受けているところです。取調室で尋問される容疑者の気持ちが理解できました。


委員長は俺のことを性犯罪者だと思っているようです。もちろん違います。


誤解であることを理解してもらうために一生懸命説明していますが能力を明かせないために、いまいち説得力のある説明ができません。委員長の懐疑心に満ちた視線が痛いです。


ちなみに俺はずっとテーブルを見つめています。2人の思考カードを見る勇気がありません。特に委員長のカードは絶対見たくありません。きっと辛辣な言葉が表示されていることでしょう。


背中を刺されるかもしれないという人生最大の危機は去りましたが、社会的に死ぬかもしれないという新たな危機に直面しています。


そして被害者のはずの倉橋さんは、とても楽しそうに室内を歩き回りながらズレた発言を繰り返しています。


よく知らないはずの男子から急に抱きつかれたにも関わらず、テンションが異常に高いのは何故なのでしょう?この人はよく分かりません。



追伸、バイト先でもらったタンドリーチキンがタッパーに入っています。お腹がすいたらレンジでチンして食べてください。






「……なるほどね、藤野君はその男が由依に何かするんじゃないかって思って、あんなことをしたってことね」


「はい、その通りです。ですから委員長の考えるような不純な気持ちがあったわけではありません」


「私、あんなに情熱的に抱きしめられたの初めてです!」


「それで?その怪しげな男はどうしたの?」


「どこかに行ってしまいました」


「でもできれば楽園に呼び出されたかったな~」


「ふーん、どこかにねぇ……そんな人、本当にいたのかしら?」


「いましたよ。委員長も見ているはずです」


「藤野くんは人前でも気にしないんだね~ラテン系?」


「変ね、私にはそんな人を見た記憶がないのだけど?」


「たぶん、俺が急に倉橋さんに抱きついたから、そっちに意識が行ってたんだと思います」


「抱きついたことは認めるのね?」


「いや、抱きついたわけじゃないです。あくまでも暴漢から守るためにですね」


「今夜はお赤飯ね!」


「由依、さっきからうるさい。今は真面目な話をしているのだから黙ってなさい!」


「えーっ、私も会話に混ぜてくれてもいいじゃん!美郷ちゃんはイジワルだ」


「藤野君、どちらにしても今朝のことは倉橋の家に報告しないといけないわ。多くの生徒も目撃していることだし。近いうちに呼び出しがかかると思うからそのつもりでいて」


「マジっすか……」


「本気と書いてマジと読むのだ~!」


「……由依を連れて来たのは失敗だったわ。とりあえず教室に戻りましょ」






誤解が解けたとは言い難いが、ひとまず解放された。教室に戻るとクラスメイトの視線が集中する。ちょうど一時間目が終わった後の休憩時間のようで、こちらを見ながらザワザワひそひそ噂し合っている。


俺はあえて知らん顔をして自分の席に座った。


真言まこと、お前なにやらかしたんだ?倉橋さん相手に告ったとか押し倒したとかスゲー噂になってるぞ」


このクラスで唯一の友人である和人がさっそく話しかけてきた。


「押し倒してなんかない。いくらなんでも尾ひれが付きすぎだよ」


「そうなん?で、真相は?」


和人の目がキラキラしている。楽しそうな顔がムカつく。俺は仕方なくさっき委員長に説明した内容をもう一度話した。




「へぇー、んじゃお前は倉橋さんの命の恩人だな。凄いな真言は!」


俺の言葉を100%信じてくれる和人。友達の有難みをしみじみ感じる。


「でも実際、あの不審者は逃げてしまったし、俺の無実を証明する方法がないんだよ。委員長は信じてないみたいだったし」


「確かに立証は難しいな。真言のことをよく知らなければ、抱きついた言い訳にしか聞こえないからな」


「そのうち倉橋家に呼び出されるらしい。下手をすると俺、社会的に死ぬかもしれない」


「マズいなそりゃ。倉橋の親父さん、この学校にも顔が利くらしいからな。場合によっては停学とか退学処分とかもあり得るかもしれん」


「マジか……」


高校中退か……もともと大学に進学する気はなかったけど、高校くらいはちゃんと卒業したかったな。


「もしかして慰謝料を請求されるって可能性もあるかも」


和人が恐ろしいことを言い出した。


「慰謝料?お金なんてないぞ。ちなみにこういう場合、幾らくらい請求されるんだ?」


「わからん。数十万とか?数百万?」


「無理無理無理!うちにそんな金ないって!」


「ん~っ、じゃあいっそのこと、実は俺、ロリコンなのでそんな気は一切ありません!とか言ってみる?」


「……和人、俺は真剣に悩んでいるんだけど?」


ケラケラ笑う和人の顔にグーパンチしたくなった。




放課後、帰り支度をしていると、今一番話したくない人が話しかけてきた。


「藤野君、きょうこれから予定ある?」


「……別にないけど。何か用ですか委員長?」


「倉橋のおじさまに今朝の事を報告したら、今日これから連れて来るように言われてしまったの。迎えの車がもうすぐ着くから一緒に来てくれる?」


うわ~早速かよ。でもいつかは直接説明しなきゃいけないのだから早い方が良いか。


「ちょっと待った!委員長、俺も付いて行っていい?」


俺たちの話が聞こえたようで、和人が割り込んできた。


「市川君?あなたは関係ないでしょ?」


不思議そうに首を傾げる委員長。


「いやまあそうなんだけどさ、こいつのことは多分俺が一番知っていると思うんだよ。こいつの性格とか普段の様子とかさ、知る必要あるかもしんないじゃん?きっと判断材料になると思うよ?」


クイッと親指で俺を指しながら委員長に交渉する和人。俺を心配して付いて来ようとしているのか?こいつやっぱ良い奴だよな。


「たしかに藤野君のことはあまりよく知らないけど……」


「でしょ?必要ないって言われたらすぐ帰るから。ね、邪魔はしないから連れてってよ」


「……まあいいわ。でも倉橋のおじさまがダメだって言ったら帰ってね」


さっくり言いくるめられる委員長。


「よし!じゃあすぐに準備しろ真言。相手を待たすのは良くないからな」


心配して付いて来てくれるのは心強いんだけどさ、すごく楽しそうな和人の顔に不安を掻き立てられるのは気のせいか?





--------------------------------


会話だけの部分はちょっと分かりづらかったかなと反省しています。


本日はあと3話を投稿する予定です。



フォロー・☆評価・応援・コメントなどをしていただけると、作者のモチベーションが一気に上がります。よろしくお願いいたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る